体外受精を保険診療で実施するにあたり、ハードルが高いと考えられていたことの1つに、胚培養士が国家資格ではないというのがあります。胚培養士についても、日本エンブリオロジスト学会、日本卵子学会がそれぞれ胚培養士の認定を行っており、統一されていないこともあると言われていますが、いずれにしても胚培養士の国家資格化の話が進んでいる気配はありません。

 

そもそも、日本は学会が多すぎなんですよね。培養士は2個ですが、例えば、日本生殖医学会と日本受精着床学会、専門医制度があるのは生殖医学会だし、生殖医学会が親分で受精着床学会が子分みたいな感じですが、それ以外に何が違うかっていわれても、さあ、って感じです。受着が、特に受精と着床について学会で討議されているかと言えばそんなことはない、演題はほぼ共通です。

 

まあ2つあったほうが場が分散されるので、セミナーやシンポジウムも、発表の場が2倍あったほうが発表できる人も増えるし、学会行くの楽しいし、クリニックとしては学会の時に一気に人がいなくなってしまうを分散させることはできるので、そういう意味では悪くはありませんが、こと学会が2つある必要性があるか、ということだけ考えると、、、う~ん(以下略)。この他に、日本IVF学会とか日本卵子学会、不妊カウンセリング学会、日本産婦人科感染症学会、日本エンドメトリオーシス学会(エンドメトリオーシスは子宮内膜症のこと)なんてのものあります。あとは本家本元、日本産科婦人科学会、ちなみに学会ではないが医師の集まりという点で日本産婦人科医会というのもあります。

 

ただ、国家資格じゃないと信用できないみたいに言う人いて、これってどうなんだろうと思います。例えば、国鉄や電電公社の分割民営化、国鉄がJRに、電電公社がNTTになる時、「国がやっていたものを民間がやって大丈夫なのか」とみんな言ったのです。電車は、市営とか都営も少数ありますが、運営母体は基本的には民間ですが、市営や都営のほうが安心かといえば、特にそんなこともありません。都営は、バスにはだいぶ投資していますが、地下鉄なんて、メトロと比べて都営の駅は薄汚いし、古い電車いっぱい走っています。横浜市営地下鉄も似たようなものです。元親方日の丸のNTTやNTTドコモと比べてauやソフトバンクが品質が大きく劣るでしょうか。飛行機も電気もみんな民間です。国家資格じゃないから、民間だからどうの、みたいな考え方って果たして正しいんでしょうかね。

 

胚培養士が他の資格と決定的に異なることは、例えば臨床検査技師は学校出て試験受けて技師になってから就職するわけです。医師や看護師も同じです。しかし胚培養士は一定期間、不妊治療施設で働いて、その上での試験なので、医師でいうところの専門医制度に近い感じです。培養士は、臨床検査技師もしくは農学系の大学を卒業して就職する方が多くを占め、試験こそ受けていないが一定の資質をもって就職し、その後一定期間経過後に胚培養士試験を受けることになるのですが、もし本当に国家資格にしようとするのであれば、就職時点で資格を必須にするのか、あるいは一定期間国家資格なしでの勤務を続けながら修行して国家資格を目指すことになるのかなど考えなければならないことが多く、事実上制度設計も1からやり直し、既存の資格との整合性の問題もあります。今までの培養士はベテランも含めて全員試験を受け直せということなのか、それとも既得権で全員自動的に国家資格が与えられるのか。どちらにもそれぞれ問題はありそうです。胚培養士の国家資格化、などと気軽に言う人は多いですが、このように、実は結構大変な作業になるのではないかと思います。

 

とりあえず認定資格を統一して欲しい気もしますが、上記のような色々問題があるので当面は国家資格を目指さない前提なら、現状あまり困っている人もいないので、手間暇かけて資格を統一する必要もないかなあ、こんなところではないかと思います。

 

 

胚培養士の世界は厳しい世界です。寿司屋の修行みたいというと言いすぎですが、クリニックにもよりますが、精液検査くらいなら比較的早めに独り立ちできますが、精子調整やそれ以降については1つ1つの手技に合格して次の手技をさせてもらえるようになるのに時間もかかる、練習を重ねてチェック受けて成績も安定しなかったら本番の治療の卵子は触らせてもらえません。一人前になるのには年月がかかります。国家資格かどうかなんて、一回試験受けて受かっちゃえばそれで終わりですが、数年に1度の更新制度はあるので、必ずしも民間の資格のほうが劣っているとは決して言えません。

 

ここでは、敢えてどうするのがよい等の結論は出したり意見を表明したりはしませんが、いずれにしてもこう考えると色々難しいですね。ということで、今日は、胚培養士の国家資格化について考えてみました。次回もお楽しみに。