「DESPAIR・TOAST」-第五章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

剣術、妖術を教えてくれたレームは今や逃走している。二年の間というもの誰も教えてくれる人がいなく、ヒッグ

スは自分でひたすら学んだ術を繰り返すしかなかった。

これから剣術と妖術を学ぶ術はあるのかと心配していたヒッグスだったが、ウィーネがようやく解決策を提案して

くれた。ダンバーズに妖術と剣術を習う、というものだ。


ダンバーズが教えてくれたのは、覚えておくと便利な呪詛、役に立つ防衛呪文などだ。ヒッグスが新しく習ったの

は、一時的に光の盾を造り出す「盾呪文」の”マゼランタ”、ヌメヌメした汁を相手に吹きかける”ニーデリーゼ”冷

たい風を呼ぶ精霊呪文の”クレッシェル”などだった。

ヒッグスは長いこと妖術の復習を怠っていたので、今までの呪文の復習、新しい呪文の練習を頑張った。友達か

ら遊ぶ時間はないのかと責められたが、ヒッグスは絶対にこの「秘密」を隠し通した。これからもずっと、家族以

外にはこの秘密を明かさないつもりだ。



ある日、ウィーネはヒッグスを玉座の間に呼び、新たな提案をした。

「ヒッグス、もし貴方にその気があれば、でいいのですが・・・・・・妖薬士の資格を取る気はありますか?」

「妖薬士?」

「はい。癒しの妖術と人魚薬を極めた者は、妖薬士の資格を手にする事が出来ます。この資格があれば、上級

薬である”永遠の真珠”を調合する事も可能ですし・・・・・・更にこれが受かれば、妖戦士と妖薬士を極めた者の

為の試験、妖薬戦士の試験を受ける事が出来るのです。」

「妖薬戦士・・・・・・」

「今まで妖薬戦士となった者は、これまでに三名しかいません。それ程までに妖薬戦士への道は遠く、選ばれた

者しかこの道を辿る事が出来ないのです。私は勿論、貴方にはその素質があると思います・・・・・妖薬士の試験

を受ける気は起こりましたか?」

「・・・・・・はい」

ヒッグスは何よりも、妖術が好きだった。それに、自分には才能が秘められているとウィーネは考えている。だか

らこそその道を極めてみたいと思った。狭き門をくぐり抜ける才能が自分にあるのか、試してみたいと思った。

回復薬を自らの手で調合し、勇猛果敢に妖術を使いこなして戦う・・・・・・妖薬戦士には、誰だって憧れる。



妖薬士の試験を受けると決意したその翌日から、ヒッグスはウィーネの計らいでシェリーのもとを訪れた。ヒッグ

スはシェリーの提案で、ノートに薬草や毒草の特徴、見分け方を書き、いつでも復習出来るようにした。


「ンー・・・・・・カメレオン変身薬も様になって来たわね。・・・・・・うぅん、でも何で黄色が混ざらないの・・・・・・?もし

かしてイボガエルの絞り汁が多いとか?あっ、そうね!よしっ、ヒッグス、今度は絞り汁を減らしてみて!」

カメレオン変身薬の特訓中、シェリーが言った。ヒッグスは早速イボガエルの絞り汁を減らし、再度調合を試み

た。

二回目に作った薬は、鮮やかなピンクと黄色、グレー、オレンジで構成されていた。綺麗ではあったが、完成品と

見比べると明らかに色味が違う。

三回目でやっと、ピンク、黄、オレンジ、水色の、カメレオン変身薬が完成した。

「よしっ!オッケー!やったね!」

ヒッグスとシェリーはハイタッチした。二日前から十回程も煎じてようやく完成したのだから、その喜びは大きい。


「でも、妖薬士の試験は難しいのよね。このくらいで喜ぶのは早いかなぁ。私はギリギリ合格したの。危なかった

わ」

「シェリー、妖戦士の資格、持ってる?」

「この前、やっとね。四回目の試験で。筆記試験は大体同じようなもんだからいいけど、実技がね・・・・・・。剣の

相手によって随分変わるから。今回はおばさんで、妖術はなかなか手強かったけど、膝に持病があったみたい。

勝ったわ。・・・・・・それで、私に妖薬戦士になる気はないのかって聞きたいんでしょ?」

「うん、まぁ・・・・・・。」ヒッグスは考えを見抜かれ、ドキリとした。

「でも私に、妖薬戦士になれる見込みはないわね。何しろとっっても難しいみたいだし。今までに受かった三人っ

て、ほんとすごいと思う。一人目はメフェル様。二人目はアシュランていうおじさん。永遠の真珠作りにかけては

一流だったみたいで、”永遠のアシュラン”て呼ばれてたって。三人目はリオーネっていう老人魚。まあ三年前に

亡くなってしまったけど・・・・・・。私、ヒッグスならいつかきっと妖薬戦士になれると思う。信じてるわ。」

「ありがとう、シェリー・・・・・・。」

”黒雲を吹き飛ばして”以来、「信じてた」とか「信じてる」という言葉を幾度となくかけられたが、そのどれもが有名

人に気に入られたい、という欲望から来ているということは分かっていた。しかしシェリーは心から言ってくれてい

る。その輝かしい瞳を見れば、嘘ではない事が分かる。

この眼差しは以前にも見た事がある。――二年前の、リオネルの真剣な眼。信用していなければ、普通は雷の

中を待っていてはくれない。帰ってもいいと促されたのなら、なおさらなはずだ。自分を一人残し、安全な城へと

帰るのが普通だろう・・・・・・。



ヒッグスは今日もリオネルの見舞いに訪れた。

リオネルは眠っていた。しかし額には汗が流れ、呼吸は荒かった。悪夢でも見ているのか・・・・・・。

何故だか胸が締め付けられるような気がして、ヒッグスは呟いた。

「・・・・・・リオネル。リオネルを怖がらせているものの原因を突き止めて、僕が治してあげるよ。・・・・・・約束」

気のせいか、リオネルの息遣いが正常に戻ったようだった。ヒッグスはそれを「イエス」だと受け取る事にした。


ヒッグスの目標は、妖薬士になる事と、もう一つ・・・・・・。リオネルを悪夢から解放することだ。決して容易ではな

いだろうが、やり甲斐がある事だろう。

・・・・・・とりあえず、ルイザの事で頭を悩ませるのは、妖精界の事を片づけてから、平和になってからにしよう。そ

の方が喜びは何倍にも増えるし、悲しみも最小限で済むだろう・・・・・・。



病室の窓から、妖精界の美しい風景が望めた。夕焼けが空に輝き、オレンジの魅惑の光は、植物や家々、全て

の物の美しさを際立たせた。

外の風景だけは、いつまでも平和なままなのだ。