恋愛とは人の心を翻弄させるものだ。


恋は盲目とはこのことだろう。


人はそんな時信じられない行動にでるものだ。



◆無謀な北海道ツーリング


京都旅行を境に二人はより一層親密な関係に発展した。許されない恋だからこそ、二人の気持が更に高まったのは確かだ。それは、不倫にも似た感覚だった。恋は盲目というが。気持の高揚が日頃出来ない事を可能にする事がある。その夏の私は正にそんな心理状態だった。

夏休みを利用して、知人3人と連れ立って北海道の大地を駆け巡るツーリングに出掛けた。北海道の夏のシーズンとしては晩夏に近い頃だった。その夏のボーナスを元手に私はKAWASAKI KDXを購入した。東北自動車道でエンジンの”慣らし”を済ませるなど無茶苦茶な旅に出た。何も怖いものもない。そんな心境だった。

何処までも続く一直線の道路と壮大な景色に酔いしれた。山野でキャンプを張り、時にはトムラウシ付近の沢でクマに襲われたりと、野趣溢れる旅を満喫していた。それは、事故らしい事故もなく富良野の「北の国から」の撮影現場を折り返し点として、札幌に引き返す時の出来事だった。

あいにく台風が北海道地方上陸する影響から、その日は激しい風雨だった。道はぬかるみ(北海道の国道の殆どがダートコース)、雨足もひどい中、走行を余儀なくされた。旅の予定では、その日のうちに札幌に移動しなければならず、我々は同行していた札幌の知人宅への家路を急いでいた。


台風に追いつかれる前に街に戻らなければ・・・。荒れ狂う雨とダートに悩まされながら、かなりのスピードを出していた。フラットなコースから山間部の谷間に差し掛かった頃、とうとう前が見えない状況になってしまった!・・・。皆はパニック状態になっていた。なぜなら、山間地でのこの風雨は遭難になりかねないからだ。ガソリンもそう長く持たない。皆山間部でのツーリング慣れした奴ばかりであだったが、その状況が最悪の状況だと理解していたので、スロットを全開に激走していた。

とその時!

雨で前が見えない状況に、


視界に急な坂が見えた途端


不意のハイジャンプ

え!道がない!?


バイクごと私はそのまま崖下に左膝から叩き落ちた。遅れてやってきた友人達に幸い引き上げられ、バイクも体も問題がなかったので、タイムロスを挽回するために、皆無口にスロットを全開していた。ほどなく1時間ほど林道を駆け抜け、里に戻ってくることができた。


ホットするまもなく、ガソリンスタンドに立ち寄り、トイレを済ませるとそそくさと旅支度を整えた。旅程の関係から、その日の内に札幌へ帰る必要があったため皆必死だった。私もバイクの簡単な修理を済ませ、札幌まで激走したのだった。



「あ~無事ついた!」

北大教授の息子リキが雄叫びをあげた。

「皆!着替えて風呂入ろうぜ!」

全身スブ濡れ泥まみれだった。


一斉に着替えたその時、

「おい!桜井!お前えの足!目

「え!なんだよ!」


促されるようにして下をむいた瞬間


左足の膝下がものの見事にパックリ割れていた


「すげー怪我じゃねーかあせるおい直ぐに病院いこうぜはてなマーク




2日後に彼女と金沢旅行が控えており、それまでにバイクごと東京に帰らなければならかった。帰りの予定時間がタイトなため、病院に立ち寄っている暇などない。そう判断した。

正直、長さ8cm深さはだいたい7mm程度のキズ口だったが。痛みは無く、出血も無かったので安易に消毒だけで済むだろうと安易に考えていた。また、怪我が判ったのは、夜の10時だったこともあり、救急病院だと酷い処置をされるので、消毒液と化膿止めを入念に施し、その場で乾いた服に着替えるや否や、その足で函館のフェリー乗り場まで激走したのだった。


今ふりかえると何と無謀なことをしたのかと反省している。

函館から八戸行きのフェリーに乗船し、翌日の昼に本土へ上陸率した。左足でシフトアップする際は、流石に痛みを覚えたが、何とか東北自動車道に乗り、フルスロットで、北海道の出発から翌々日の早朝に東京に到着した。


「あ~着いた。」


ほとんど休みなく走り続けていた私の体は、過度な疲れと強烈な空腹感、そしてそれまで痛まなかった足が痛み始めたために、全身震えていた。



◆彼女との金沢旅行への強行軍

少し睡眠時間があったが。足の処置をしようと寮の近くの外科病院を目指した。開院前の時間だったが。事情を話したところ、看護婦長が自宅にいた院長を呼び出してくれた。


当日、学会の集まりで休みの予定だった院長だったが。私の傷の状態をみて笑顔で処置してくれた。何よりも北海道旅行の顛末と帰路での出来事を楽しく話す私に好感を持ってくれていた。これから彼女と金沢旅行にいくので旨く処置してほしいと。ずうずうしい私の願いでも快く受けてくれた。


「さて怪我をみてみようか。2日たったわりには傷口はフレッシュだねビックリマーク。」


医者から厳しいことを言われると思っていたのに意外と冷静な反応に正直反驚いた。外科医の適正なのだろうが。竹を割ったような外科手術は実は楽しかったりする。この怪我以外に沢山の外科医とお目にかかったが。彼らの思い切りのよさと、患者への思い遣りは医師として尊敬に値する。


大層な怪我でもたいした怪我じゃないと錯覚させてしまうのだから。リフレッシュ工事のため開いた傷口を切開し、十数針の縫合を終えた。痛み止めをもらったが、空腹だったこともあり、飲まないまま羽田へ向った。不眠での走行で眠かったはずだが、不思議と意識はしっかりしていた。



「恋は盲目」というが

人は何でもやれてしまうものだ。



つづく。




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