祠の外に出て、お城の方角を見ると幾つか火の手が、上がっている。
 街中でも、兵たちが持つ松明の灯りが、まるで自分たちを探しているかのように、ユラユラと怪しく揺れている。
 そんな光景を目の当たりにして、さっきまでの浮ついた気持ちが一気に覚める。


「で、近くに隠れるところとか、森や林みたいに、身を潜められる所ある?出来ればひとまず、お城から離れる方向でね」
 黒髪の青年が訪ねて来る。
 ここからは、少し行けば森が広がっている。
 だけどそんな事はできない、城にはお父様やお母様がいる。
 私がお守りせねば!
「あのシルエットは風車の城か、じゃあ君は、あの城に家族がいる?関係者なの?」
 何をこの男は言ってるんだ、当たり前じゃない!あの城は、わが家!父様、母様を守らないと!
「だいたいわかったよ。でもちょっと落ち着いて考えてみて」
 馬鹿にしないで!私は、落ち着いているし、あなたに命令されるいわれもないし、あなたに助けて欲しいなんて頼んでもいない!
「うん。でもそうもいかないんだ」
 まじまじと、私の顔を見る。
 そうすると、私にも彼の黒い双眸が見え、なぜだか不思議と落ち着いてくる。
「だって君、ミナちゃんでしょ?」
 まただ、強烈な既視感、私を見つめる黒い眼・・・
「あーーーーっ!」
 余りに大声だったので、抱きすくめられる様に、口を抑えられてしまう。
 こんな、イケメンでも何でも無い、言ってしまえば、ただの凡夫に抱きかかえられて、ドキドキしてしまっている。
 でも理由は、わかった。
 そして、小さくつぶやく様に
「あんた・・・アキ?」
 彼は、小さくうなずき、ちょっと微笑んでから、両手で私を抱え上げてしまう、勢いアキの首に両手でしがみつく様な体勢になってしまった。
「やっぱり、お姫様の正しいエスコートの基本中の基本は、お姫様抱っこだよね」
 などと、にこにこしながら呟いている。
「とりあえず、ここを離れよう。汗臭い男が群がってきそうだからさ」
 見た目とは裏腹に意外と、素早く移動を続けていたのだけど、さすがに私は怪我をしているわけではないし、このお姫様抱っことやらは、抱っこされている方も、主に脇やら、肩やらが痛いのだ。
 さらにその、なんというか、なんだ、アキの手がときどき胸に当たっている様でくすぐったいし、恥ずかしい!
 そんなわけで、アキはすごく残念そうだったけれど、今は二人して小走りで林を突っ切っている。


「ここら辺まで来れば、ひとまずあんしんかな、いったい風車の国に、何が起こったの?」
 話そうとして、不意に息が詰まる、気が付くとポロポロと涙が零れていた。
 そんな私を見て、はじめはオロオロと狼狽えていたけれどすぐに、そっと抱き寄せてくれた。
 何も、聞かずにただやんわりと、やっと落ち着いてきた頃合いに
「じゃあ、反攻作戦をかんがえよう」
 と、彼はにこにこ顏でそういった。
「それには、俺もちょっと噛ませてくれないか?」
 大きな人影が、月明かりにぼんやり見える。
「えっと、僕はアドリブが苦手でして、参加資格をお持ちの方ですか?」
 明らかに身を緊張させているのがわかる。
「そうさな、そこの森の中でいきなりラブシーンを見せ付ける、マセたお転婆姫の叔父をやってるからな、多分資格はあるはずだ」
 自分の今の状態を思い出し、アキを跳ね飛ばしてしまう。
「いきなり突き飛ばさなくても、いいじゃないか~」
 アキが、尻餅状態から立ち上がりつつボヤく。
 この声は、確かに叔父様!
 駆け寄って飛びつく。
「人違いだったらどうすつもりだ。まったく男と、人しれず逢瀬を楽しんでいたかと思えば、今度はこれだ、まったくお前 は、子供なのか、大人なのか?」
 半ば飽きれながら、髭の叔父様が私の頭をクシャクシャになでる。
「で、あそこにおる冴えない恋人を紹介してくれないか?」
「あ、あれは、そんなんじゃなくて、そうじゃなくて」
 大混乱をきたした私にかわって、自らアキが笑いながら口を開く。
「お久しぶりです、ヒゲおじさん。冴えないは余計ですよ」
「そんな呼び方される云われは・・・」
 一瞬間を置いて
「お前まさか、アキ坊か?」
 にこにこと、うなずくアキを叔父様は、私ごと抱き上げた。