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Chandler@Berlin

ベルリン在住

ドイツでは選挙が近いのでいろいろな看板が出ている.一つ驚いたのは,増税を呼びかけている政党があることである.

「全ての人に増税を!」

というのがスローガンらしい.この政党が最近人気があるというのはなかなか驚きである.ただし,直接は言っていない.この政党はある場所で2つのスローガンを掲げている.

1. Reichtum besteueren (金持ちに増税を! 表側写真)
2. Reichtum fuer alle (全ての人を金持ちに! 裏側写真)

「金持ちには増税を」する.そして,「全ての人を金持ちに」するというのがスローガンである.論理的に言えば,「全ての人に増税を」ということになると思うのであるが.違うのだろうか.

これは友人の L に指摘されて気がついた.



Chandler@Berlin-Back side Back side
今回でこの話はおしまいであり,やっと cool な matrix が登場する.

さて,ある三次元のベクトル [x1 x2 x3]' =

x1
[x2]
x3

を考える.(ここで ' は転置を示す.) この各項の差分を考えると,[(x1 - 0) (x2 - x1) (x3 - x1)]' である.これのような右辺を作る Matrix A を考える.なんでこんなものを考えるのかはちょっと後の楽しみにしておこう.それは,

[ 1 0 0
-1 1 0
0 -1 1]

である.検算してみよう.(数式が乱れるので,毎回改行している.)

[ 1 0 0
-1 1 0
0 -1 1]

[x1
x2 =
x3]

[x1 - 0
x2 - x1
x3 - x2 ]

たとえば,[x1 x2 x3]' = [1 4 9]' を考えると,

[ 1 0 0
-1 1 0
0 -1 1]

[1
4 =
9]

[1
3
5 ]

であって差分を示している.ところで,この Matrix A には逆行列があり,それ
は,B

[1 0 0
1 1 0
1 1 1]

である. A B を計算してみると,
[ 1 0 0
-1 1 0
0 -1 1]

[1 0 0
1 1 0 =
1 1 1]

[ 1 0 0
(-1+1) 1 0 =
(-1+1) (-1+1) 1]

[1 0 0
0 1 0
0 0 1]

となる.したがって,A^{-1} = B である.もうちょっと我慢してつきあって欲しい.B は何をしているのかというのを見てみよう.

Bx =

[ 1 0 0
1 1 0
1 1 1]

[x1
x2 =
x3]

[x1
x1 + x2
x1 + x2 + x3]

つまり B は全部足している.さて,A は差分であって,B は和であった.ここで私は驚いた.差分というのはどちらかというと線形代数よりも微積分に属する考えである.微積分では,差分は,d/dx である.和は \int である.この行列は,

A ... d/dx
B ... \int

である.ところで,A^{-1} = B であるので,

A^{-1} = {d/dx}^{-1} = B = \int
===> {d/dx}^{-1} = \int

つまり,A を演算として考えると,微分であり,その inverse は B,つまり積分である.どうだ,驚いたでしょう.行列の inverse が微積分の基本定理と数学のアナロジとして成立しているのだ.私はこれは cool な Matrix だなあと思うが,まあ,別に私が思うだけで,きっとそう思わない人は沢山いるだろうなあ.

この話は最近私の中でホットな Gilbert Strang の Introduction to LINEAR ALGEBRA という本に出てくる例題である.こういう話が逆行列の話の中で出てくる.普通の本では逆行列が Calculus とのアナロジになる,などというような話はなかなかないことと思う.私は Gilbert Strang の本が好きである.

ところで.私と同じ位怠け者の人のために,これを計算する octave code を以下に示しておく.

--- BEGIN diff_and_int.m ---
a = [1 0 0; -1 1 0 ; 0 -1 1]
inv(a)
--- END diff_and_int.m ---

このコードを 'octave diff_and_int.m' のようにして実行すると,マトリックス B が出力されるのがおわかりだと思う.

線形演算というのはいろいろな場面で使われる.たとえば,あるスーパーマーケットの一日の売上げ全部だってこの組合せである.それは

商品1の値段 * 商品1が今日売れた数 + 商品2の値段 * 商品2が今日売れた数 + ...

というのが売上げになるからだ.ここで,商品1の値段 * 商品2の値段 というかけ算にはやっぱり意味がないのですべきではない.

こういう演算を考える時に Matrix は便利である.まあ,もっと高度な使い方をすることもできるのだけれども,こういう条件でもかなりのことができる.

ここまでは中学生の数学でもわかると思う.しかし,今回の cool な matrix になかなか話が進まないので,線形性と matrix の関係などはまたいつかできたらということにして,次回はタイトルにある cool な matrix の話をしよう.ただ,ちょっと読者が限定されてしまうかもしれない.ベクトルとかマトリックスという言葉を知っていて,その言葉を多少は話すことができる人向け(高校生以上)になってしまうだろう.