リッツおじさんの話では、王の私室に到着しているはずなんだけれど。



と見まわましていると、ミナちゃんの肖像画やら、天蓋付きの豪奢なベッド、やたらと凝った彫刻が施されている机と椅子などを見ると、リッツおじさんの情報に間違いはなかったようだ。




窓からはちょうど、戦闘が始まったのが見えている。

おそらくリッツおじさんの指揮であれば、あんな奇策が無くても十分に戦えるだろうし、本来であれば戦闘を行う必要すらなかった。


迫り来る敵の援軍もいて、こちらには王こそいないけれど継承権第一位の王女と、宿将たる王弟殿下までいるのだから、一度北か東の城に落ち延び、そこで戦力を整えるというのが最も妥当な案だろう。


どうせ戦ったところで、戦力の乏しい現状ではこの城を維持できないので、戦闘に勝利したところでぼくらとてこの城を放棄せざるを得ないのだ。



それでも今回は策を弄してでも、わかりやすい形での戦果をあげておく必要があった。



一つ目は、ミナちゃんが王様救出のための旗頭となる戦いを先導した、という事実がほしかったこと。


これはミナちゃんの立ち位置を内外に向けてはっきりさせる、王女の継承権に正当性が有ることをより印象付けるため。


遠い外戚関係の横行が継承権を主張してきたり、わけのわからない後継者がこれを機にポコポコと出てこられると、その分だけこちらの戦力が分散してしまう。



二つ目には、ミナちゃん自身の意識の問題だ。


ミナちゃんにはまだ後継者としての自覚なんてまったくない。


だからこうやって、わかりやすく苦労をしてもらって


自分が、王を助けるんだ


自分が、王の跡継ぎなんだ


自分が、王の守っていたこの国を守るんだ


という意識を持ってもらうための戦い。


さすがに乱戦必死の攻城戦の指揮を、形だけとはいえ取らせるというのは危険すぎる。


それに自分の我が家を破壊するような戦いになるのだから・・・。




最後に・・・




考えをめぐらせようとしていた所で、赤毛を汗露で塗らした美少年がやってきた。


「アキ様、周囲の探索終了しました。どうやら敵軍は城を引き払っている模様です。王および王妃の安否はいまだにわかっていません」


リッツ叔父さんの次男ルディである。

場内進入後、ルディには隊を率いて場内の探索をお願いしていた。


「ありがとう、ルディ。やっぱり王様たちは連れ去られていたかあ。あの戦闘にも参加していなさそうだし、指揮官はさっさと土産を持って本体に合流しようとしているか。」


「すぐに追いますか?」


「いや、とりあえず手は打ってあるから、それでだめなら今何をやっても王を助けられないと思うから、今やれること、やるべきことをやろう。まずは王冠だね」


「でも代々王様と、先代の王様しか保管場所を知らないばかりか、形すらわからないような代物をどうやってさがすのですか?」



ルディは、困りきったような表情の中にも何か期待をしているような瞳をこちらに向けていた。


そんな子犬みたいな顔をされるとつい喜ばせたくなる。



「それはね、先代の王様はもう亡くなっているよね?今代の王様は行方知れず。じゃあそうだな・・・」


僕は王の私室にあった金属製の古びた、これといった特徴のない粗末な王冠をとりあげ


「これが、伝説の王冠だよ」


ルディの整った眉がひそめられ


「でもそんなところに大王の冠が保管されているわけがありません」


生真面目な赤毛の生徒は反論する。


「別に本物である必要はないんだよ」


「そんな・・・」


「そうだねえ、この世で王冠の形や保管場所を知る人は、王様だけなんだよね?だったらよほど有名な代物でなければ、どれでも同じだよ、だからさこうやって」



僕は王冠を軽く放り上げ、腰だめの姿勢になりタイミングを計る。


一閃


居合いで王冠に大きな傷を作る。


熱心な赤毛の生徒への、曲芸の大サービスだ。



関心しきりの赤毛の生徒は、だがしかし最後に


「でもこれって、ほとんどペテンですよね?」


若干面白くなってきたようで、笑いながらたずねてくる。



「こんなのをペテンといったら世のペテン師に失礼だよルディ」


僕はもう一度王冠を拾い上げながら


「ただのいたずらだよ」



僕らは逼迫した状況の中大笑いをしていた。






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