S/S コーネッタ、47年目の真実 | Garage Full Scale 奮闘記 - Amebaブログ

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LOTUS車のレストア記事。他に「Dr. AMP Lab.」名義の記事も収録。

季刊「STEREO SOUND (S/S)」誌を初めて買ったのは通巻第27号(1973年7月1日発行)であった。「暮らしの手帖」のオーディオ・バージョン?(そう言えば車・バージョンが「CAR GRAPHIC」であった様な?)

通巻第37号(1976年1月1日発行~実際に書店に並ぶのはその約1ヶ月前)の「My HandiCraft」の記事は衝撃的であった。そのタイトルは「タンノイⅢLZ~コーナー・エンクロージャーをつくる」。



 

当時はS/S誌のライターとして五味康祐氏も健在であったし、記事の端々に「クラッシック音楽の再生にはTANNOY/Autographが最高!」と言う意見が汲み取れた。
事実、1975年頃、知人の伝手で本物の「TANNNOY Autograph(MG-15入り)」を聴く機会があり、これこそ究極のスピーカーと信じた(後日入手する事になるが、その経緯は今回は省く)。

その前に現実的に入手可能であったのは、件の「S/Sコーネッタ箱・キット」と「TANNOY/ HPD-295A」ユニットであった。運良く、1977年の春に入手する事が出来た。

当時のラインアップは、
ターン・テーブル:マイクロDD-7、カートリッジ:オルトフォンSPU-GT(E)、プリアンプ:LUXKIT A3400、メインアンプ:LUXKIT A3600(8045Gpp)である。

実際に音を出して、はっきり言って落胆した。到底Autographとは似ても似つかない、高域の鋭い、聴き続けるのも苦行と思われる音であった。
そんなはずは無い。ひたすら「TANNOY」のブランドを信じて聴き続けた。すると約4年が経過した頃、高域の鋭さが納まり、すなわちエージングが進んで、随分と聴き易い音に変わった。成る程、この為にか、ネットワークには「roll off」と「turn over」という独特な高域調整のSWが備わっている。エージングが進まぬうちは、これらを微調整して聴き易い所を探る。エージングが進むとほぼ「normal」のポジションに戻る訳である。

S/Sコーネッタ+HPD-295A」は、約6年間(~1983年)メインSPの座を占め、その後は主(あるじ)の流転の人生ゆえ、しばらく鳴りを潜める。それどころか、1990年に主(あるじ)が「TEAC/進工舎箱のAutograph(HPD-385A入り)」を購入するに至り、両親の住む隣家に引き取られ、余り音も音楽も奏でる事無く、余生を送っていた。

2002年に自宅近くに、自動車趣味のガレージ(と言うよりファクトリー)が完成し、2009年にはその2階が「Dr.AMP Lab.」になり、そこで第2の人生を送る事になった。
それからは自作アンプのモニターSPとして再び活躍し、各種アンプの音質の違いを良く聴き分けられた。

話は前後するが、我が家のメインSP~「TEAC/進工舎箱のAutograph」の「HPD-385A」は、1995年頃に「Monitor GOLD 15“」に交換された。取り外された「HPD-385A」は、某オークションで入手した「Berkley箱」に納めて、知人宅で過ごしていた。つい最近になり、「Autograph・自作箱」なる物が格安で手に入り、それに「HPD-385A」を納めて、知人宅で至高の時間を過ごしている様だ。(Blog前項)

久々に「HPD-385A」入りの「Autograph」を聴いて、ふと手元の「S/Sコーネッタ+HPD-295A」を聴き直して、少々疑念が生じた。

果たして「S/S コーネッタ」は、「HPD-295A」と「ⅢLZ/MG-10“」のどちらと相性が良いのか?
それを検証すべく、改めて「ⅢLZ/MG-10“」を探し出した(と言っても某オークションを漁っただけだが)。



 

手元に届いた「ⅢLZ/MG-10“」ユニットは、望外に極上のコンディションであった。
エッジのビスコロイドの粘度も新品同様に充分で、経年変化と思われるのはコーン紙のシミ程度であった。恐らく「ⅢLZ in Cabinet」の取り外し品?若しくはスペアーとして保存していた物が「遺品整理」で市場に出たものか?詳細は不明である。



良い機会なので「S/S コーネッタ箱」に、キャスターを取り付けた。入手した「ⅢLZ/MG-10“」ユニットにはSP端子板が無かったので、「HPD-295A」の物を流用した。



 

「S/S コーネッタ」箱に「ⅢLZ/MG-10“」を取り付けるとどうなるか?

個人的には1977年当時では実現できなかった組み合わせである。



 

かのS/S誌でも、通巻第38号(1976年4月1日発行)ではタイトルが「タンノイ295HPD~コーナー・エンクロージャーをつくる」に変わり、更には通巻第39号(1976年7月1日発行)では、「タンノイ10”ユニット用~コーナー・エンクロージャーをつくる」と変遷している。



その通巻第39号の最後の頁(p.304)にインプレッションが記載されている、引用させて戴く。

「ⅢLZ Mk-2にすると低域の伸びは抑えられるが低域はソリッドに引き締まり、中域が充実した密度が高く凝縮した音になり、タンノイ独特の高域が鮮やかに色どりをそえるバランスとなる。この音はすでに存在しない旧き良きタンノイのみが持つ燻銀の渋さと、高貴な洗練を感じさせる、しっとりとした輝きをもったものだ。まさしく、甦ったオートグラフの面影であり次から次へとレコードを聴き漁りたい誘惑にかられる、あの音である。」

この記事が掲載されて、ほぼ半世紀(47年)経って、「S/S コーネッタ」箱に収める「ⅢLZ/MG-10“」と「HPD-295A」の違いを検証する事ができた。

周知の事実だが、1970年代初頭に、TANNOY社は火災に見舞われ、自社製のコーン紙が製造困難となった。日本に於いては、輸入代理店が「シュリロ貿易」から「TEAC社」に変わる頃と重なる。
洋の東西を問わず、住宅事情の変化に伴い、より小型のスピーカー需要にも対応せざるを得なかった。そう言った背景を基に、自社製のコーン紙製造をすっぱりと諦め、西独クルトミュラー社製コーン紙の採用に至る。小型なエンクロージャーでも充分な低音が再生できる様に、コーン紙は強化され重くなった。「HPDシリーズ」の低音は鍵は正にこの西独クルトミュラー社製コーン紙による。

すなわち、それ以前の「Monitor GOLD」シリーズに比べ、明らかに低音が重いのだ。
それはコンサート・ホールで聴かれる、ダンピング=0の、風の様な空気を震わせる低音とは違って、何か人工的な作り込んだ低音なのである。重い。

それが「Monitor GOLD」ユニットでは、ごく自然な風というか空気感で感じられる。これは「10”ユニット」でも「15”ユニット」でも同じ傾向にある様に思う。

手前味噌だが、我がオーディオ・ルームに鎮座する「TEAC/進工舎箱のAutograph(+MG-15)」は、これまた手前味噌の自作真空管アンプ(英国古典球)で、空気が震える。
この領域に至ったのはつい最近、自作アンプを50機/50年作り続けた成果かも知れない。

対して「S/S コーネッタ+MG-10“」は、成る程、重たい低音から解放され、空気感のある低音が聴かれる様になった。これは「HPD-295A」より良い点。
反面、入手した「ⅢLZ/MG-10“」は新品同様なだけあって、半世紀経ってもエージングが進んでいなく、かつて「HPD-295A」で苦戦したかの如く、高域に鋭さが残る。止む無く、ネットワークの「Roll Off」を一段減じてバランスが取れた。

成る程、これも往時のS/S誌の記事通りに「アリ」か。元々が「和室8畳でAutographの音を!」と言う企画であった。そう言う環境であれば十分納得が行く。
が、あくまでも模倣であって決してオリジナルの「Autograph」の音では無い。
その両方を知る身としては、「S/S コーネッタ+MG-10“」は、やはり「Autograph」へのオマージュと言った立ち位置か?残る余生を一緒に送って行こう。