今日は、甲状腺機能低下症や、潜在性甲状腺機能低下症の際に使うチラーヂンSについて、豆知識をまとめてみたいと思います。(以前の記事の再掲(パクリ)もあります)
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、妊娠を希望する女性は2.5μIU/mL未満であることが望ましいとされています。なお、「妊娠を希望する女性ではない人」は、4.0もしくは5.0μIU/mL未満であれば大丈夫です。「もしくは」ってなんじゃ、という話ですが、実は甲状腺測定装置(測定方法)により同じ血液でも異なった検査値が出ることが広く知られております。東邦大学の検査部コラムには以下のように書かれています。「TSHは血液中で様々な形で存在するため、標準物質も標準測定法も定めることが難しい検査項目」だということなのですが、これを傾向から上手に補正して使っていこうというものです。少し事情は異なりますが、似たようなことが10年ほど前に糖尿病の検査であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)でも行われました(JDS値からNGSP値に移行)。
TSHが高い場合、甲状腺をたくさん刺激する状態になっている→甲状腺ホルモン(FT4)が足りない→甲状腺機能低下状態となります。甲状腺機能低下症には2種類あり、いわゆる甲状腺機能低下(顕性甲状腺機能低下症ともいう)と、潜在性甲状腺機能低下症があります。甲状腺から出るホルモンはFT4ですので、FT4が基準値よりも低下していることを、(顕性)甲状腺機能低下症といいますが、実際には、FT4は正常だがTSHだけ低いという場合もあります。このことを、潜在性甲状腺機能低下症といいます。(TSH高、FT4低→顕性甲状腺機能低下、TSH高、FT4正常→潜在性甲状腺機能低下。なお、TSH低、FT4正常は潜在性甲状腺機能亢進となりますが、これは正常に準じる扱いとなります)。こうした場合、甲状腺のホルモンを補充するために、チラーヂンSという薬を内服します。TSHが高いままだと妊娠率低下、流産率上昇、あるいは程度によっては胎児の甲状腺機能に影響することもあります。
妊娠した場合、甲状腺ホルモンの必要量は早くも妊娠4週から増加するため、妊娠前から甲状腺機能に余裕を持たせておくことが大切、という言い方が一番しっくりきます。
治療薬はチラーヂンSです。とりあえず、「チラージンS」ではなく「チラーヂンS」(英語表記はTHYRADIN-S)が正解です。チラーヂンには、12.5μg、25μg、50μg、75μg、100μgの5種類があります。12.5~75までの4種類は1錠9.8円(の3割負担)で、100が1錠11.6円(の3割負担)です。ですから、50μg必要な場合は、25μgを2錠飲むと損ということになります(といっても大した値段ではありませんが)。
「チラーヂン、いまどのくらい飲んでますか?」「1日1錠です」という会話は他の薬では全然普通にありなのですが、チラーヂンに関しては、何μg内服しているのか教えてもらえないと何もわかりませんが、普通はそんなの知るかって感じだと思いますので、色分けをして、「どの色ですか?」と聞くと分かるようになっています。当院の診察室には、この画像の印刷物が配置されておりますが、とっても便利です。
チラーヂンは朝食後に内服していただくのが一応のセオリーですが、たまに朝食前の方が効くから朝食前に飲むようにと指示する医師もいます。正直、どっちでもいいんですが、飲み方を決めて、その飲み方の時に測定して正常値であることが確認できることが大切です。結果的に朝食後に内服したほうがわずかに薬の必要量が増える可能性もありますが(朝食前のほうが少なくて済む可能性もありますが)、何しろ薬の値段は12.5~75まで同じですから、あまりそんなことは気にする必要はなく、とにかく自分の飲み方で検査値が正常値に入っていれば問題ありません。
ただ、チラーヂンは速効性がなく、薬を飲み始めてから甲状腺ホルモンを再検査するのは通常1か月後、異常値ならまたさらに1か月、長い目でみた治療が必要です。もし移植直前に異常値が分かった場合、だいぶ治療が遅れてしまうので、当院では初診スクリーニングセットにTSHの検査を入れて、早め早めに対応できるようにしています。
甲状腺ホルモンの薬は頭痛の人が頭痛薬を飲むのと同じで、基本的には飲んでいる時にしか効きません。たまに1か月飲んでそれで終わりにしてしまう方もおられますが、基本的にはよほどのことがなければ出産まで飲み続けましょうということになりますので、薬がなくなりそうになったらお申し出いただく必要があります。開き直るわけではありませんが、医師の説明が必ずしも十分でないことは往々にしてあります。皆さまが自分の身を守るためにも、薬やサプリをもらう時は、医師なり薬剤師なり誰でもいいので、「これは症状が消えたらやめてよいのか、最後まで飲む必要があるのか、なくなっても続きを処方してもらって継続する必要があるのか」を確認する習慣をつけるとよいと思います。
甲状腺機能低下のリスク因子としては、海藻多食、イソジン多用、子宮卵管造影などヨード系造影剤の使用(主に油性造影剤の場合。当院で使用しているのは水性造影剤です)などです。また、妊娠により甲状腺機能低下状態は増悪します。海藻多食やイソジン多用など身におぼえがあれば、それをやめて再検査する、特にそういうものがなければ、甲状腺ホルモンの薬を内服するのが治療となります。
ということで今日は甲状腺機能低下とその治療についてお話してみました。次回もお楽しみに!