実は順番で言えば,ここに matrix が入るのだが,話を簡単にするためにここでは飛ばしておこう.
さて,ベクトルは多数のスカラを並べたものだった.ベクトルではスカラを並べる順番はとても重要である.順番を間違えるとまったく違うものになってしまう.位置の例を思い出してみよう.位置のベクトルは[方向 距離]で[50 5]だったが,もしこれを[5 50]と入れ替えてしまうと,角度 5 度,距離 50 km と角度 50 度距離5 km とはまったく違うものになってしまう(少なくともユークリッド空間では).
ここでもっと沢山のスカラを並べてみよう.図1にその様子を示す.スカラは一つの数,複数の数を並べたものが vector であった.さて,もっと vector を並べてみよう.どんどん並べていくと最後には関数になってしまった.ちょっとここではずるをしていて,いくつかの条件がないと数学としてはまずい部分があるが,最初としては直感的にこういう理解でそんなに悪くはないと思う.(ちょっと話がそれてしまうが,これによってたとえば,関数の内積というものが vector の内積の拡張として理解できる.相関係数(correlationcoefficient)が実は内積であるということもわかる.すると,相関度が高いというのは内積が 1 になるということであり,低いというのは,0,つまり vectorの場合,内積が 0である.これは直交しているので関係がないのである.これらがすらすらと見えてくるのでこの直感はとっかかりとして良いと思う.)スカラとベクトルと関数の関係の一面がわかってもらえたであろうか?

Figure1: Scalar, vector, and function
こうしてみると,スカラとベクトルと関数は実は X と Y の組の数が違うだけだ.
- スカラ: 一つの X (例: 高さ) と一つの Y (例: 170cm)
- ベクトル: 複数の X (例:[方向 距離]) と対応する Y (例: [50 5])
- 関数: 連続な X とそれに対応する Y (例: Y = f(X))
では,スカラでもベクトルでも関数でも同じもの(= 変化しないもの,invariant)というのは何だろうか.こういう抽象化が数学では良く使われる.数学では,変化しないものを考えることが多い,それは区別する必要がないからだ.いろいろと条件を変えても変化しない何かというのは,おそらくそのものの正体である.仮面をいくつも持つことはできるが,その下には何かがある.それは様々な条件下で常に同じものである.Eigenvalue と transfer function の話にはこの抽象化が必要なのでまずはこの話をした.
さて,次は Eigenvalue の話をしよう.