「Are you happy?」 | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。


だって、眠いんだもんね――千尋は反省など微塵もせずに、心の中で舌を出す始末。


でもとりあえず、内申点に響いては敵わないので、欠伸を噛み殺して窓の外にちらつく粉雪を虚ろに眺めた。

こういう時、窓際の席というものは便利だ、と千尋は思う。



――はぁ。それにしても、いい夢だったなぁ……。


千尋は先程見た夢に思いを馳せた。

今にも甘く響く低音と、星を散りばめたかのようにキラキラ輝くあの瞳が蘇ってきそうだ。


大体において恋をしていると、全てのものが光のベールに覆われて見えるものなのだけれど。

好きな相手だけでなく、粘っこい女子や、下品な男子や、校長先生でえもキラキラ(いや、ピカピカ?)見えてしまうから、恋って不思議だ。


――一種の病気や麻薬かもね。

千尋は心の中でひとり、ぽそりと呟く。







ぼんやりと匠についての妄想を繰り広げていると、あっという間に六時間目終了のチャイムが古ぼけた校舎に鳴り響いた。

只今匠とのゴールイン図を思い描いていた夢見ガールには、それが祝福の、教会の鐘の音にも聞こえた。

いやはや恋とは恐ろしいものである。



それだから帰りの学活中も、千尋はぼんやり上の空。

頭の中には、スパーンと豪快にスマッシュを決める匠しかいない。

千尋は気づいていないが、先程から頬はだらしなく弛みっぱなしだ。


――ああもう、早く春が来ないかなぁ!


というのも、単に冬期はテニスコートが使用できないだけの話。

千尋にとっては、匠が本領発揮できる試合ではなく室内練習しか拝見できないのが不満なのである。


――もぉ、じれった~~い!!




「ちょ、ナル、どしたの?」


笑いを含んだような声に顔を上げると、大親友史織の姿がそこにあった。

史織は羨む程小さな顔に微笑を浮かべ、少々クセのあるショートヘアを掻き上げる。


「ふえ?」

千尋はバカ丸出しで、あれぇ、何で匠先輩じゃなくてシオたんが? と首を捻る始末。


「ふえ、じゃないから」

史織がビシッとツッコむ。

昔から千尋がボケ、史織がツッコミというポジションで(何故か)定着しているのだった。


「つーかナル」

ナル、とは千尋のことだ。ナルシストのナルではなく、成瀬のナル。

親友なら名字で呼ぶのは止めてもらいたいところだが、だってチヒロよりナルの方が可愛いじゃん、と史織は譲らないのだった。


「何?」


「今、机に筆箱叩きつけてなかった? 何で?」


「ハッ!」

千尋はいつの間にか両手にウサギをかたどったペンケースを握り締めていた。

おそらく「じれった~~い」の時に打ちつけていたのだろう。


「ウッ、ウサギ隊長おぉ」


「何が」

千尋の意味不明な言動に冷ややかなツッコみを炸裂させながらも、いつ取ってきたのやら、史織は千尋のコートを差し出した。


「重いね、これ……ところで、今日も室内練習覗きに行くんでしょ? 部活あるから、途中まで一緒に行かない?」


「うんっ! 行く行く!」

千尋は俄然張り切りだし、コートを引ったくるように受け取り、右肩にリュックを掛けると、こうしちゃいられないとばかりに早歩き。



冷え切った廊下は、自分と同じ一年生の生徒たちでごった返していた。

人目を憚らずジャージに着替える者や、訳もなくたむろする者など様々である。が、史織の姿はない。


「あれぇ? シオたんどこ行った??」


「どこ行った、じゃーなーいっ」


呆れた声が聞こえた方を振り返る。

清掃の始まった教室内で、箒を握るクラスメイトに邪魔がられながら、史織はその中央を歩いていた。

史織が歩く度、持ち主の憤りを反映したかのように、スクールバッグにぶら下げられたデイズニーキャラクターのマスコットが揺れる。



「もー、マイペースすぎでしょ」

クラスメイトの間を縫ってようやく千尋のもとに辿り着いた史織が愚痴をこぼした。


しかし千尋はものともせず、

「いーから、早く行こっ!」

と言い、史織を苦笑させた。