海からきたチフス (新風舎文庫)
【著者】畑正憲
【対象年齢】中学生・高校生

これまた古い作品です。著者は畑正憲先生。そうです、あのムツゴロウさんです。
小説家としてのデビュー作だそうで、持ち前の生物学の知識を生かしたSF小説になっています。
私が初めて読んだときの本のタイトルは「ゼロの怪物ヌル」でした。
チフスという病名は現在の日本ではあまりなじみが無いのですが、
タイトルによるネタバレを避けるために変えたのでしょうか。
旧タイトルの本では、巻末にムツゴロウさんによる生物学の解説が載っていました。

以下は読書のポイント

【あらすじ】
主人公の木下少年は、家族と従妹のとも子と一緒に大島の別荘にやって来た。
そのころ島では、海の生物が激減するという異常事態が発生していた。
主人公の兄である力は、同じ時期に海底に出現した謎の物体に興味を持ち、調査を始める。
調査の結果、謎の物体は生物の一種と判明し、「ヌル」と名づけられた。
やがて島では発疹チフスの患者が大量発生する。さらに混乱の最中、村の銀行の金庫が荒らされてしまう。
そして島のあちらこちらで不審な人物が目撃されるようになるのであった。
医者の父と、生物学を専攻する学生の兄、そして木下少年は、力を合わせて事件の謎を解明していく。

【舞台は昭和50年代】
本が出版されたのが1979年で、昭和54年になります。
30年も前の話ということを頭に入れて読まないとおそらく違和感を感じることでしょう。
特に主人公や従妹のとも子の言葉づかいは今時の中学生とはかなり違います。
若者の言葉は時代と共に変わっていくものなのでしょう。
生活環境も違います。昭和50年代の離島ということもあってハンドル式の電話が出てきたりもします。

【ゼロの怪物ヌル】
大島周辺の海底で発見された正体不明の白い物体。
細胞らしきものを一切持たないが、生命活動の痕跡を持つ。
成分の大半は核酸とタンパク質で、焼くと牛肉のような味になる。
ある条件下で他の生物の姿に変身することができる。
人間に変身した場合は、人間並みの知能を持ち、会話をしたり金の価値を理解したりできる。
ネタバレになるため生態の詳細は伏せますが、細かく設定されており
理由付けもしっかりしています。
架空の生物が登場する物語では、その生物の存在にどれだけ説得力を持たせるかが重要ですが
本作品では十分に成功していると言えるでしょう。

世間一般では動物愛好家やエッセイストとして知られるムツゴロウさんですが
小説家としてもこのような面白い作品を出しています。
他にも作品が出ているので、興味をもたれた方は探してみてください。