掌編二題 (その2) 【誘拐】 【ライトノベル】 | レンタル・ドリーム 『夢』 貸し出し中!

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アンドロイドの皆様へ。
あなたに今夜見て頂きたい『夢』を貸し出すレンタルショップです。
さてさて、用意致しました今宵のプログラムは……。

原則一話完結のショートストーリーです。
 


【誘拐】


今日、宇宙人に拐われました。

UFOの中で会った宇宙人は、お母さんと全く同じ姿をしていました。

本当の姿を見せたら、僕が怖がって話を聞いてくれないだろうと考えたのだそうです。

宇宙人は誘拐するにあたって、僕の事をしっかりリサーチしていたのです。

ですから言葉はもちろん日本語で、僕にも分かるように優しく話してくれたのでした。

人間同士での争いがいかに無意味で愚かなことであるかとか、人を思いやる心がいかに大切なものであるか。

そして地球がいかに大変な危機にあるかなどをです。

ゆくゆくは、僕に地球の代表となって、宇宙人たちと交渉できるようになって欲しいと。

それまでいろいろとサポートしてくれるとも約束してくれました。

母と同じエプロン姿で、満面の笑みをたたえ、優しい声でです。



その後僕がUFOを降ろされたのは、夕食前の事でした。

この事をどのように報告しようかと考えながら自宅の扉を開いた僕に、母は、

「何時まで遊んでんのよ、ランドセル置いて。まだ宿題してなんいんでしょ。今日は塾がないからって自由すぎるんじゃないの。毎日家の手伝いをしますって、この前宣言したのはどこの誰よ。食事までにお風呂の掃除ぐらいやっておきなさいよ」

やっぱりこれが僕のお母さんです。

宇宙人のリサーチは、いまいち甘かったと言わざるをえません。



終わり





【ライトノベル】


この度は奮発して特急の指定席券を買いました。

混雑するシーズン、今回ばかりは立ちっぱなしにならなくてすむでしょう。

私が指定座席を見つけた時には、隣席には既にどなたかが座っていらっしゃいました。

お見かけした限りでは、私と同年代のようです。

互いに会釈を交わすと、お隣さんはすぐにスマートフォンに目を落としてしまわれましたが。

やはりスマートフォンは他人との関係を絶つのにこれ以上無いツールといえましょう。



私はといえば、カバンの中から、学生時代に読んだ古い古いライトノベルを取り出しました。

学生向けに行間も字間も広く、とてもテンポ良く読める、近未来SF活劇です。

この帰省の折に実家から発見し、懐かしさのあまり持ち出してきてしまったのでした。

終着駅まで2時間、これほど読書に適した時間は、他にありませんから。

私がその本を前の簡易テーブルに置き、さらに飲み物取り出そうとしていた時、隣の方から声が掛りました。

聞けばその方もこの本を読んだ事があるのだそうです。



近未来SFの舞台は21世紀が始まったばかりの頃。

現在より過去の未来でした。

私たちはかつて思い描かれていた世界より、ずいぶん違う社会に暮らしているようです。

スマートフォンの事は書かれていませんでした。


この本の内容以外でも話題が尽きることはなく、結局私たちは終着まで話し続けたのでした。



終わり