
Rendez-vous Theater
【2025-No.33】
~ 若さゆえ君は傷つき Act 4 ~
哀しみの街かど
アメリカ 110分 1971年
かつて或るアイドルはヒット曲のなかでアル・パシーノを真似てニヒルを気取るボーイフレンドに向け私は素のままのシャイなあなたが好きなんだと歌っていた。恐らくその少年は冷酷無比なマイケル・コルレオーネあたりを意識していたのだろうが実際のアル・パチーノはニヒルとかクールとかそんな次元を超えた人間本質の表現を今に至るまで追求し続けるアクターと云っていい
彼が俳優として根幹に据えるのは舞台演劇であり、それはインタビューにおけるシェイクスピアへの熱い思いからもよく伝わってくる。従って初めて主演を務めた本作を皮切りに(ちなみに映画デビューは69年に端役で出演したナタリーの朝)目覚ましい活躍を見せるスクリーンでの経歴はパチーノにとってはあくまでも舞台の延長線上に位置するものに過ぎない。83年製作のスカーフェイス以降やや過剰にも感じられる演技へ傾倒したのもベースが舞台演劇と考えれば十分納得がいくのではないか
哀しみの街かどでパチーノが演じるのは幼い頃より悪事に染まりヘロイン漬けの堕落した日常を送る青年ボビー。彼は兄の窃盗を手伝ったり恋人ヘレンに身体を売らせて稼いだあぶく銭のほとんどをドラッグ購入に費やし警察にも執拗に目を付けられている。クスリが効いて穏やかなときのボビーはユーモアに満ちた好漢である一方ヤバい状態に転ずると大声でヘレンを罵ったりする男へと変貌、このジキルとハイド的二面性をパチーノが細かな部分に至るまで見事に体現した。本作は音楽の類を一切使わず謂わば俳優の演技だけで物語る形式なので彼の表情や仕草を始め、台詞回し、相手との掛け合いや間合いなど名優のあらゆるポテンシャルを存分に味わえる点においてアル・パチーノのマニアには堪えられぬ内容に仕上がっている。ボビーがヘロインのオーヴァードーズで白目をむいて卒倒する姿には迷わず天晴を献上したい
アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマンの三人(何れも名門アクターズスタジオ出身)はタイプの似た役者としてしばしば比較対象となるが、例えばパチーノのタクシードライバーはイメージされてもデ・ニーロのスケアクロウは容易に想像つかないし、パチーノの卒業はイメージされてもホフマンのゴッドファーザーは想像すらつかない。これらを踏まえるとリア王からハムレットに登場する道化まで難なくアプローチしてしまいそうなパチーノの役幅の広さは惑星随一と評しても決して過言ではないだろう
映画の方は如何にもアメリカンニューシネマらしくエンディングはほろ苦いがボビーがヘレンに対して声掛けるさり気ない言葉に救いを見出す。大変好感の持てる幕引きにして70年代米国フィルムの佳作である
★★★★★★★★☆☆
原題 The Panic in Needle Park
監督 ジェリー・シャッツバーグ
脚本 ジョーン・ディディオン, ジョン・グレゴリーダン
撮影 アダム・ホレンダー
編集 エヴァン・ロットマン
出演 アル・パチーノ, キティ・ウィン
受賞 1971年カンヌ映画祭女優賞
公開 1971.07.13 (米)/ 1971.11.20 (日本)
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ボビーの兄役リチャード・ブライトはゴッドファーザー三部作でマイケル・コルレオーネの右腕アル・ネリを演じた。パートワンのラストにてマイケルの妻に扮したダイアン・キートンの視界を遮断すべく扉を閉じるのが彼である。その他にボビーのドラッグ仲間たる娼婦役マルシア・ジーン・カーツやヘレンが医療用麻薬欲しさに診察を受ける医師役サリー・ボイヤーは狼たちの午後に銀行強盗の人質役で出演しており本作はパチーノ所縁の俳優が複数顔を揃えたキャスト構成になっている
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