少しセンセーショナルなお題ですが、今日は「E2値がおかしい」についてお話したいと思います。

 

何度も書いておりますが、ホルモン値の解釈において基本中の基本は、「ホルモン値は、点で見るものではなく、線(流れ)で見るものであり、あるいは必要とあらば他のホルモン値やエコー所見、直前に使っていた薬剤等の影響と合わせて解釈するべきである」ということです。

 

月経周期が順調であり、特に薬も何も使わない真っ新な状態の月経中のホルモン基礎値や、排卵後のE2・Pの採血など、本当にベーシックな状態についてはワンポイント(一次元)で見ることになりますが、少なくとも体外受精の治療に入ったらホルモンは、縦横斜め、様々な方向とリンクさせて立体的に解釈することが何より重要です。

 

たとえば、月経中のE2の値がやたら高かったとしましょう。例えば、E2が140だったとしましょう。LH、FSHが正常または低値で、Pが1未満であれば、卵胞発育中に月経のような出血が来ちゃったということであり、エコー所見として、12~16mmくらいの卵胞が1個あれば予想通りです(採卵すれば卵子が得られることが多い)。E2が140でPが10だったら、排卵後の不正出血となります。E2が140だけどプレマリンを1日6錠内服していたら、プレマリンの効果だけでE2が140程度になるはずであり、内因性(卵巣由来)のE2はほとんど出ていないはずだから、ホルモン補充中のただの不正出血。1週間前にプロギノンデポーを打っていたら、プロギノンデポーによる外因性のE2が低下してきたことによる消退出血、など色々なことが言えます。

 

しかし、どう考えても説明がつかない場合、「ある測定系において本来のE2値よりも、常に高めに出る(数倍)方」逆に「常に低めに出る方(本来の値と思われる数値より4分の1~10分の1程度)」がおられます。常に低めに出る方の方が多く、リプロダクションクリニック東京開院以来、前者の方は1人、後者の方は5人おられました。明らかに大きな卵胞が30個以上あるのにE2が300とかなわけです。もちろん、最初からこういう体質だと分かる方法はありませんので、エコー所見やホルモン値の流れから、「あれ変だな」と思い立ち、「レアだけどこういう方がおられる」という知識が呼び起こされて、そういう目で見ると、全てが繋がった、みたいな、そんな気づきとなります。

 

なぜ、こういったことが起こるのかですが、ホルモン測定をする場合、ホルモンを直接測定しているのではなく、ホルモンに特異的に吸着するマーカー(試薬)を混ぜて、マーカーを測定しているので、マーカーが、目的とするホルモン以外のものにもくっついちゃくとか、逆に、ホルモンの分子の形に個性があってホルモンにマーカーが吸着しにくいとか、そういうようなことが起こっているのではないかと推定します。

 

こうした場合、医師は「本当はE2の値はこのくらいのはず」と類推しながら、自分の推理が正しいと信じて治療をしていくしかありません。E2の値を読み間違えれば、未熟卵祭りになったり、あるいは重症OHSSを作りかねないですし、ホルモンの解釈を見誤れば、本当は順調なのに「ホルモン値がよくないから今周期キャンセル」の無限ループにもなりかねませんので、こうした方の治療は慎重なうえにも慎重さを求められますが、無事に採卵で良い結果が出た時はガッツポーズです。

 

なお、こうした方々はその後どうなるかですが、適切な治療がなされることが大前提ですが(ここが一番の問題ではありますが)、ひとたび良い胚さえできてしまえば、基本的にはすんなり妊娠されることが大半です。

 

先ほど説明した測定のマーカー(試薬)は検査機器の機種やメーカーによっても異なりますので、院内検査と外注を両方取ってみたり、あるいは特殊な方法で血液を処理してから検査機器にかけたりすることもあります。また、Aクリニックでは異常値しか出なかったがBクリニックだとなぜか正常値で出る、みたいなこともあります(どちらの検査機器がよい悪いではなくて相性です)。

 

ちなみに、あくまでもこれは、自分の中から分泌されるE2についてのみ言えるので、外から投与したエストロゲン製剤によるE2値は普通に血中に検出されますので、プレマリンとかエストラーナとか、そうしたホルモン剤を使った時に、本来より高かったり低かったりとなることはありません。従って、ホルモン補充周期で移植する場合は、こうした体質は無視できますが、自然周期で移植する場合は、とんでもなく低いE2で排卵したりすることになりますので、ホルモンの解釈はちょっと難しくなります。

 

全員がこういった状態であるわけではありませんが、治療を行っていてうまくいかない場合、この状態に限らず自分が特殊な体質であるという可能性もなくはありません。結果が出ずにお悩みの方は、ぜひ当院にご相談にいらしてください。