キリストンカフェ
「どこへ行く?」
「キリストンカフェ」
と即答すると、
「言うと思った」 と君は初めて微笑んだんだよ?
笑みを浮かべると、
ガラッと印象が変わるひとっているでしょう?
君はそんなタイプだった。
それだけいままで緊張してたんだね?
レズビアンで男性と付き合ったことがないからかな?
でも君は基本的にホステスが仕事なのにこんなことで
緊張するなんて可笑しいね。
僕は人形が好きなら、きっとキリストンカフェは好きだと思ったんだ。
それにあの空間に君はよく似合うもの。
予約もしてなかったのに、
深紅の壁に囲まれたベンチシートの個室に通されたのは
きっと店員さんもそう思ったのかな?
普段ならキリストンカフェに行くと周りの内装に目を凝らし
その耽美な空間を堪能するのだけど、
この日はそれどころじゃなかったよ。
向かい合って君と座ったとき僕は緊張してたんだよ?
いままで年上らしくリードしてきたように見えるかも知れないけど
仕事を離れると実は人見知りだし無口なんだよね。
僕は、うつむいてる君の付け睫毛を盗み見ては、
不意に君の大きな瞳と目が合ってしまい緊張したな。
君の腕には余白が無いほど細いケロイドで埋め尽くされていた。
その綺麗な白い肌は波打つように変形し、所々にある大きな傷は
まるで火傷したての水膨れように盛り上がっていた。
僕は見惚れてしまった。
君の背後の深紅の壁がとても美しくその腕を引き立てていたから。
このとき聞いた話は一生忘れられないよ。
いまでも思い出しただけで胸が締め付けられるんだ。
君の告白は、まるでダムが欠壊したかのように続いた。
それは、あまりに想像を絶する話で
逆に現実味がどんどんなくなっていったのをよく覚えているよ・・・
出会い
二月のとても寒い日、
仕事の帰りに僕は明日の仕事の用意もして渋谷に向かった。
「先に来ないでいいよ? 後からおいで」
僕は君を待つ時間を持ちたくて
そう言ったんだ。
仕事の帰りに僕は明日の仕事の用意もして渋谷に向かった。
「先に来ないでいいよ? 後からおいで」
僕は君を待つ時間を持ちたくて
そう言ったんだ。
109で待つこと数分、
少し高くなっている階段の上から下りることもなく
無表情で手を振っていたのが君だった。
君はまるでお人形のように美しかった。
全身、ジーザスディアマンテでコーディネートしていたよね。
僕は分かっていたよ?
デコラティブな洋服に身を包むのは君の武装、
すなわち戦闘服だってこと。
かと言って、敵意を露わにしてる訳じゃない。
なるべく自分を高く見せるためのものだ。
それに今日は君にとっての初デート、
いや、デートなんて爽やかな表現とはほど遠いかな?
初対面としよう。
君にとっての初対面だもの、
目一杯のお洒落をしてきてくれたんだよね?
会って数分の間に君は
身に付けてる品々を一生懸命に説明をしてくれたね。
その声と手は尋常じゃないほど震えていて、
君の心の病は相当重いものだと感じたんだ。
正直に言って、
これほど危ないコは初めてだったなんて言ったら君は怒るかな?
いや、君はそれを笑える強さも
持っている不思議なコだもんね。
君は、このブレスレットは
どこそこのナンバーワンホストに貰ったんだとか、
この服は人気で復刻されたとか、
身に付けている物の価値がいかに高いかを
伝えるのに一生懸命だったね。
その幼稚さを僕は危ないと分析しながらも、
健気で可愛いと思ってしまったんだ。


