【2025 - No.32】

𝒀𝒐𝒖'𝒓𝒆 𝒚𝒐𝒖𝒏𝒈, 𝒚𝒐𝒖'𝒓𝒆 𝒉𝒖𝒓𝒕

~ 若さゆえ君は傷つき Act 3 ~

リコリス・ピザ

アメリカ・カナダ  133分 2021年

(Photo: via IMDb)

デイヴィッド・ボウイの楽曲ライフ・オン・マーズがフィーチャーされた予告編に目を奪われて以降ずっと気になりつつ借りずにいた本作を青春映画特集の独自企画のなかでようやく鑑賞。今秋には新作公開も控える若き名匠ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)が70年代のLAを舞台に描いたラヴストーリーである

 

人間を善悪の単純な二分化ではなく等身大のままにユニークな視点で語るのがPTAの撮るフィルムの特長だ。見るからに聡明そうで商才に長けた高校生ゲイリーや厳格な父親が仕切る家庭とやり甲斐乏しき仕事場の往復に倦むOLアラナはその容姿も含めて如何にも自分の身近にいそうな存在で彼らが交わす言動の全てにとても親近感を抱く。タイトルのリコリス・ピザはレコード盤が黒いリコリスをトッピングしたピザに似ておりそれを店名に冠した実在のレコード販売チェーンに由来するそうだが1970年生まれの監督が実際に青春時代を送った80年代以前の70年代にピントを合わせた点は興味深い。そう云えば彼の名を一躍有名にしたブギーナイツも設定は70年代だった。80年代は映画にしても音楽にしてもコアな芸術性よりも大衆向け娯楽性が支持を受け潮流が変化した時期でもあり改めて振り返れば人によっては些か魅力に欠けたようにも感じられるが恐らくPTAもそうした一人なのだろう。こう書く私もMTVで洋楽に目覚めた派だが現在聴くのはもっぱらセヴンティーズが多い


(© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc.)

PTAのブギーナイツとマグノリアを観て演技が記憶に残り顔と名前を覚えた俳優が故フィリップ・シーモア・ホフマンだった。このリコリス・ピザにて主人公ゲイリーに扮したクーパー・ホフマンは映画初出演ながらも父譲りの堅実なアプローチで堂に入った姿を披露する。我が国ならいざ知らずショービジネスの本場では親の七光りだけでメジャークラスの作品に主役抜擢されるとは思えないので彼は地道に演技を学んでいたのではなかろうか

 

本作の見所においては登場人物たちのファッションも挙げられよう。例えばゲイリーが着る半袖ボタンダウンシャツ裾タックイン+襟元Tシャツ覗かせ+リーヴァイスのブルージーンズ+コンヴァースの青髭ジャック・パーセルを合わせた恰好などは結構新鮮に映る。ゲイリーが開業したピンボール店にたむろする学生らが履くフレアジーンズとアディダス・カントリーの着こなし(上の写真参照)も何だか素敵だ。こんなサブカルチャー的なことでもPTAが70年代に惹かれる気持ちがよく理解出来る

 

敢えて苦言を呈すとショーン・ペン&トム・ウェイツの出演パートそれにブラッドリー・クーパー(まるでチャック・ノリスかドゥービー・ブラザースのマイケル・マクドナルドの如き風貌で最初誰だか分からなかった)の出演パートの両方があたかも彼らのために追加執筆されたかみたいな具合で蛇足に思われ、逆にアラナがLA市長選立候補者の事務所で働くシークエンスは中途半端で終わった感が強し。興行上名前で客を呼べる俳優の起用が必要な部分もあろうが結果としてそれがマイナスに作用した面は否めず。何れにせよ二時間越えの尺は少々長かった気がする

 

十歳ほど年齢の開いたゲイリーとアラナの関係が先々どうなるかは全く予測つかないけども仮に結婚したのなら様々な案件を乗り越え良き夫婦、良きビジネスパートナーとして着実に道を歩むのではないだろうか。二人の将来に幸運を祈りたい

 

★★★★★★★☆☆☆


(Photo: via IMDb)
原題 Licorise Pizza
監督 ポール・トーマス・アンダーソン

脚本 ポール・トーマス・アンダーソン

撮影 ポール・トーマス・アンダーソン, マイケル・バウマン

編集 アンディ・ユルゲンセン

音楽 ジョニー・グリーンウッド

出演 クーパー・ホフマン, アラナ・ハイム

受賞 2021年NY批評家協会賞脚本賞

公開 2021.12.25 (米)/ 2022.07.01 (日本) 


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