二人が連れ立って向かった先は、どこをどう間違えてしまったのか目的の花壇ではなく、大公が趣味で作らせた庭園迷路だった。

入り組んだ生垣が複雑に絡み合い迷路になっている。
所々は行き止まりになっていたり、階段になっていて情報から見下ろせるような仕掛けになっているような場所もあったが、いかんせん小さな二人には上から見下ろしてもさっぱりわからなかった。

二人はその間手をつないだまま色んな話をした。
目玉焼きは崩して食べるのが好きだとか、お花は白くて小さいものが好きだとか、この服のリボンがかわいくて大好きだとか、本当に取り留めのないことをえんえん話し続けていた。
ひょっこり顔を出した、猫のびっくりした顔がかわいかったり、少年の話すおじいちゃんの勇ましい話に驚き、少年がくれた不思議な甘い茶色いお菓子がとてもおいしくておねだりしたり・・・。
二人はとても楽しく探索という名の散歩を続けていた。

少女は、少年のことがとても気に入ってしまっていたし、少年のほうも、自分のためにずっとついてきてくれている少女にうれしいなあと思っていた。

結局迷路は生垣が一部壊れてしまっている部分の下を潜り込んで、外周に脱出することに成功した二人だった。
もうその頃になると二人は親友だった。

空はまだ明るく、雲ひとつない晴天、白い少女と黒い少年が二人連れ立って歩いている。
木漏れ日は光のショウを催し、風は小鳥のさえずりとともに歌い、木々には動物が踊っているようだった。
まるでこの自然が二人を暖かく包んでいるかのような、そんな錯覚さえ覚えさせるような光景だった。

森の傍で赤毛の少女が、ものめずらしそうに棒を振り回して遊んでいるのが目に入った。
よく見ると、リボンを多くあしらった豪奢なつくりの真っ赤なドレスに身を包んでいる。
もしかしてあれは?
「あれは違うかな?」
少女は少年に問いかける。
「あ!僕の短剣だ!!」
二人は駆け出す。

突然走ってきた二人に驚く赤毛の少女に
「ごめん、その短剣は僕のおじいちゃんの大切なものなんだ」
一気にしゃべりきり申し訳なさそうだが断固とした意思の目でそう告げる。
「な、なによ、私がさっきそこで拾ったのよ。抜き方がよくわからないからイライラしていたの」
「その剣を返してあげて、お願い。この子はそれがないととても困ってしまうの」
白い少女が詰め寄る
「私が拾ったんだから私のものに決まっているでしょ、こんな不細工なもの欲しくもなかったけどそんな態度だったら、あげない!」
赤い少女は、今にも捨てようとしていた短剣を思い直したように抱え込む。
「そんなこと言っちゃだめ!返してあげて」
「返さない!」
紅白の少女がもみ合い、言い合っている。
はらはらと見守っていた少年が、赤い少女の指先が剣の柄の一部に架かったのを見て
「あぶない!」
一気に飛び掛って抜けかけた短剣を懐に収めていた。
赤い少女の指が剣の柄のスイッチにあたり、抜刀しかけていたのである。
二人の少女は虚脱したようにその様子を見ていたが、少年の腕から血が流れているのが見えて悲鳴を上げる。
白い少女は泣きながら、純白のドレスで少年の傷を抑えている。
すぐに持っていた白いハンカチで傷口を覆う。
赤い少女はただ呆然とした状態だったが、次第に現状が把握できるようになり自分のしたことをゆっくりと理解する。
「ごめんね、僕の剣を拾ってくれてありがとう。最初にお礼を言うべきだったよね」
と少年に先に謝られてしまい、行き場を失った感情はその場で爆発してしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい。本当にこんなことになるなんて思っていなかったの。ただいきなりやってきて、私が悪いみたいに思われて本当にいやな気分になって。ごめんなさい。」
赤い少女は泣きながら弁明していた。
「こっちもごめんね、ぼくの大切な剣を拾ってくれてありがとう。大丈夫こんなの痛くないから!!」
とくるくると手を回してみせる。
血がじんわりとにじんでくる。
赤い少女の目にもじんわりと涙がにじんでくる。
あわてて少年は赤い少女から腕を隠し、ハンカチで隠す。
「大丈夫!!」
そんな間、白い少女は少年のことをなんてお人よしなんだろう、そしてなんてやさしいんだろうと心に刻む。
「ごめん、ドレスがすごく汚れちゃった。お気に入りのリボンの服なのにごめんね」
今度は白い少女に謝り始めた少年にすこし呆れながら
「大丈夫、リボンは汚れていないし。ほかにもお姉さまのお下がりのドレスはいっぱいあるから」
近くの水溜りに派手に飛び込んで泥跳ねがドレスに汚れの島を作る。
「こうすれば汚れたようにしか見えないわ」
そんなやり取りを見ていて、赤い少女も意を決して取って置きのお気に入りの赤いスカーフを少年の傷口にぐるぐる巻きにし始める。
「包帯になるでしょ、ばい菌が入ったら大変なんだからこうやって縛っておかないと」
若干間違った医療知識を幼いなりに発揮して、気丈に対応している。
二人の少女の好意に少年はただ
「ありがとう」
と照れながら応じるのだった。

少年の手には白と赤のハンカチが巻かれていた。