時が止まったような気がした。
先程までは状況を把握し切れていなかったらしい純乃も今はもう、
あの頃の名残を濃く残した顔に困惑の表情を宿していた。
「誰だよ、こいつ」
純乃の隣で、制服を着崩した金髪ピアスの男が僕に一瞥をくれた。
「純乃、だよね」
ゲームセンターの喧騒に負けないように、僕は声を張り上げる。
だがその声も、耳には届いているのだろうが、純乃の心に響くには不十分だった模様。
純乃はきつく口を閉ざし、ゆるゆると首を振るばかりだ。
「ねえ、突然会いに来てごめん」
純乃が円らな瞳で僕を見上げた。
そんなことどうでもいいけど。でも、何で蓮都がいるの?
そう瞳は語っていた。
「急に会いたくなっただけだから。手紙も年賀状も届かなくなって、それで」
そんなの理由になってないでしょ。
「……本当はただ、決着がつけたかった」
何の。
「百パーセントの」
え?
「好きだった。ずっと」
今度は読み取れなかった。
でも、純乃の瞳が微かに揺らいだのは見て取れた。
「何言ってんだよてめえ。純乃、こいつ誰だよ」
金髪の彼氏が食って掛かった。
純乃が僕の方を虚ろに見ながら、何か呟いた。
金髪が安心したように頷いた所を見ると僕は、
昔近所に住んでた子、とでも紹介されたのだろう。
それもそうだ。
僕は今も昔も、単なる知り合いでしか、単なる年下の男の子でしか、ない。
「ご近所さんが今更何の用だよ、あ?」
金髪が凄む。
それにも構わずに、僕は声を張り上げ続けた。
「ごめん。それだけ言いに来た」
それだけ?
「……蓮都」
もういいよ、というように、柚季が僕の名を呼ぶ。
「……うん」
でも、最後に、一つだけ。
僕は柚季と選んだネックレスが入った袋を純乃へ放り投げた。
涙型にカットされたオレンジの石がトップで輝くネックレス。
袋は弧を描き、差し出した純乃の掌に吸い込まれるように着地する。
純乃が最後に僕に向けた悲しげな視線は、
何を伝えようとしたものなのかはわからない。
純乃が最後に開きかけた唇は
何を語ろうとしたのか、今となってはもう確かめようもない。
ただ、これだけは確かだった。
あの日始まった僕の百パーセントの夏が、ようやく今、終わったのだ。
「もう、日暮れちゃったよ」
あの日の純乃と同じように、オレンジジュースの缶を傾けながら、柚季は呟いた。
「うん」
僕らは淡い光の中にいて、同じ時を共有していた。
「……いいの?」
「うん?」
「あれで」
「ああ」
僕は缶に口をつけ、やけに枯渇した喉を潤す。
「あれでいいんだ」
「答えも聞いてないのに?」
「うん」
「よく割り切れるな」
そう言って柚季は心から憤慨するようにふんと鼻を鳴らした。
「当人がいいと言ってるんだからいいんだ」
「へぇ?」
甘美なだけの思い出で終わらなくてもいい。
甘くて酸っぱくて、それで百パーセントなのだから。
「……けどやっぱ、あたしには理解不能」
「いいよ、そのうち分かる」
僕は笑いながらもう一口ジュースを飲んだ。
あの時は酸っぱくて尻込みしたジュースも、今飲めばなんてこともない。
それだけ時が経ったということなのだろう。
その間に僕は百パーセントの初恋をようやく終結させた。
これであの日のまま止まっていた僕の夏も、もう一度動き出すことができる。
新たな一歩を踏み出すことを恐れることはない。
結果はどうあれ、それが百パーセントであることに変わりはないのだから。
だから。
だから僕は精一杯、甘酸っぱい今日を生きよう。
「――柚季」
「ん?」
――新たな百パーセントの夏が今、確実に始まろうとしている。