狂宴の端で起きた、ちょっとした刃傷沙汰は、宴全体に大した影響を与えることなく、すぐに元通りの喧騒を取り戻す。
俺は、あわてて大広間を出る、広く作られたホールがあり、二階までの天井を吹き抜けにして作られた構造になっており、ホールの真ん中には巨大なシャンデリアが飾られている。ホールには装飾の行き届いたベンチが数脚整えられており、幾人かがひと時の休みを堪能していた。そんな中、ベンチに座った二人の会話が聞こえてくる。
「だいたいあんた何処に行ってたのよ、あんな目にあったのは、アキのせいだからね」
ひどく、怒っているようだ。
「ごめんねミナちゃん、こんなことになるなんて思っても見なかったし、どうしても話をしておかなくちゃいけない人が何人かいたんだから、仕様が無かったんだよ。ごめんね。」
と小太りな青年のほうは畏まりに畏まって、若干小さくなったようにも見える。
「アキがどうしてもって、是非話をしたい人たちがいる、そういうから、本当は断るつもりだったこのパーティーにだって来たの。全部アキのため。それなのに、アキは私のために何をしてくれたの?仕様が無かった?いい加減にしてよ頭に来る」
と、話せば話すほど自分の言葉で、自分の怒りを増幅しているように見える紅の姫様。
「だからずっとごめんって謝ってるなじゃいか~」
「本気で謝ってない、本心から謝ってない!だって仕様が無いって、おもってるんじゃない!!」
「そんなことないよ。本当に悪かったって思っているよ。」
「本当に悪かったと思ってたらそんな謝り方しない!」
「じゃあどうすればいいんだよ~」
「どうすればいいって、そんなことくらい自分で考えてよ。そんな事言っている時点で、反省していないって言ってるのよ、もういい加減にして!!」
どう見ても、痴話げんかだ。この二人どういった関係なのだろう。紅の疾風に、婚約者がいると聞いたことはないし、兄弟の会話の内容でもない。どう低く見積もっても恋人同士の痴話げんかだろう。そうでなければ夫婦といっても驚きはしない。そしてこの会話の流れは、黒髪の青年・・・アキと言ったか、彼の敗色は濃厚だった。
まあ、男女の関係において、この類の争いで男性が勝つというのは正直ほとんど見た事が無い、おそらく女性が勝っていた方が、万事収まりが良いからだと思うが。
「ごめんね、ところでそこの方。何か御用でしょうか?」
アキという青年が明らかにこちらを見ていった。気が付かれていたか、といっても別段やましいところがあるわけではないから、堂々と名乗る。
「先程は我が国の阿呆が、大変失礼した、侘びにと思ってやってきたのだが」
ムクムクと俺の中に好奇心が沸いてくる。おもむろに、右脚から踏み込み、半身になりながら大上段から得物を振り下ろそうとする、切先には紅の王女、その瞬間ゾワリとした感覚とともに、スルリと割り込む黒い影。《マズイ!》得物を放り出し、全力で後退する。
キィィンと甲高い音がして茎の長い鉄芯入りの造花が、真っ二つになった。危なかったが、今度は少し見えた。アキと言う青年は、独特なすばやい体捌きから、腰だめにした剣を一瞬にして、上方に抜き放っていたのだ。ただしその打ち込みの速度は、尋常ではなかった。はじめから後退するつもりで打ち込んでいたにも関わらず、危ういところだった。まったく世界は広いや。こんなマスタークラスが俺の知らないところにいるなんてワクワクしちまう。
「悪かったなぁ、他人の想い人に、花なんぞ送るもんじゃねえや、本当に済まねえ、堪忍してくれ」
言いつつ、真っ二つになった造花を拾い上げる。二人は呆気に取られているようだった。
「しかしお前さん、すげえ腕前だ、どこで修行しなさった」
「剣に関しては、じいちゃんに仕込まれました。次期陛下」
「なんだ、ばれちまってたのか」
「しかしなんで急に、お江戸言葉に・・・」
「ん、済まねえな、こう、俺は嬉しくなって来ちまうとついな、無頼時代の町言葉になっちまう」
紅の姫が、何かうながす様な仕草をしている。青年が頷く。
「そうだね、じゃあ僕らの最後の用事を終わらせよう。殿下、貴方に伝言が有ります。貴方にとっては先生にぬるのかな?では、王位継承決定おめでとう。貴方には、これから様々なかべにぶつかるでしょうが、貴方は本来の貴方らしさを発揮すれば、事は成るでしょう。本来の貴方らしさを、今の環境で活かすことが、今の貴方にとっての課題です。頑張りなさい」
いうが早いか、既に踵を返している。その背中が何も聞くなと語っている。ホール出口で立ち止まったアキが叫ぶ。
「てめえ、次に俺の女に手を出しやがったら、ただじゃおかねえからな。じゃあ、あばよ」
扉が閉まる。
破顔大笑、わかってらぁ兄弟。独りごちて、今日はこのまま、昔馴染みの悪友に会いに行こう、あばずれどもと楽しく夜を明かそう。久しぶりに晴れ晴れとした気分でそう決めた。
閑話休題
江戸言葉ってあんな感じでよかったんだっけなあ・・・ちゃんと伝わったかなあ。
僕はぼんやり考えながら、隣の姫様を見て
「まったく、こわい王子さまだよ」
ぼくは飽きれ半分つぶやく
「何よ、あなたの必殺技がよけられたのそんなにくやしかったの?」
「くやしいっていうより、ほらこれ、避けざまに、食らっちゃった」
アキの脇腹には、引っ付き花の実がついていた。
「これ、刃物だったら致命傷だよ、こわいこわい」
「それにしても、あんた最後に何を叫んだの?よくわからなかったんだけど」
「ナイショ」
「チョット待ちなさい、まだ許したわけじゃないんだからね」
痴話喧嘩の続きがはじまり、夜は更けて行く。


