不妊治療をしていれば誰しもが、ストレスや悲しみで眠れない夜を経験することでしょう。そんな時はどうしたらよいのでしょうか。

 

筆者は産婦人科専門医(+生殖医療専門医・指導医、医学博士)ですが、これは私が日本産科婦人科学会や日本生殖医学会に所属して学会認定の専門医を取得しているというのもありますが、医師資格は全科共通なので学会専門医などがなくても「私は産婦人科医です」と勝手に言ってもよいのです。つまり私が明日から皮膚科医を名乗ろうが内科医を名乗ろうが、法律的にはOKなのです(能力的・倫理的問題が大きいので、普通は変な名乗りはしませんが。念のため)

 

例外が歯科と麻酔科で、歯科はそもそも資格が違います(「医師」と「歯科医師」は全く別の資格なので、そもそも不可)。次に麻酔科で、医師が麻酔科を名乗る(標榜する)ためには結構厳しい条件をクリアした上で厚生労働大臣の許可が必要です(詳しく知りたい方はこちら→麻酔科標榜医について)。

 

話を戻します。そんな筆者が縁あって若かりし頃、精神科の病院で時々当直をしていたことがあります。アルコール依存症や統合失調症などの方々の療養病院ですが、ちゃんと病棟回診してカルテも書いてマジメに当直をしていました。女性の方もおられますので、婦人科ならではの色々な相談を受けることもあって、病院としても好都合だと思っていたフシがあります。一応、こういう時はこう対応してくださいというマニュアルと、分からない時はこちらに連絡してくださいという上級医の連絡先ももらっておりましたし、自分でも勉強していたので、今思えばとてもよい経験をさせてもらいました。その中で、患者さんから「眠れない」とナースコールがあったらという項目があって、その内容は、「午前2時より前は眠剤の処方、午前2時を過ぎたら対応しなくてよい、そこから対応してもなかなか眠れなかったりして結局朝起きられなってよくない、大丈夫、3日も寝なきゃ誰でも眠くなるから」・・・まあそりゃそうだけど、最初聞いたときマジかよと思いましたが、その病院はそれでずっとうまくやってきたんだろうし、そういう世界もあるんだなと思ってその時は流しておりました。

 

しかし、普通の場面で、医師が入院患者でなく外来の患者さんに、そのまんま「3日も寝なきゃ眠くなる」と本気で言っちゃってよいかは結構微妙なところで(言っちゃうこともありますが)、真顔で言われたらいやな気持ちになる方もおられることでしょう。日常生活を送っていて眠れない日々が続けば生活に支障もあるし、眠ければ何かミスを犯すかもしれない、そのまんま受け取られると困ったことになります。しかし、実際そのくらい気楽な気持ちでいた方が、結局スっと眠りに入れることもあるのは確かであり、そういう意味で受け取っていただけるなら、ナイスアドバイスです。実際私も眠れない夜は、「大丈夫、3日も寝なきゃ眠くなる」と思いながら無理に寝ようと思わずウダウダすることにしていますが、気づくと寝落ちしているものです(医師としてのアドバイスというより世間話として参考にしていただければと思います)。

 

しかし、これでは公式ブログとしては物足りませんので、もうちょっとマジメに書くと、とりあえずその日眠れなかったら翌日がきついですね。そんな時は、15分程度の過眠を取る(あまり長いとかえってダメ)、あるいは日中昼寝しすぎて結局夜眠れないというのが一番困るので日中寝ないためには、眠眠打破などのカフェインのドリンクを飲んで夜まで乗り切っちゃうのも手です。妊活中の方に常用は勧められないのが難点ですが、どうしても眠いと困る日もあるでしょうから、とりあえずシャキーンとします。

 

あとは日中にしっかり体を動かすことも大切で、体を動かさないと眠くならない、眠りが浅くなります。お風呂に入ってから眠るまでの時間も合う合わないがありますので色々調整してみましょう。寝る前にストレッチするのも効果的です。寝酒はたまにならよいですが、睡眠の質が下がるので日常的にはお勧めできません(睡眠導入剤としてのアルコール摂取は、眠剤としてのレベルは最低ランクと言われています。泥酔すればその時はよく眠れますけど、依存症になる可能性もあり、その場合結局不眠になるので注意が必要です)。

 

睡眠不足が蓄積した場合、週末の寝だめもお勧め。え、寝だめは効かないって聞いたけど、ですって。ええ、睡眠は貯金はできませんが、借金(睡眠負債)は返済したほうがよいです。睡眠不足が重なった場合、とりあえず睡眠負債を解消した上でリズムを整えていった方がよいです。

 

次に「早寝早起き」について。これは半分正解、半分間違いです。正解は、「早起き早寝」です。朝ゆっくり寝ていたのに早く寝るのは無理です。先に早起きして1日昼寝せず頑張って夜眠くなるというリズムが大切です。

 

眠れないといっても色々です。「入眠障害(寝つきが悪い)」「中途覚醒(2時とか3時とかに起きてしまう。また眠れるが昼間眠い)」「早朝覚醒(朝5時とかに起きてしまってそこから眠れない」などがあります。入眠障害と中途覚醒は上記の対応である程度解決できますが、問題は早朝覚醒で、この場合、少しメンタルに負担がかかっていることもあります。いずれの場合も眠剤で対応はできますが、入眠障害や中途覚醒、早朝覚醒、そして心の健康状態の有無によって薬剤のチョイスも多少変わってきます。いわゆる「クセになる」ということを心配しすぎて睡眠不足を重ねても仕方がありませんので、しんどいなと思ったらまずは身近な医師に相談してみるとよいでしょう。

 

ということで今日は眠れない夜の解決策について少しマジメに書いてみました。次回もお楽しみに!