まあ、これはこれでありなのではと開きなおってみれば、陰キャラライフもなかなか楽しいものですね。
さて、今回紹介するのは紅玉いづきさんの『サエズリ図書館のワルツさん』。
『青春離婚』に続き紅玉さんの小説紹介は二作目です。にわかってやつですね、はい。
では、以下ネタバレ感想。
“「だって、みんな、本を愛していらっしゃるのでしょう?」”
戦争が起こり、紙の本が貴重なものになってしまった未来。
そんな時代にも、たくさんの人に本を届けるサエズリ図書館で繰り広げられる、司書のワルツさんと本を求めた様々な人々のお話。
第一話は、仕事がうまくいかず、何となく色んなことに嫌気ささしていたカミオさんの話。
第二話は、教師として、一児の親としてうまく娘と接することのできないコトウさんの話。
第三話は、本好きの祖父が残した本を求めてやってきた、本なんて大嫌いなモリヤさんの話。
そして第四話は、盗まれた本を取り戻す中、亡くなった父との思い出を回想するワルツさんの話。
どれもこれも、素朴で、ほんのりと温かいお話となっております。
合う人には合うと思います。
ただ、戦前やその後の社会情勢などの情報は断片的にしか紹介されず、本自体の価値がどのようになってるのかを捉えにくい。
読む前は「活字離れが加速したのかな」と思っていたら、そもそも紙を大量に生産されるほどの余裕が国にないという状況。
くどい解説を入れると作品の空気が壊れてしまうので、無理に戦前などの設定を作る必要はなかったのかも。
けれど、全くの無駄かというとそうではないと思う。
紅玉さんもあとがきで触れているけれど、ここでの“戦争”は“3.11”のイメージで、本が作れないというのはあの頃の出版業界にあった危機感と通ずるものがあるのだろうし。
災害や戦争が起こると、確かに本どころじゃなくなる。
本などの娯楽は、物質的な面が充足しなければ愉しむ余裕はなくなるだろうし。
それでも本はあった方が良いと思うんですけどね。
本や、その物語や登場人物に救われる人はいるのだし。
空想だって、充分人生の栄養になると思うんですよね。
読書体験だって、立派な経験。
ただの暇つぶしだとは絶対に思いませんね。
――閑話休題。
そのような話とは方向性が違いますが、『サエズリ図書館』は“本”への愛で溢れています。
内容だけが全てではなく、その紙に触れていた人々の記録や歴史をひっくるめて“本”と呼ぶことができるのではないでしょうか。
それが、同作のテーマだと思います。
本を読む時、ただ中の情報をインプットするだけではなく、その時に感じていた気持ちや思い出も大切にできると、きっと読書も、幸せな体験へと変わって行きます。
「それでは、よい読書を」サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)/講談社

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