「THUNDER・BLAST」-第十一章ー | BLACK-SKY

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ひとりごととか、小説だとか。

取るに足らない言葉たちの遊戯会。

屋敷の扉は錆びついていて、ヒッグスが力を込めて押すと、ギーッと嫌な音を立てて開いた。



ヒッグスは屋敷に足を踏み入れた。屋敷の中はやけに埃っぽく、古風な絨毯の上を厚い埃が覆っていて、歩く度埃がもうもうと舞った。



――その時、階上から、何か物音が聞こえた。



ヒッグスは怯えながら、口と鼻を手でしっかり覆い、螺旋階段を上がって階上へと進んで行った。



階段を上り終えると、長い廊下の突き当たりに、大きな黒い扉が見えた。どうやら不気味な物音は、そこから聞こえてくる様だ。

扉に忍び寄って耳を澄ませると、水が沸騰する時に立てる沸々という音と、男の呻く声が聞こえた。――何故こんな音が・・・・・・。

ヒッグスは何だか怖気付いて、後ろを振り返った。そこでは闇が手を伸ばしていて、ヒッグスを誘おうと企てていた。ヒッグスが怯えていることに気を良くした空が、雷鳴を轟かせていた。

暗闇の恐ろしさを再認識したヒッグスは、覚悟を決めた。


――この扉を押しあけ、レームを救い出すのだ。決して簡単な事ではないが、これは、自分に課せられた使命なのだから・・・・・・。


恐る恐るドアノブに手をかけ、ヒッグスはゴクリと唾をのんで扉を開いた――




埃の積もった床板の上で、一人の男が倒れ、呻きながら身悶えしていた。

ヒッグスは目を凝らした――稲妻が光ったその時、ヒッグスはその男の顔をはっきりと見た。――ジェロームだ。

「ジェローム!・・・・・・」

「あ、ああ・・・・・・ヒッ・・・グス・・・・・・か?」

「はい・・・・・・。大丈夫ですか?どうしたんですか・・・・・・?」

「か・・・・・・怪物が――私とレームをさらって・・・・・・」ジェロームは喉を両手で押さえ、呻いた。

「私に、薬の番をするように、と命じた――」

ヒッグスはその時初めて、部屋の中央で沸々と音を発している大鍋を認識した。

「ならどうして逃げないんですか?どうして苦しんで――」

「強い魔力で・・・・・・縛りつけられて・・・・・・ああ――こうしないと私が逃げるからだ・・・・・・」


ヒッグスはジェロームの言葉の一つ一つが、どうも信じられなかった。ジェロームは本当は、怪物の手下なのでは?僕が来たから苦しむふりを――?

しかし、ジェロームは、演技とは思えない程の苦しみようだった。額には玉のような汗が流れ、息遣いは不規則で荒く、手は小刻みに震えている。服は、汗で体にべっとりと張り付いている。


「――僕、レームを見つけなくちゃ。レームはどこですか?怪物は――?」

「その必要はないわ、ヒッグス。」


ヒッグスは驚いて振り向いた。黒い扉が開き、女が――とても見慣れた、赤毛の女が入って来た・・・・・・



「・・・・・・レーム!怪物はどこに・・・・・・?」

「ヒッグス、怪物は・・・・・・」レームの声はほんの小さな子供に話しかけるような調子だった。

「あなたの目の前にいるのよ。」そしてほくそ笑んだ。――どこかおかしい・・・・・・。

ヒッグスがぽかんとしてレームを見つめていると、レームは鼻でフフンと笑った。いつものレームとどこか違う。明らかにどこかおかしい・・・・・・。

チェスタ!」レームが唱えた。ジェロームはハアハア息を切らしたまま、膝と手を床についた。


「ジェロームとレームが怪物・・・・・・?」

「まだ分からないの?私は至って普通の妖精よ。・・・・・・ジェロームよ。」

「レーム・・・・・・この・・・子の・・・・・・目玉を・・・・・・。」ジェロームが言った。

「ジェローム、全ては後のこと・・・・・・。そう、予言が覆された後でいいわ。」


ヒッグスはその時、急に閃いた。恐ろしい答えを・・・・・・。

「レームとジェロームはグルで――そして僕を殺そうとしている?」

二人ともニヤリと笑い、レームはつかつかとヒッグスに歩み寄った。ヒッグスはレームをしっかり睨みつけたまま、後退りした。

「ご名答。でもね、一つ教えてあげる――私は、ジェロームの母親違いの妹よ」

「だって・・・・・・レームはウィーネに忠実な側近だった。なのに・・・・・・」

「私は、女神に最も近い”側近”という立場であることを最大限に利用した。女神に忠実なところを見せつけ、働き者として評価され、同時に高い給料が手に入る。まさに好都合だったわ」


衝撃がヒッグスの頭を貫いた。まさか――まさかレームが、スパイ行為を働いていたなんて。僕に妖術を、剣術を、教えてくれたのはレームだ。僕を妖精界へと導いたのはレームだ・・・・・・。この目の前にいる、残忍な笑いを浮かべた妖精が、レームなんだろうか・・・・・・?


「・・・・・・どうして?予言が聞けたから?」

「いいえ、私の・・・・・・私達の望みは、貴方じゃない。貴方は”ついで”に必要なだけ。」

「我々の望みは・・・・・・」ジェロームが口を開いた。

「”悪魔の頬笑み”を調合することだ。」

「”悪魔の頬笑み”・・・・・・!『鉄をも溶かせる程の猛毒』のこと・・・・・・?」

「まさにその通りだ。賢い子供・・・・・・。敵でなければ、頭を撫でてやるところだ。しかし今は、賢い頭脳などではなく、お前の目玉と心臓が必要なんでね」ジェロームは腰に下げていた、緑に光る剣を抜いた。

「何で目玉が・・・・・・」

「必要なのかと?知りたがり屋め、悪魔の微笑みを調合するためには。”妖力を秘めた小僧の目玉”が必要なわけだ。妖力は、高ければ高い程いい――そこでお前が選ばれた。感謝しろ」

ヒッグスはたじろいだ。衝撃の事実に、レームの大きな裏切りに・・・・・・


「ほかの材料は、既にジェロームが集めた」レームが口を開いた。

「人魚の生爪三百本、人魚の腸十人分、妖精の指、妖精の首、吸血鬼の牙、妖力の通う腕・・・・・・ジェロームは、自分で自分の腕を切り取った。・・・・・・それに、永遠の真珠、毒ウサギの鼻、目玉・・・・・・。あるとあらゆるものが必要だった。そして残るは唯一つ、お前の目玉と心臓だよ!」


ヒナーエ!ゴッディア!」ヒッグスはレームに、進行遅らせ呪文と人魚呼吸呪文をかけた。もがく音が聞こえ、ジェロームが慌てて叫んだ。

チェ、チェスタ!チェスタ!

エウソシャル・ミーン!ツァウィローザ!」ヒッグスが唱えた。

コ、コバフリー・・・・・・コバフリー!」レームが怒りに震えながら言った。

ドレバースアン・・・・・・ああ・・・・・・」レームが弱々しく唱えた。

ツァウィローザ!ツァウィローザ!ツァウィローザ!ツァウィローザ!」ヒッグスの分身が四人にもなった。分身の一人が、レームに向かって叫んだ。

クブーラス!」レームの姿は濃い霧にのまれ、見えなくなった。

ワーピス!」ジェロームはヒッグスを浮かせた。ヒッグスは抵抗したが、呪文を振り切ることが出来ずに、もがいた。ジェロームはせせら笑った。

「このままお前ごと鍋に放り込んでやる・・・・・・完成していなくとも、毒には変わりない。さて、果たしてお前はどうなるかな?」






「それっ、落ちろ・・・・・・」










ヒッグスは、真っ赤な血の溜まった鍋の中へ、まっ逆さまに落ちてゆく・・・・・・。