今日は、「卵巣刺激は、ホルモン値と卵胞発育の状況から刺激量を増減させるとうまくいく」後編です。
「点と線」(ホルモン値の読み方) 後編1「FSH」 に言いたいことは書いてあるのですが、治療に対する理解が相当ありそうな方からも、「難しくてよく分からなかった」「途中で脱落した」とのご意見がありましたので、今日は少しかみ砕いでお話しようと思います。
当院における卵巣刺激の分類は、おおむねこのような形で判断しています(これは説明会やその資料で公表したり、研究会で発表したものを簡略化したものです)。そして、今まで何回も書いていますが、このlong、short、アンタゴニスト(ANT)、PPOSは、卵巣刺激法ではなく、排卵の抑え方の分類であり、クロミッドやレトロゾールなどの内服と、フェリング、ゴナール、富士などの注射の排卵誘発剤での卵胞発育+long、short、ANT法、PPOSなどの排卵抑制で卵巣刺激が成立しています。
PPOSが意外と幅が広いのですが、OHSSを回避できるとの意見もあるし、排卵をよりしっかり抑えつつ卵子の質もよいことが多いので、ANT法を抜かして第一選択にしてもよいくらいの方法だと思います。ただ、いかんせん、AMHが低い場合や相性でたまに向かない方がおられますので、その場合はANT法で行います。
さて、月経中のFSHの基準値は10以下とか15以下など色々な意見がありますが、20くらいまでは卵胞は普通に育ちますので、あまり厳密に考える必要はありません。またFSHはどのみち毎月変わるものであり、そこにあまり厳密性を求めることに意味はありません。ただの目安でしかありませんので、測定時期をD3にこだわる必要は全くありません(D2でもD5でもOK)。刺激開始もD3にこだわる必要はありません。もしD3に卵巣刺激開始をすることが大切ならランダムスタート法は存在し得ないことになります。
そして、このFSH基礎値10以下、あるいは15以下というFSH基準値は、卵巣刺激開始前のものだということも注意が必要です。内服・注射ともに排卵誘発剤はFSHを上昇させる方向に働きますが、排卵誘発剤によって育った卵胞から分泌されるE2によりFSHが上がり過ぎないようにコントロールされます。排卵抑制剤はいずれもLHを抑制させる方向に働きます。ここから卵巣刺激を開始すればFSHが当然上昇するわけですので、その時専用の基準値にあてはめることが必要です。
【FSH値からの刺激の増減】
卵巣刺激中のD8、あるいはD10ごろのFSHの基準値は明確なものはありませんが(基本的には卵胞が順調に育っている前提であればいくつでもよいのですが)、基本的には10以上50未満が望ましいと考えられます。意外と幅が広いのです。この、「卵胞が順調に育っている前提であればいくつでもよい」というのがクセモノで、D8のFSHが例えば52であっても、期待通りの卵胞数・E2値であれば「問題なし」と考えます。しかし、卵胞が期待通りの数に満たない、E2の伸びがイマイチな場合はこのように考えます。
FSHが50以上で発育不良 → 刺激を減量 (クロミッドあるいはHMG量を減量。300単位なら225あるいは150単位に、全く育っていないようなら、HMGを数日中止するとうまくいくこともある)
FSHが20程度で発育不良 → もっと刺激しても大丈夫(もっとFSHが上がっても50は超えない) → 刺激を増量 (クロミッドを1Tから2T、あるいは、刺激が150単位なら225あるいは300単位に、すでに300単位でもFSHが20程度なら375単位、あるいはFSHが10未満の場合は450単位くらい必要)
FSHが激増して60あるいは70くらいになってしまった → その周期をリセットする必要はありません。一度刺激をやめるだけにするか、あるいはペラニンデポーあるいはプロギノンデポー10mgを注射すれば1週間もあればFSHが下がります。下がったところから再度刺激を開始すれば卵胞が育つことが多く、卵子の質にも影響しません。
【卵胞発育からの刺激の増減】
高AMHあるいはPCOS(多のう胞性卵巣症候群)の場合、卵巣機能が良好の場合はFSHが上がり過ぎることはほとんどありません。この場合は、卵胞発育が期待通りか期待以下か、期待を上回って心配な状況かによって卵巣刺激の量を変更します。
D8ですでに卵胞20個、あるいはE2が1500等の場合、OHSSが心配です。この場合は刺激を途中で減量(150単位→75単位)します。
あるいは、卵巣機能が正常なのにD8で卵胞が数個、あるいは小さいものばかり、もしくはE2の伸びが期待外れの場合、FSHがよほど高くなけば卵巣刺激を増量(1.5倍~2倍)にします。主に小さい卵胞を大きくしたい場合はクロミッドを増量、10mm以上の卵胞を育てたい場合は注射を増量するとうまくいきます。
最初から最後まで同じ量で刺激することをfix doseといったりします。昔はそういった方法が主流でしたが、FSH等のホルモン値を院内迅速測定できる現在、当院では3~4割くらいの方に対して途中で卵巣刺激量の調整しております。やはり、月経中に事前にこれだという計画は立てるわけですが、卵巣の反応が予想通りとは限りませんので、合わない刺激量を押し切るよりも、FSHの値と卵胞発育からフレキシブルに刺激量を増減させることで、常に適切な刺激量を与えることができ、卵子の質や数が確保できるというわけです。
ということで、今日は、2夜にわたって卵巣刺激について解説いたしました。次回もお楽しみに!