ヒッグスはその日から、リオネルの見舞いに通った。リオネルの状態は一向に変化せず、とても苦しそうにしていた。ヒッグスはそんなリオネルを見て、原因は分からなかったが、何故だか胸が痛むのを感じた。
一方で、不謹慎だとは自覚しつつも、内心ヒッグスは舞い上がっていた。ルイザに話しかけられたのだ。
――あの後気分が晴れないままヒッグスはふらふらと外を彷徨っていた。ヒッグスが野良犬目がけて石を蹴りつけたが石は外れた。後ろからクスクス笑う声がして苛立って振り返ると、ルイザが立っていた、という訳だ。
「ビンクスをいじめちゃダメよ!あなた、ヒッグスでしょ?」ルイザはこう言った。
「な、なんで知ってるの?」ヒッグスは急に顔が赤くなるのを感じた。
「知らないの?ビンクスの名前の由来」ルイザは質問には答えず、見下したような調子で続けた。
「私の家の隣に住んでる子供が、野良犬を拾ったのよ。それがあなたに似ていたもんで――ひょろっこい所とか、毛並みが茶色い所とか、似てるでしょ?――ビンクスってつけたのよ。・・・・・・あら、私が何であなたを知ってるかって?私のお母さんとあなたのお母さん、仲がいいのよ。私はルイザ。知ってた?」
知ってるも何も――そう言いかけたがヒッグスは堪えた。
「うん、あ――名前は聞いた事あるよ」
ルイザがまたしてもクスクス笑った。その笑いは不愉快でもあったが、嬉しくもあった。リサのクスクス笑いは腹が立つのに、何故だろう。
遠くからルイザを呼ぶ声がした。
「あら、ベル!今行く!・・・・・・じゃあね、お友達なの!」
ヒッグスはしばらく、目でルイザの後ろ姿を追っていた。そしてルイザと友達のベルが見えなくなると、ヒッグスは鼻歌交じりに家へと戻って行った。
通りがかったビンクスをからかう気も起こらず、うるさく飛ぶ蝿さえも気にならない。ヒッグスは自分の心の中に湧き起こった感情に、不思議な気持ちを覚えていた。