部屋
キリストンカフェを出て、君のマンションはすぐ目の前だった。
家賃20万の高級マンションなんて僕は初めて入ったよ。
広いエントランスには大きな熱帯魚の水槽があって、まるでひとの気配がない。
家賃20万の高級マンションなんて僕は初めて入ったよ。
広いエントランスには大きな熱帯魚の水槽があって、まるでひとの気配がない。
君はネットで僕と知り合ってすぐ、
「私の部屋に遊びに来てください」と言った。
渋谷のど真ん中に一人暮らしする綺麗な女の子が
いきなり泊まりに来てくれなんて、
あまりに話がうますぎて普通なら用心するとこだけど、
不思議と僕に不安や迷いはなかった。
それはきっと、僕の人形を好きになってくれたから。
僕の作った人形を受け入れるということは
僕自身を受け入れると同じことだから。
きっと君も同じような理由で僕に安心感を持ってくれたんだよね?
正直言って僕は女の子の部屋に入るのは10年ぶりだった。
結婚してその間、浮気のひとつもしたことなかったから。
あまりに話がうますぎて普通なら用心するとこだけど、
不思議と僕に不安や迷いはなかった。
それはきっと、僕の人形を好きになってくれたから。
僕の作った人形を受け入れるということは
僕自身を受け入れると同じことだから。
きっと君も同じような理由で僕に安心感を持ってくれたんだよね?
正直言って僕は女の子の部屋に入るのは10年ぶりだった。
結婚してその間、浮気のひとつもしたことなかったから。
僕が結婚してることは、キリストンカフェで初めて伝えた。
「まさか結婚してるとは思わなかった・・・」と君はポツリと言った。
僕は「ごめんね・・・」って言葉しか見つからなかった。
ホテルのようなカーペット張りの通路を歩いて部屋に入ると、
そこはまるでお姫様の部屋のようだった。
白いアイアンのベッド
猫足のドレッサー
華美なドレス
ロリータ服・・・
僕も大好きなブランドが並んでいる。
僕は女の子に生まれたかったんだ・・・
もし叶うなら君のような女の子に生まれてこんなふうに部屋を飾りたかった。
人形を愛する女性にセクシャルマイノリティは多い。
同性愛者というだけでなく、
バイセクシャル、いわゆる腐女子、コスプレイヤー、
バンギャ、SM愛好家、風俗嬢、自傷行為、メンタル・・・
僕は人形好きでこのひとつにも当て嵌まらないひとに出会ったことがない。
だから僕は人形を愛するひととは必然的に解りあえる。
ピンクのシャンデリアが白熱灯を異様な光に変え、
まるで蝋燭を灯しているようだった。
テレビも音楽もない空間に響き渡るのはハムスターの動き回る音だけ。
二匹飼ったのにすぐ一匹は死んでしまったと
いまにも泣き出しそうだったね。
でもさ、歌舞伎町のペットショップなんかで買うからだよ?
よく噛み付くから「カムちゃん」だって。
そんなカムちゃんに手を出してごらんって言われても怖いってば。
ドレッサーの上はデコラティブは雑貨や化粧品で溢れていて
僕が飽きずに見ていたら全部説明してくれたね。
告白
私、三回レイプされてるの・・・
突然の告白だった・・・
一度目は、
夜道を歩いていてナイフを突き付けられて
突然の告白だった・・・
一度目は、
夜道を歩いていてナイフを突き付けられて
ホテルに連れ込まれて写真も撮られたと・・・
僕は男だから女性がその告白をする心理が正直分からない。
それをどういうつもりで僕に告白するのか。
僕は彼女が求めるいちばん欲しい言葉を返したい、
偽善でも何でもいい、これ以上にないくらい彼女を肯定したかった。
でも、君は僕が口を挟む間もなく二度目の事件を語り始めたんだ。
僕は男だから女性がその告白をする心理が正直分からない。
それをどういうつもりで僕に告白するのか。
僕は彼女が求めるいちばん欲しい言葉を返したい、
偽善でも何でもいい、これ以上にないくらい彼女を肯定したかった。
でも、君は僕が口を挟む間もなく二度目の事件を語り始めたんだ。
それは恐ろしい告白だった・・・
アダルトビデオ撮影の現場で
素人四十人による暴力、避妊なしの十人以上に及ぶ強姦。
浴槽に沈められ、命乞いをすれば殴られ、
挙句の果てには2リットルの焼酎を強制飲酒させられ意識不明、嘔吐、脱糞・・・
事前の説明も承諾もなくリアルな強姦を売りにした最悪の撮影だった。
いまでも撮影中に女優は死んだとされるマニアの間では有名なビデオだ。
加害者8人逮捕 。
うち二人は懲役18年にも及ぶ判決が出たほどの残酷な事件だった。
これはのちに、僕がネットで調べて分かった詳細だけど
あのとき君が言ってたとおりだったよ。
僕は君の話を聞き終わって、黙って君の手をとって、
しっかりと握り、ずっと撫でてあげることしか出来なかった。
君も、もう何も言わなかった。
事件から七年経ったいまでも君の生存についてネットで論争が繰り広げられているよ。
実はね、僕はその論争に一度だけ書き込みしたんだよ。
「○○はいまは愛されて幸せに生きています。」ってね。
誰ひとり信じないし馬鹿にされたよ。
でも、それでいいんだ。
君の行方を知っているのは世界で僕ひとり。
それが嬉しかった。
それ以来、僕はそのことが忘れられず毎日生きた心地がしなかったよ。
このままでは、どうにかなりそうで僕はそのビデオを購入して
いっそ現実をちゃんと把握しようと思った。
でも、そのビデオはいまも見ていない、やっぱり怖くて見れないんだよ。
本気で奴らが刑務所から出てきたら目玉をぶっ潰してやろうと思ったよ。
それでも僕は明るく振舞っていたけれど、一度だけそのことで君のまえで号泣してしまったよね。
どんなに歯を食いしばっても
涙は止まらなかった。
泣き虫の僕があんなに涙を堪えたのは初めてだったんだよ?
君はやさしく涙にキスをして
自ら僕を受け入れてくれたね。


