二人の間を静寂が横切る。
部屋に陽が差し、この部屋が西向きなのだと解る。
「エリカさんの絵はどれもこんな感じですか?」
「見たことない?」
「森の奥に女神が描いてあるものは見たことがあります」
「ああ‥。それはそういうお宅に行ったんでしょうね。ご実家とかね」
「はぁ‥」
「そうね‥体は‥男性や女性‥いろいろだったみたいだけど‥私が知っているのは大体こんなテイストね」
「顔も」
「はい、はい。そんな顔しない」
彼女が私の顔の前で「正気に戻って」とでも言うように手を叩く。
「あなたを思い続けて描いてたわけじゃないんだから。リクエストが多かったからでしょ。東洋系の顔立ちを白人ぽく仕上げてるから神秘的に見えるのよね。エリカの顧客は白人が多かったみたいだから。自分達とは違うキャラクターに惹かれるんでしょ。この肌の質感も」
「肌の」
「白人の肌に描いてあったのも、褐色ものあった。でも、エリカが言うこの象牙みたいな肌が1番いいわ」
確かに西洋人と東洋人の皮膚は違う。
私達が西洋人のミルク色の皮膚を美しいと思うのと同じか。
「ショップであなたを見た時、顔もだけど‥肌の感じも間違いないと思った」
彼女が腕を伸ばし私の手の甲に触れる。
「マリンスポーツはもうしてないのね。焼けてたら気付かなかったかも」
「私だとすぐに判りましたか?」
「そうね」
「こういう絵は何枚くらいあるんですか?」
窺うようにこちらを見る彼女。
「絵を持っている人があなたを見て判るか、って気になるの?」
鋭い。
「はい」
「そうよね。気になるわよね」
「はい」
「何枚くらいあるかは分らないけど‥。エリカのお葬式の後、何人かのオーナーさんとお互いの家を行き来して絵を観たことがあったの。みんな家の奥、ベッドルームやドレッシングルームに大切に飾ってた。こういう絵はコレクターズアイテムみたいなものだから、表には出ることは先ずないし‥‥解る?」
「解ります。一般的な場には、ってことですよね」
「そう。表にはでないし、なにより‥とても高価なのよ。」
「高価」
「ええ。とてもね」
「そうですか」
瞬間、エリカさんの家が頭に浮かぶ。
大きな家。広い庭。
この絵1枚にどのくらいの値が付けられていたのか見当もつかない。
「そうよ。だから持ってる人は手放さない。この絵が買えるクラスの人達は営利目的で手放すこともないでしょうしね」
「はい」
「何枚あったとしても、多くの人の目に触れることはないわね。それに私は写真も見てたから気付いたけど。他の人は気付かないわよ」
「そうでしょうか」
「気付かないでしょうね」
「だといいんですけど。落ち着かないです」
「ああ、待って。調度いいコがいるから呼ぶわ。店にいるから」
「調度いいコ?」
「この絵が大好きなコがいるのよ。彼が気付かなかったら他の誰も気付かない。あなたも安心でしょ」
彼女が電話で彼を呼び出す。
店に届いている靴を自宅に持って来てほしいと言っている。
「お仕事中じゃないんですか?」
「まだ開店前だもの。それにこの絵を観るチャンスがあるなら喜んで来るわ。この絵を写真に撮って飾ってるのよ」
彼女は声をたてて笑ったが、それ程この絵を観ている人と顔を合わせるのは少し気が重かった。
つづく
LOVE xoxo
