「100%の夏」-1- | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。



不必要と判断され、捨てられたゴミだって、

いざ積もってしまえば貝塚だなんて立派な名前を与えてもらえる。



なら、十五年積み重ねた僕の人生には、誰が、どんな名を付けてくれるのだろう。



客観的に判断するなら、「惰性」辺りが妥当なところだろうか。


あくまで客観的に判断するとしたなら、の話だ。



じゃあ、僕が自分で名付けるとしたなら――



「百パーセント」。












あの頃やけに固執していた懐かしい単語を口ずさむと、心の奥の方で、確かに何かが疼いた。



それはまだ彼女に対する未練を捨てきれていないからなのか。


それとも唐突に訪れた別れに未だ納得しきれていないからなのか。




分からないけれど、ただ一つだけはっきりと見えてきたものがある。



――僕は、純乃にもう一度だけ会いたい。














何だかもう受験勉強に勤しむ気も起きなくなって、

僕は社会の資料集を文字通り放り投げると、目的を果たすためにまずはキッチンへ向かった。




キッチンでは母が十年も前のヒット曲を小さく歌いながら、

その曲に合わせて小気味よくキャベツを刻んでいた。


母がソプラノと共に包丁でリズムを刻んでいれば安泰、さもなければ地獄。

それは父が僕にこっそり教えてくれた、秘密のボルテージだ。



「母さん」


「何」


母は目もくれずに返事を投げてよこした。

無理もない。リズミカルに野菜を刻む時話しかけられるのを、母は忌み嫌う。



「去年とか一昨日の年賀状って、どこに仕舞ってある?」


「……確か、居間のサイドボード」


母はそれでもまだ包丁が愛おしそうに溜め息を吐くと、僕を居間へと導く。





両親が結婚した年から家にあるというサイドボードから、

くたびれた輪ゴムで素っ気なく括られた年賀状の束が姿を現した。


探し求めていたものだというのにぞんざいな扱いに、苦笑を漏らすしかない。



「これでいいでしょ。 あとは何もない?」


特には思い浮かばなかったが、ふと思い出して言ってみる。


「果汁百パーセントのオレンジジュース」


「冷蔵庫にパックのオレンジジュースなら」


「缶は、ないよね? 自販機とかのさ」


「そんなの、自販機で買えばいいでしょ」


それもそうだ。










二年前に届いたきりの年賀状の宛先は、ここから自転車で三十分程度の距離だった。


たった三十分の距離なのに、それでも今までその一歩を踏み出せなかったのは、

七年間という深い深い溝のせいだと思う。



今年の誕生日にもらって以来何となく付けっ放しになっている腕時計を見やると

やけに凝った作りの短針と長針が、十五時をまわったところだと僕に告げていた。




突然訪れたら、純乃はどんな顔をするだろうか?




年賀状を裏返すと、明らかに使い回しな定番のデザインの隅に、

いわゆるギャル文字で「あけおめ☆」と小さく記されているのが読み取れた。




……少なくともあの頃のような無垢な笑顔は浮かべていまい。
























あの頃。



公園の朽ちかけたベンチに腰掛けて、二人で缶ジュースを飲んだ、あの頃。



純度百パーセントの、僕の幼い恋。



僕の耳に、純乃の笑い声が甦る。



「蓮都、コーラよりずっとおいしいでしょ。あたしの好きな百パーセント」














あの日から僕の夏は止まったままだ――