「シャミー・アイ~死のマリオネット~」-14- | BLACK-SKY

BLACK-SKY

ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。



フラミー・キャメルは生徒達に急かされ、ここ何年かぶりの駆け足で教室へ向かった。


小走りで移動している途中も、暴れるような大きな音が響いてきて、これはただごとではないのだとフラミーは感じ取った。



「先生っ、教室です!」Aクラス、と書かれた札を指差して男子生徒が言う。

「言わなくても見えていますよ」

「早く、止めに、入って、下さいッ」息を切らしながら女子生徒が怒鳴る。

「分かっていますよ――」



その時だった。


教室から、女子のものと思われる甲高い悲鳴が上がった。



「何事ですっ!!」

いつもの威厳はどこへやら、ヒステリックに叫びながら、フラミーは勢いよくドアを開けた。




すると、驚くべき光景がそこにはあった。



いつもの教室。

なのに、椅子や机はあちこちに倒れている。


中央には、二人の生徒の姿。




頭を庇って立っている「深紅」のシャミー・ブルータスと、



シャミーに向かって疾走する、サンダー・リシェル。




その高く掲げられた手には、


カッターナイフ。







                    ***







サンダーは渾身の怒りを込め、先生にもクラスメイトにも構わずに、憎き優等生にカッターを振りおろした。


真っ直ぐに振り下ろされるカッターナイフ。

その下で怯えたように蹲るミス・優等生。


その姿に、今まで感じたことのないような殺意を感じた。


――死ね。







                    ***







ベティ・エバンズは、サンダーが、両手にカッターを握り締めて走っていくのを見て、咄嗟に目を両手で覆った。

次の瞬間に起こるであろう出来事を悟ってしまったからだ。

きっと、次の瞬間には、悲鳴が上がって、そして――



ベティの予想通り、女子たちの甲高い悲鳴が聞こえた。



しかし、もう次の瞬間には――それが、歓声に変わっていた。



――えっ?何で、歓声?



そっと、目を覆っていた手を放す。


と、目に入ったのは、床の上で大の字に伸びているサンダーの姿だった。







                    ***







悲鳴が、どこか遠く、遥か彼方から、シャミーの耳に届く。



と、次の瞬間には、歓声のような声が爆発した。



この声は、どこから聞こえているんだろう。


私は今、どこにいるんだろう。


何故、皆の声が、こんなにも遠くから聞こえるんだろう。


この目を開いたら、何が見えるんだろう――






シャミーはゆっくり、瞼を開いていった。


すると――目に飛び込んできたその世界は、青く、霞がかっているようだった。



――私の目は、どうかしたんだろうか……



すると、青い膜のようなものは、自分の周りを取り囲むように存在しているのだと分かった。

それなら……と、シャミーは指でその膜を突いてみた。


膜はシャボン玉の如く簡単に割れた。

そして現れたのは、いつも通りの、ありふれた教室。


ただ少し変わっていることと言えば――机と椅子があちこちで倒れていること、クラスメイトが呆然と自分を見つめていること、それと……サンダーがカッターを握り締めたままで、床に伸びていることくらいだ。



「シャミー!大丈夫?」ベティが走り寄って来た。

「えっと……私、どうしたの――?」

「……実はあたしも、目を瞑ってたから分からないの。クリスは?クリスは見てたでしょ?」

「……見てた」

「クリス、何があったの? 私、何したの? 何でサンダーが気絶してるの?」

「分かった、じゃあ――」







                    ***







クリスは先程見たことを、手短にシャミーに語った。

全てを話し終えるとシャミーは「?」と首を傾げていた。


「でも、どうしてそんな――」

しかし話はそこで中断された。

「ブルータス、あなたは少人数教室に来なさい。話を聞かせて貰います。それと、誰か、リシェルを保健室へ担いでいきなさい。――駄目です、カッターは置いていきなさい――皆さん、私が戻るまで自習です。騒いではいけませんよ、では」

そう言ってキャメル先生とシャミーは教室を後にした。


自習だと言われ、案の定クラスメイトたちが騒ぎ始めた。

やることがなく、クリスは先程の出来事に思いを馳せていた――





――疾走していくサンダー。頭を庇い蹲るシャミー。


そして、サンダーがシャミーの頭にカッターを振り下ろす――


誰もが嫌な予感を感じ、悲鳴を上げたその時だった。



なんと、青く薄いシャボン玉の膜のようなものが、シャミーを包みこむように現れ出でたのだ。


その一見薄い膜に、サンダーは構うことなく飛びかかっていった。



そして、青い膜は、バリアの如く、見事にサンダーを跳ね返した――





一部始終はこんな感じだ。


……いや、正確に言うとまだ続きがある。



あの時漏らした本音の呟きを思いだし、誰かに聞かれてはいなかったかと、クリスは顔を赤らめた。


「クリス、どしたぁ?顔赤いよ」無神経にもベティが突っ込んできた。

「な、何でもないよ!!」





――シャミーのバリアがサンダーを跳ね返したその時。


クリスは思わず、ぽつりと呟いた。



「……かっこいい。」