以前はこんな名前の本がゴマンと本屋に並んでいたものですが、ジェンダーレスの現代においては、こんな題名書いちゃダメなやつです。しかし、まさに本稿の主題となりますのでご了承ください。

 

生殖医療や妊娠出産は究極のジェンダーなのです。いくら外性器を手術することができたとしても、内性器の切除ができたとしても、生物学的な男性には絶対的に子宮と卵巣・卵子は存在せず、生物学的な女性には絶対的に精巣・精子は存在しません。もちろん、レズピアンのカップルが提供精子で妊娠出産し子供を授かることはできるでしょうし、ホモセクシャルのカップルが提供卵子と代理母で子供を授かることもできます。どのくらい時間がかかるかは分かりませんが、これからはこうした法整備や様々なことが徐々に進んでくることになるでしょう。

 

それでも、生物学的男性が流産することはないのです。

 

 

・・・いや、少し詳しい方なら、男性に子宮移植すれば男性でも妊娠できる可能性があるんじゃないかとおっしゃるかも知れません。まあ、その可能性がないとは申しませんが、、、男性に対する子宮移植は、倫理面やドナー問題を置いておいたとしても、そもそもどういうメカニズムで陣痛が来るのかすら解明されていない状況で、生物学的元男性が果たして臨月まで無事に妊娠継続できるか、稽留流産になった場合はどうやって手術するのか、仮に妊娠末期に至った場合でも腸などで出産時に人工膣を作ったとしても分娩に耐えられるわけがないし、百歩譲って無事に帝王切開までたどりついたところで、生物学的元男性がちゃんと子宮収縮して止血してくれるのか、そもそも出血が多かった場合に生物学的元男性に、周産期の生物学的女性と同程度の出血に対する耐性があるとは思えない(出産時に2Lとか出血することたまにありますが、男性なら失血死することでしょう)。子宮収縮やその後の出血の管理、考えれば考えるほど無理がありすぎます。実験的なことがなされる可能性がゼロではないにせよ、一般化することは恐らくないでしょう。

 

つまり話を戻すと、現実的には生物学的男性が流産することはあり得ないのです。

 

 

流産はどのくらい悲しいのでしょうか。筆者は男性ですが、患者患者さんの何千も見てきましたので分かった気になっています。しかし、それでも自分が流産したことはないので、本当の本当のところは分かっていないのだろうと常に自分を戒めてもいます。どのくらい信憑性があるか分かりませんが、一説には、女性にとっての流産は、肉親の死亡に相当するほどの悲しみではないか、という説もあります(肉親の死亡がどの程度のものかも人によるでしょうが)。一方、多くの男性にとっては、少なくともそこまでのものではないでしょう。

 

女性は自分のお腹の中で、自分と愛する男性の愛の証(とは限りませんが)が受精卵の頃なら24時間ずっと自分のお腹にいる、体調の変化に一喜一憂しながら尿検査か採血で妊娠が分かった時の喜び、胎嚢が見え、心拍がピコピコいっているのを見た時の感動、、、、と、それをただパートナーから数日に1回くらい聞いただけの男性では、どれだけ妻想いの男性でも、いくら同じ妊娠が嬉しくても流産が悲しくても、同じレベルの思いというわけにはいかないのは当然のことです。

 

相手の立場に立つとかよく言いますけど、自分の知らないことは想像できません。男性にとって、女性がそこまで流産が悲しいものであるというのは、どれほど優しい男性であっても、知らなければ察することはできないでしょう。同様に、女性にとって、男性の対応が物足りなく思えることも多いと思いますが、自分のお腹に命が宿ったわけではないので自分とは感じ方が違っても仕方がないということは知っておいてもよいことだと思います。

 

もちろん、色々な感じ方はあります。女性よりも男性のほうが悲しむカップルもいることでしょう。どのカップルもみんな女性の方が悲しいというわけでもありませんし、女性の方が必ず悲しいなどと言いたいわけでもありません。流産したが、思ったほど悲しくないということを悩む女性もおられます。流産の苦しみから抜け出せないとおっしゃる男性もおります。感じ方に正しい、間違いはありません。自分がそう感じるんだから、自分にとってはそうなんです。そこを否定すると苦しくなります。

 

それでも、お互いに違いを分かち合う中で、お互いの気持ちを察しあい、いたわり合い、前を向いていくものなのだと思います。少なくとも生殖医療、特に流産や死産については、男性と女性は大きく違うのだと思います。ジェンダーレスの世の中だからこそ、ここはどうしても強調したおきたいところです。

 

 

流産の悲しみは、本当に誰にも言えないことが多いでしょう。産婦人科医も看護師もカウンセラーも、流産を知った女性の涙を星の数ほど見てきています。寄り添いが必要なことも痛いほど分かっています。もし話したいことがあれば、どうぞ外来で話していってください。

 

これからどうすればいいのか・・・、今まで書いた通り、できることはたくさんありますので、ただそれは、もうちょっと落ち着いたらちゃんとお話ししましょう。