Garage Full Scale 奮闘記 - Amebaブログ

Garage Full Scale 奮闘記 - Amebaブログ

LOTUS車のレストア記事。他に「Dr. AMP Lab.」名義の記事も収録。

またAUDIO、しかもスピーカー・ネタ。

1987(昭62)年のGWに、新婚旅行で初めて英国を訪れた。主な目的はクルマ(Vanden Plus Princess 1300)の買い付けと言うか、選定であった。無謀にもレンタカーを借りて地図を頼りにブライトン(Brighton)のショップまで行き着けたのは、今となっては奇跡?

その話は置いといて、ロンドン市内観光の折に「大英博物館」を訪れ、ついでにお近くのトッテナム・コート通り(Tottenham Coat Road)に立ち寄った。何でも英国の家電通りらしいと言う事だった様な。ところが、地元の名古屋・大須、果ては東京・秋葉原の電脳街とは異なり、普通の家電量販店が建ち並び、自国製のSMEとかQUADの製品を見る事も無く、ほとんどが我がSONYとかVICTORの製品であった。その中で1軒だけTANNOYのスピーカーを置いていたショップがあった。

そのモデルは「TANNOY/DOVER」。日本正規代理店のTEACで取り扱いの無い、英国国内向けのモデルで、ユニットはかの「STIRLING/HW」と同じフェライトマグネットの「2995」ユニットをコンパクトな密閉箱に押し込めたSPであった。

ある時期、アルニコ・マグネットは、英国製の特産であったそうな。アルミニウム(Al)・ニッケル(Ni)・コバルト(Co)を合わせた造語がアルニコ。その内、コバルトの主な産出国であった、かつての英国連邦領・南アフリカの政情不安(ネルソン・マンデラとかの話)もあって、コバルトの調達が困難となり、フェライト・マグネットの採用に至ったらしい。

それはともかく、TANNOY製25cm同軸2-wayユニットの、ⅢLZ→HPD-295Aの後を継ぐユニットだし、同時期の「STIRLING/HW」にも採用されているので、悪かろう筈も無いと考え「別送品」として日本に送ってもらった。何しろ「STIRLING/HW」の邦価の1/2位なのだから。

当時は赴任先の集合マンションに仮住まい、届いた「TANNOY/DOVER」を再生して落胆した。実家では「HPD-295A+S/S コーネッタ箱」を聴いていたので、その違いに愕然とした。鋭い高音、薄い中域、何よりも量感の足りない低音。高域については例によってエージングが必要なのは判るが、やはりマグネットの厚みが変わり、それに伴いホーンの長さが短くなってしまった事に原因があるのでは?
この頃、フェライトマグネット採用により数多のモデル(Westminsterとか、GRF・Memoryとかも)が販売され、TEACの上手な販売戦略にもより好評であった様だが、私的にはフェライト・マグネットのシリーズには感心しなかった。それが払拭されたのは、「Westminster/Royal(Alnico Max Ⅲ)」、すなわちアルニコ・マグネットに戻ってからである。

話を元に戻そう。件の「TANNOY/DOVER」は、長らくTVセットのSPとして、やや肉声が聞き取りにくい感もありつつも惰性で使い続けていた。その役目は先回製作した「PIONEER PIM-16A(KT)+自作バスレフ箱」に席を譲ってラボ(GFS)に持ち込んだ。

魔改造(!?)と言う程でもなく、要するにバスレフ・ポートを増設しようと思うに至ったのだ。同時期の「STIRLING/HW」は、ちゃんとしたバスレフ・ポートは無いものの、サイドにスリットが設けてあり、この開閉で低域がコントロールできた。更には巻き線抵抗のアッテネーターで高域も減衰できた様である。つまりは、密閉箱よりある程度背圧を抜いた(バスレフ箱の)方が低域の量感が得られると思った次第。
コイズミ無線のHPから、FOSTEX製のバスレフ・ポートが見つかった。当初は塩ビ管でも良いか、位に考えていたが、こちらの方が仕上がりが良さそうだ。

DOVER」は、先代の「EATON」に比べやや小ぶりだが、内容積はほぼ同一と見なす。「EATON」のポートを実測。さらにHPD-295Aのマニュアルに書かれていた自作箱のポート容量から、FOSTEX/P-76P(l=110mm)」は、5mm程削ればほぼ同容量になる事を計算上確認した。

TANNOY/DOVER」の銘板(ステッカー)はスクレーパーで剥離した。移動先はSP下部で考えていたが、考え直してSP直下とし、その下にバスレフ・ポートを開口した。


FOSTEX/P-76P」の開口径は「81mm」。探したら「82mm」のホールソーが見つかった。元々は石膏ボードにダウンライトの穴を開ける用途らしいがこの際どうでも良い。パーツより工具の方が高いのはよくある話。

GFS2階のラボに持ち込んで、コーネットの内側に床置きでセット。試聴してあらびっくり!これ程変わるとは思っていなかった。各帯域のバランスが取れ、これなら「EATON」の後継として胸が張れる音だ。クラッシックもポピュラーも見事に再生できる様になった。

この「TANNOY/DOVER」、実は国内にもうワン・ペアー存在する。英国で購入する時に友人をそそのかして合計2ペア送ってもらったのだ。その友人宅でもTVセットのSPとして余生を送っている。早く友人に教えてあげなければ。

もう半世紀(50年!)も経つの事なので、年寄りの戯言と取って頂ければ良い。

ガレージのBGM用に当初製作したSP箱は、本来なら三菱電機製「P-610×2個」用のSP箱なのだが、それを流用して「PIM-16A×2+PT-20」が納めてあったが、ALTEC「A-7X」が余っていたので、長らく死蔵していた。最近になり、ALTEC「A-7X」を処分する気になったので再登場である。ところが「PIM-16A」の劣化が酷いので、「PE-16」に交換した。結果はにべなる物かな。


振り返ってみれば、普及品の「PIM-16A」ユニットはまともな物が残っていない。
個人的には思い入れの深い、往時のパイオニア製「PIM-16A」ユニット(16cmφ=6寸半)であるが、さすが半世紀を経て、寿命であるが如く自壊(センターキャップは凹み、コーン紙もよれよれ)して来た。
思い起こせば、14の歳に製作した「PIM-16A+バスレフBOX」は、今でもオブジェとしてオーディオルームに鎮座しているが、音も音楽も発する事は無い。


辛うじて及第点を与えられたのは、1977(昭52)年頃、パイオニア社が「ロンサム・カーボーイ」と名に打って、カーステレオに革命をもたらした頃に、リアーSPとして採用した「PIM-16(KT)」ユニットのペアである。

そこでちゃんとした「PIM-16A」ユニットのSP箱を作ろうと思うに至った。市販のキットやら製品には適当な物は無い。ならば「メーカー推奨箱」に成らざるを得ない。

お近くのホームセンターで「ラワン・ランバーコア、21mm厚・910×1820」の合板を選択。コーナーの補強には「25×25mm」の白木材を採用。どちらも柔らかい素材なので、インパクトドライバーで木ネジを打ち込む事ができ手間が省けた。

外装の微妙な隙間はパテで埋め。段差はランダムアクションサンダーでフラットに。
外装の仕上げは、悩んだ挙げ句、安直な「木目シート」を貼り付けて仕上げた。ネットで見た色見本より現物は明るめだったが、致し方ない。

その一方で、サランネットは濃いめだったかな?

話は前後するが、おまけ程度にツィーターを増設した。フルレンジ一発では流石に高域が不足すると思われたので、である。ユニットはコイズミ無線で入手できる一番廉価な中華製のユニット。手持ちの200V/4μFで低域を切って、繋いだだけ。
ガレージで簡単に音だしチェックしてオーディオルームに搬入。

実はTANNOY/EATONを置く台座代わりだったのである。出てきた音はどうだったか?BGMとしてFM放送を聴取するのにちょうど良い位。ニュースを読み上げるアナウンサーの声が至極ニュートラル。一方でジャンルを問わずに無難に再生。最近のMarvel作品の様な低音盛り盛りのサウンドもちゃんとこなす。つまりは作って良かったスピーカーであった。

季刊「STEREO SOUND (S/S)」誌を初めて買ったのは通巻第27号(1973年7月1日発行)であった。「暮らしの手帖」のオーディオ・バージョン?(そう言えば車・バージョンが「CAR GRAPHIC」であった様な?)

通巻第37号(1976年1月1日発行~実際に書店に並ぶのはその約1ヶ月前)の「My HandiCraft」の記事は衝撃的であった。そのタイトルは「タンノイⅢLZ~コーナー・エンクロージャーをつくる」。



 

当時はS/S誌のライターとして五味康祐氏も健在であったし、記事の端々に「クラッシック音楽の再生にはTANNOY/Autographが最高!」と言う意見が汲み取れた。
事実、1975年頃、知人の伝手で本物の「TANNNOY Autograph(MG-15入り)」を聴く機会があり、これこそ究極のスピーカーと信じた(後日入手する事になるが、その経緯は今回は省く)。

その前に現実的に入手可能であったのは、件の「S/Sコーネッタ箱・キット」と「TANNOY/ HPD-295A」ユニットであった。運良く、1977年の春に入手する事が出来た。

当時のラインアップは、
ターン・テーブル:マイクロDD-7、カートリッジ:オルトフォンSPU-GT(E)、プリアンプ:LUXKIT A3400、メインアンプ:LUXKIT A3600(8045Gpp)である。

実際に音を出して、はっきり言って落胆した。到底Autographとは似ても似つかない、高域の鋭い、聴き続けるのも苦行と思われる音であった。
そんなはずは無い。ひたすら「TANNOY」のブランドを信じて聴き続けた。すると約4年が経過した頃、高域の鋭さが納まり、すなわちエージングが進んで、随分と聴き易い音に変わった。成る程、この為にか、ネットワークには「roll off」と「turn over」という独特な高域調整のSWが備わっている。エージングが進まぬうちは、これらを微調整して聴き易い所を探る。エージングが進むとほぼ「normal」のポジションに戻る訳である。

S/Sコーネッタ+HPD-295A」は、約6年間(~1983年)メインSPの座を占め、その後は主(あるじ)の流転の人生ゆえ、しばらく鳴りを潜める。それどころか、1990年に主(あるじ)が「TEAC/進工舎箱のAutograph(HPD-385A入り)」を購入するに至り、両親の住む隣家に引き取られ、余り音も音楽も奏でる事無く、余生を送っていた。

2002年に自宅近くに、自動車趣味のガレージ(と言うよりファクトリー)が完成し、2009年にはその2階が「Dr.AMP Lab.」になり、そこで第2の人生を送る事になった。
それからは自作アンプのモニターSPとして再び活躍し、各種アンプの音質の違いを良く聴き分けられた。

話は前後するが、我が家のメインSP~「TEAC/進工舎箱のAutograph」の「HPD-385A」は、1995年頃に「Monitor GOLD 15“」に交換された。取り外された「HPD-385A」は、某オークションで入手した「Berkley箱」に納めて、知人宅で過ごしていた。つい最近になり、「Autograph・自作箱」なる物が格安で手に入り、それに「HPD-385A」を納めて、知人宅で至高の時間を過ごしている様だ。(Blog前項)

久々に「HPD-385A」入りの「Autograph」を聴いて、ふと手元の「S/Sコーネッタ+HPD-295A」を聴き直して、少々疑念が生じた。

果たして「S/S コーネッタ」は、「HPD-295A」と「ⅢLZ/MG-10“」のどちらと相性が良いのか?
それを検証すべく、改めて「ⅢLZ/MG-10“」を探し出した(と言っても某オークションを漁っただけだが)。



 

手元に届いた「ⅢLZ/MG-10“」ユニットは、望外に極上のコンディションであった。
エッジのビスコロイドの粘度も新品同様に充分で、経年変化と思われるのはコーン紙のシミ程度であった。恐らく「ⅢLZ in Cabinet」の取り外し品?若しくはスペアーとして保存していた物が「遺品整理」で市場に出たものか?詳細は不明である。



良い機会なので「S/S コーネッタ箱」に、キャスターを取り付けた。入手した「ⅢLZ/MG-10“」ユニットにはSP端子板が無かったので、「HPD-295A」の物を流用した。



 

「S/S コーネッタ」箱に「ⅢLZ/MG-10“」を取り付けるとどうなるか?

個人的には1977年当時では実現できなかった組み合わせである。



 

かのS/S誌でも、通巻第38号(1976年4月1日発行)ではタイトルが「タンノイ295HPD~コーナー・エンクロージャーをつくる」に変わり、更には通巻第39号(1976年7月1日発行)では、「タンノイ10”ユニット用~コーナー・エンクロージャーをつくる」と変遷している。



その通巻第39号の最後の頁(p.304)にインプレッションが記載されている、引用させて戴く。

「ⅢLZ Mk-2にすると低域の伸びは抑えられるが低域はソリッドに引き締まり、中域が充実した密度が高く凝縮した音になり、タンノイ独特の高域が鮮やかに色どりをそえるバランスとなる。この音はすでに存在しない旧き良きタンノイのみが持つ燻銀の渋さと、高貴な洗練を感じさせる、しっとりとした輝きをもったものだ。まさしく、甦ったオートグラフの面影であり次から次へとレコードを聴き漁りたい誘惑にかられる、あの音である。」

この記事が掲載されて、ほぼ半世紀(47年)経って、「S/S コーネッタ」箱に収める「ⅢLZ/MG-10“」と「HPD-295A」の違いを検証する事ができた。

周知の事実だが、1970年代初頭に、TANNOY社は火災に見舞われ、自社製のコーン紙が製造困難となった。日本に於いては、輸入代理店が「シュリロ貿易」から「TEAC社」に変わる頃と重なる。
洋の東西を問わず、住宅事情の変化に伴い、より小型のスピーカー需要にも対応せざるを得なかった。そう言った背景を基に、自社製のコーン紙製造をすっぱりと諦め、西独クルトミュラー社製コーン紙の採用に至る。小型なエンクロージャーでも充分な低音が再生できる様に、コーン紙は強化され重くなった。「HPDシリーズ」の低音は鍵は正にこの西独クルトミュラー社製コーン紙による。

すなわち、それ以前の「Monitor GOLD」シリーズに比べ、明らかに低音が重いのだ。
それはコンサート・ホールで聴かれる、ダンピング=0の、風の様な空気を震わせる低音とは違って、何か人工的な作り込んだ低音なのである。重い。

それが「Monitor GOLD」ユニットでは、ごく自然な風というか空気感で感じられる。これは「10”ユニット」でも「15”ユニット」でも同じ傾向にある様に思う。

手前味噌だが、我がオーディオ・ルームに鎮座する「TEAC/進工舎箱のAutograph(+MG-15)」は、これまた手前味噌の自作真空管アンプ(英国古典球)で、空気が震える。
この領域に至ったのはつい最近、自作アンプを50機/50年作り続けた成果かも知れない。

対して「S/S コーネッタ+MG-10“」は、成る程、重たい低音から解放され、空気感のある低音が聴かれる様になった。これは「HPD-295A」より良い点。
反面、入手した「ⅢLZ/MG-10“」は新品同様なだけあって、半世紀経ってもエージングが進んでいなく、かつて「HPD-295A」で苦戦したかの如く、高域に鋭さが残る。止む無く、ネットワークの「Roll Off」を一段減じてバランスが取れた。

成る程、これも往時のS/S誌の記事通りに「アリ」か。元々が「和室8畳でAutographの音を!」と言う企画であった。そう言う環境であれば十分納得が行く。
が、あくまでも模倣であって決してオリジナルの「Autograph」の音では無い。
その両方を知る身としては、「S/S コーネッタ+MG-10“」は、やはり「Autograph」へのオマージュと言った立ち位置か?残る余生を一緒に送って行こう。