マーシー・ブルータスは、二人の娘――シャミーと、その妹のマリーゴールド――と共に、ソファに腰掛けていた。
三人の視線の先には、テレビがある。
これから皆で、シャミーの出演したテレビを見るのだ。
待つこと数分、長いタイトルの付けられたその番組が始まる。
「お姉ちゃん、いつ出るの?何するの?」嬉しそうに、マリーゴールドが尋ねる。
「……『能力』を披露するんですって」マーシーは遠慮がちに言った。
マリーゴールドには、姉のシャミーとは違って、『能力』が全くなかった。
勿論本人はそのことを贔屓目に感じたりはしていないようだが――無理もない、まだほんの五歳なのだし、感じる余地もない――マーシーと彼女の夫は、そのことを非常に哀れに思っていた。
――可哀想なマリー。
「あっ、お姉ちゃんだ!」無邪気にマリーゴールドが言う。
番組は、『若干十歳にして脅威の才能を秘めた天才エスパー少女――シャミー・ブルータス』というタイトルのもと放送されていた。
内容はと言えば、シャミーがスタジオで披露する能力に皆で感嘆して意見を述べたり、シャミーの特技等を皆であれこれ聞きだし、天才だと誉めそやすようなものだった。
ごく普通で、中身のない、今時よくある番組だ。そうマーシーは思った。
***
朝。
誰も教室にいないことを確かめると少年は、こそこそと教室に入った。
シャミー・ブルータスの机に両手を突っ込んで、まさぐる。
流石に昨日の今日なので、何も入ってはいなかった。
――まぁ、いい。こんなの、予想通りだ。
昨日悪戯されたばかりで、懲りずに置き勉をする方がおかしいのだ。
少年は後ろの方に向き直ると、ロッカーにシャミーの名前を探し始める。
そして、見つけた。
ロッカーから、音楽の教科書を見つけ、取り出す。
歌も上手くて、音楽の好きなシャミー・ブルータス。
だからこそ、悪戯のし甲斐があるというものだ。
少年は音楽の教科書を手に取ると、にやりと笑った。
――悪く思うなよ、「天才エスパー少女」。
――脅威の才能だなんて、笑わせる。
少年は思う。
あいつがちやほやされているのは、あいつの爺さんが有名な超能力者だからだ。
それなら僕だってちやほやされてもおかしくない。
なら、僕がちやほやされていないのは何故か――
――断じてあいつのせいだ。
――あいつのせいで、何が起こったか……。
「だから、悪く思うなよ」
僕だって、一方的に意地悪してる訳じゃない。
おあいこなんだよ。……いや、むしろ、まだお前の方が悪い。
おあいこになるまで、いや、それ以上になるまで、僕は「悪戯」をやめない。
分かるか?
覚悟してろよ、シャミー・ブルータス。
長々と呟いた後、少年は、ポケットから取り出したカッターナイフで教科書を真っ二つに引き裂いた。
教科書を、裂く。
裂く。
裂く。
なおも裂く。
跡形も無くなる程に。
やがて紙吹雪の如く細かく裂かれた教科書の欠片は、教室の隅に山のように積もった。
――これでいい。
少年は顔に、満面の笑みを浮かべる。
「悪く、思うなよ」
そして、あらかじめ書いておいたメモ用紙を、山の上にひらりと落とす。
そのメモにはこう書かれていた。
「死ね」
***
あいつを殺したい、あいつを殺したい、あいつを殺したい――
女は狂ったようにそう呟いた。
女のいる部屋では、テレビがつけられている。
タイトルは、『若干十歳にして脅威の才能を秘めた天才少女――シャミー・ブルータス』。
イカれたタイトルだと女は思う。
四角く切り取られた世界の中で、憎きあいつが、シャミー・ブルータスが、宙にボールを浮かべながら笑顔をふりまいている。
――死ね死ね死ね。女はなおも呟く。
その笑顔が、憎い。憎い。憎い。とにかく憎い。
その笑顔を、その顔から永遠に拭い去ってやりたい。
あいつの存在を、この世から消し去ってしまいたい。
あいつを、出来るだけ残忍な方法で殺したい。
女は湧き上がってくる殺意を、空き缶を握り潰すという方法で、やっとの思いで堪える。それでも番組は消さなかった。
いつか、チャンスが訪れたなら……と、女は呟く。
いつかチャンスが訪れたなら。
いつかその時が巡って来たなら。
その時は、あいつを殺す。
絶対に。