さて、前回はタイムラプス培養の特徴についてお話いたしました。2夜にわたる連載、今日は後編です。

④タイムラプスの普及
タイムラプスが徐々に普及してくるとともに、いわゆる胚の分割の様子が、より詳しく分かってきました。そうすると、どういう分割を遂げると良いとか悪いとか、受精してから何時間くらいで何分割くらい行っているといいとか、そういったことが分かってきました。

タイムラプスの機材は希少かつ非常に高価であり、有効性もはっきりしませんでしたので、特に黎明期は実験的な導入でしたので、どのクリニックもほんの一部の培養にしか使っていませんでした。黎明期は、ビデオ的にあとから観察して、人が手動で記録していたのですが、培養胚数が少なければそれも可能でした。このような状態でしたから、実施希望を聞けるような状態ではなく、また費用も取らないことが一般的でした。

しかし、徐々に買い増したり、培養胚数が増えてくると、全ての胚について6日分見返して、何日目何時間で何分割とか、そういう記録を行い、それらを解析するのは、それなりに労力がかかります。また、高価であるのは、本体だけではなく、培養用の使い捨てのディッシュがたった1枚で数千円したり、あるいはメンテナンスや保守もかかりますので、人的あるいは金銭的な負担感が増してくることになります。

一方、その頃には、有効性についても色々報告が出るようになってきたので、各クリニックではタイムラプス培養について患者説明をはじめ、希望者はタイムラプスで培養するかわりに費用を徴収する、タイムラプス導入施設は有料化に舵を切り始めます。有料化できるのであればクリニックも新規導入もしくは買い増し等の設備投資をすることができ、その結果、希望すればタイムラプス培養をできるようになるわけですから、患者さんにとっても悪い話ではありません。

⑤AIによる胚発育解析
こうした流れからタイムラプス培養症例はどんどん増え、症例が蓄積した結果、ついにAIによる受精確認や胚発育解析(オート アノテーション)が行われるようになってきました。受精したかどうかは今まではタイムラプスとは言え、人が行っていましたが、AIでもだいぶ精度高く実施できるようになりました。また、いつ何細胞になったのか等も、ある程度AIが判断できるようになりました。これに加えて、分割様式から、胚の将来性をスコアリング(点数化)する試みがあります。つまり、AIが、「この胚はいいですよ!」と判断した胚が、胚盤胞になる可能性が高かったり、あるいは初期胚で移植した場合の妊娠可能性が高い胚だというのです。もちろん、AIを使ったからといって胚がよくなるわけではありせんから、最終的に妊娠できる可能性は変わりませんが、多数の胚がある場合の移植順位の参考にすることも可能です。ただし、どういうアルゴリズムで判定しているのかは公開されておらず、学会で議論されることもありません。もちろん、企業秘密というかトップシークレットに近いのでしょうが、本来であればこうしたことは、きちんと議論してブラッシュアップしていくべきであり、透明性や信憑性の面では、まだこれからの分野とも言えます。

⑥PGT-Aの隆盛と、初期胚移植と
しかし、時を同じくして、PGT-Aが普及し始めます。AIがどうとか言っても、結局、PGT-Aをして正常胚かどうかを判断してしまえば、それに勝る判断はありません。PGT-A実施胚については、正直なところ、AIによる判断の必要性はほとんどありません。PGT-A正常胚の中の順位付けは、PGT-Aの波形で判断してもよいし、胚のグレードでも十分判断できるわけです。

じゃあ、PGT-A予定周期はタイムラプス培養はいらないかといえば、PGT-A予定胚こそタイムラプスを実施したいものです。それは、細胞を採取するタイミングをより精密にできるからです。PGT-Aでは、検査による胚のダメージが時として問題になりますが、タイムラプスにより、それを最小限にできる可能性があります。

では、PGT-A非実施の胚盤胞はどうか。これについては、胚盤胞のグレードが、それなりに妊娠率と相関がありますので、胚盤胞になっていれば、形態学的な評価でも十分胚の状態を評価することができます。

一方で、初期胚はどうでしょうか。初期胚のグレードは思ったほどあてになりません。胚のグレードや治療歴を考慮して、3個あるいは4個などまとめて移植する考え方に立てば、まとめてみんな移植しちゃえば順番も何もない、とまでは言いませんが、スコアリングの重要性はさほどでもないものとなります。当院では、初期胚複数個移植を推奨する立場もあり、現時点ではAIによる胚発育解析は実施しておりませんが、胚がたくさんあるが、移植胚数を限定しなければならない事情等がある場合は、AIによる胚発育解析が有効となる場合もあるかも知れません。


タイムラプスの動画は敢えて特にどこかにリンクを貼りませんが、ググればいくらでもきれいな動画が出てきますので、ぜひ探して見てみてください。


タイムラプス培養の評価は時代とともに刻々と変化してきました。特にタイムラプスを推奨するのは、PGT-A症例(生検の時期を正確に判断できる)、TESE症例/卵子が少ない/男女どちらかの年齢が高い(受精に問題が起こった時に振り返って状況確認ができるので次回の対策を取りやすい)と、透明帯除去培養症例ですが、基本的に費用以外のデメリットがないので、それ以外のどの方も、ご希望がある場合は実施可能です(sequentail mediumでも実施可能です)ので、医師にご相談ください。

(当院では10月以降の採卵において、タイムラプス培養を行うかどうかご希望をお伺いしておりますが、大半の方が実施を選ばれているようです)



いかがだったでしょうか。タイムラプスとは何か、その有効性や歴史と、PGT-Aとの関連等について2夜にわたりご紹介してきました。

それでは、今日はこの辺で。