「THUNDER・BLAST」-第十二章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

身体の神経は、もはやヒッグスの言う事を聞かなかった。自分は今、ジェロームに支配されてしまっているのだ。


足元には、――未完成とは言えども――死をもたらす猛毒”悪魔の頬笑み”・・・・・・


そして自分は今抵抗も出来ないまま、死に向かって真っ逆さまだ・・・・・・。




――考えろ、自分。考えるんだ・・・・・・

  

   つまり、身体を突っ込まなければいいんだ・・・・・・

    

   濡れずに済む妖術と言えば・・・・・・?



答えは電光石火の如く閃いた。問題は、ジェロームは自分の能力をも支配しているのか、ということにあった。

もしもそうならば・・・・・・死あるのみだ。

全てをこの一瞬に懸け、唱えた――







フレアージ!」――やった。ジェロームは、ただヒッグスの身体を縛りつけていただけにすぎなかった。呪文は効果を示したのだ。ヒッグスの身体の周りを空気の泡が包み、妖精の首を踏んづけてしまったものの、毒液で濡れずに済んだ。


ワーピス!」呆気にとられている二人をよそに、ヒッグスは自分を浮かせ、厚い埃の上に舞い降りた。

「わあああっっ!!」ジェロームが叫んでいた。ヒッグスの四人のコピーが、二人の隙を衝いて”ドレバースアン”と”アタナーレ”をいっぺんに使ったのだ。風に煽られ、火は勢いを増してジェロームに襲いかかった。

レ、レアニーダ!コバフリー!コバフリー!コバフリー!コバフリー!」火は鎮火し、コピーは消えた。

ツァウィローザ!はぁっ・・・・・・。」ヒッグスはコピーをもう一人作りだした。さすがに息も切れてきた。

イッドゥア!」ジェロームはヒッグスのコピーに対して、聞いたこともない呪文を行使した。すると、ジェロームの見つめていた床に大穴が開いた。ヒッグスのコピーは階下に落ち、グシャッという嫌な音が聞こえてきた。

ハナーア・・・・・・」大穴が塞がった。ジェロームも息を切らしていて、肩で息をしていた。

チェスタ!」レームがようやく霧を振り払った。

「ジェローム、止めを!勇者気どりのチビの始末は任せる!とっておきの呪文を使って・・・・・・」レームが叫んだ。

ジェロームはニヤリと笑って、ヒッグスを人差し指で指した。

ザルエス!」――すると、まるで見えない巨大な手に締め付けられる様な、奇妙な感覚が走った。



――苦しい・・・・・・。



「私がジェロームに使っていたのはこれよ!分かった、チビ?ジェローム、止めを早く!」


レームの声が、どこか遠くから響いてくるようだった。――ヒッグスは、自分の額から汗が流れ落ちるのを感じた。息遣いも荒く、不規則になった。



――僕は・・・・・・このまま死ぬのだろうか・・・・・・?



ヒッグスは、ばったりと床にうつ伏せに倒れ込んだ。

――と、何かが音を立てて、床に転げ落ちた。首を向けて音のした方向を見やると、床に落ちていたのは・・・・・・女神の石だった。女神の石は真っ暗な部屋の中で、淡い桃色の不自然な光を放っていた。ポケットから転げ落ちたのだ・・・・・・。


――急激に、勇気が、生きる意思が、希望が、ヒッグスの胸に湧いた。


罪もない命のために。リオネルの安全のために。女神の石を無事に城に持ちかえるために。そして生きるために・・・・・・。やらなければならない。


うつ伏せに倒れた体をなんとか裏返した。埃を吸い込んでしまい、ゴホゴホむせ込んだが、何とか膝をついて上体を起こした。

苦しかった・・・・・・。しかし前より苦しみが薄れていることに気付いた。そのことでヒッグスは勇気付いた。

レームとジェロームの方を見ると、ジェロームは息を切らし、汗を流していた。しかしそれは”イッドゥア”のせいではなく、呪文の使い過ぎで体がもたなくなっているのだと分かった。


「何をしているの!早く!早く・・・・・・」レームが涙声で急かした。ヒッグスは少し驚いた。

「じゃあ・・・・・・お前がやればいいだろう・・・・・・?」ジェロームは咳き込みながら言った。

レームは首を激しく横に振った。

「私にはどうしても・・・・・・ためらってしまうの・・・・・・。早く!ジェロームの両親のためでしょ?」


その言葉で奮い立ったのか、ジェロームは厚い埃の上を、ヒッグスに向かってゆっくりと歩いた。――その目は、もはや人間の目ではなかった・・・・・・。ヒッグスはジェロームを怖いと思った。恐ろしかった・・・・・・

不気味にギラギラ光る目が、ヒッグスの目を見据える。ヒッグスは多少怯えはしたが、しっかりとジェロームを睨みつけた。


――次の瞬間、ジェロームはヒッグスの首に向かって真っ直ぐ手を伸ばしてきた。絞めようとしている・・・・・・



その瞬間、ヒッグスの頭にふとある考えが浮かんだ。――しかし、もしもうまくいかなかったら・・・・・・?



・・・・・・いや、やるしかない・・・・・・。



ヒッグスはジェロームの左胸を――心臓のある位置を――しっかりと見つめた。そして唱えた・・・・・・





















イッドゥア!






――使えた・・・・・・。







ジェロームの断末魔の叫びと、レームの甲高い叫びが入り混じり、不気味な音を奏でた。


――今や、締め付ける様な痛みは消えていた・・・・・・。ヒッグスは、痛みから解放されていた。


・・・・・・ということは・・・・・・?



ヒッグスはジェロームを見た。――ジェロームの胸にぽっかりと大穴が開き、埃っぽい窓が透かして見える・・・・・・。

次の瞬間、ジェロームはばったりと倒れた。――ジェロームは死んでいた。


レームがしゃくり上げた。ヒッグスはレームに向き直った。レームは肩を震わせていた。

「・・・・・・レーム、何で悪魔の頬笑みを調合しようと・・・・・・?」

レームは深く深呼吸し、ヒッグスに向き直った。今やレームは、狂気染みた表情を捨てていて、ヒッグスと妖術の訓練をする、あの時の真面目そのものの表情に戻っていた。

「最後に、ウィーネ様の側近として、語らせてもらいましょう・・・・・・」


「母は、法を犯しました・・・・・・いえ、”犯したと思われた”のです。――そして母は無実の罪で問われ、人魚界の裁判所で、死刑と課せられました。」

「私とジェロームの父は、妖精と人間のハーフでした。ジェロームの母に捨てられ、私の母と結ばれたのに、私の母はすぐに殺されました。・・・・・・父は、ジェロームも私も自立した頃、死にました――飢え死にでした。・・・・・・母が死んだあと、その当時の妖精界の女神・・・・・・ウェッブという女に、父は生活保護を申し出ました。ところがウェッブは不人情な、権力と金に飢えた女でした。ウェッブは父を冷たく突き放し、その結果父は妖精界に見放されて死んで行きました。」

「ジェロームは、悪魔の微笑みを使い、母と父を殺した妖精界と人魚界を滅ぼし、人間界に・・・・・・父が昔住んでいた、人間界に、私と住もうと考えたのです。・・・・・・さあ、もういいでしょう。多分今が、私が貴方と顔を合わせる最後になるでしょう。きっと次は私のかわりに、リオネルかダンバーズが側近の職に就くことでしょう・・・・・・。では、さようなら。」

レームは呪文で窓ガラスを割り、「テームス」と唱えた。何故ガラスを割る必要があったのかは、後で分かった。

ヒッグスが窓を覗き込むと、寒さに震えるリオネルと、落雷で焼け焦げた木々が見えた。ヒッグスは窓から飛び降りた。

ワーピス!


ふわふわと着地すると、リオネルが言った。

「ああ・・・・・・ヒッグス様・・・・・・お帰りなさいませ。」リオネルはそう言うと、へたへたと地面に座り込んだ。

「ちょ、ちょっと、大丈夫?」

「あのっ・・・・・・腰が抜けて・・・・・・。すぐ近くの木に、雷が落ちた・・・・・・ものですから・・・・・・」

見ると、すぐ近くに、焼け焦げた木がある。ヒッグスはどうしてよいのか分からなかったが、とりあえずリオネルの肩をポンポンと叩いた。

「もう大丈夫。怪物は倒したし――つかまって。テームス!


奇妙な感覚と共に、稲妻の光る不気味な夜の闇が消えて行った。そしてヒッグスは、突然視界を満たした光に目が眩んだ・・・・・・。