我ながら、素晴らしい身のこなしで、飛び退いた。まるで猫みたいだと自賛した。
黒髪で小太りな青年は、まだ目覚めていないようだったから、周りを見渡してみる。
浅い洞窟の様だけど、妙に明るい、すごく見覚えがある、まだ意識がハッキリしていないかな?
ちいさな、女神像と燭台を見てわかった。
風の女神さまの祠だ。
町のハズレに、ひっそりと自然窟を利用して、作られている。最近は、教団がずいぶん睨みを利かせていて、地域信仰も制限しはじめたから、人気はない。
かく言う私も、ある時期を境にまったく訪れることはなくなっていた。
もっともそれ以前は、毎日の様にやってきていた。
数瞬、そんな回想をして改めて、着衣に乱れが無いか確認しおわり、ひとまずホッとしつつ、黒髪の青年を見る。
この青年に危険因子は、皆無にみえた。
自分が女性で、健康な男性にとって魅力的であると、多少ではなく理解して、なお危険を感じなかった。
不思議と懐かしく、どうにも憎めない。だらしなくヨダレを垂らして寝ているからかな?
にわかに、周囲に騒々しい足音が広がる。
祠に詰め寄る、兵達。
この瞬間、私は先ほど起こった出来事を、思い出してしまった。
激しく叩かれる扉の音、壊されたドアの向こう側に見える血塗れになってしまった気の良い侍女、今と同じ様に下卑た笑いを浮かべながらにじり寄ってくる兵達。
感情が爆発しそうに成るまさにその瞬間。
「そこまでだ!」
突如襲う激しい既視感。
「状況はさっぱりわからないけど、どっちに味方するべきかは、顔みりゃわかる!」
黒髪の青年は、膝立ちになりながら、腰に履いている剣の様なものに手を掛けている。
ますます酷く成る既視感に、何故か涙が零れてしまう。
「なかせちゃった~、痛い目を見てもらわざるをえないね。」
青年が起き上がる動作と共に、光の筋が三条、煌めいたようにみえた。
呻き声を漏らしながら崩れ落ちる。
「とりあえず逃げよう!」
そう言って、手を差し伸べた彼を見て何故か今度は、恥ずかしくなってしまった。きっと顔なんて真っ赤だろう。急にドギマギし始めた私に、業を煮やしたのか、私の手を取り駆けだした。
つづく




