
アプシェロン半島はカスピ海を突き刺し、開いた風穴から吹く風は、
秋を忘れさせるほど穏やかに暖かく『バクー』の街を包み込む。
旧ソ連の最南部。ロシアとは5000m級のコーカサス山脈を隔てた南側に
位置するコーカサス(ロシア語でカフカス)地方へと足を踏み入れた。
ペルシャ語で「風が吹きぬける町」と、言う意味とされる『バグー』は、
アゼルバイジャンの首都で、コーカサス3国(他にグルジア、アルメニア)の
東部に位置し、古くからシルクロードの中継地点として多くの商人や旅人が
行き交い栄え、現在はカスピ海で採掘される石油により著しく発展している。

コーカサス地方は東西文化の入り混じり、古くから多くの人種や宗教が混在
していた事で独自の発展を続けたが、非常に際どい場所に位置している為に、
周辺で争いが勃発するたびに、幾度と無く戦火に巻き込まれた。
19世紀にロシア帝国が強大に膨張を続けると、コーカサス地方は帝国南部の
要衝であり南方への前進基地となり、旧ソ連が崩壊するまでそれは続いた。
「世界の緩衝地帯」とも呼べるこの地域一帯は、未だに多くの問題を抱えており、
アゼルバイジャンとアルメニア間の領土問題は解決の糸口すら見えない。
グルジアではアブハジア共和国や南オセチア自治州の分離独立紛争が再発し、
現在は停戦したとは言え、つい最近も大規模な戦争が起こったばかりだ。
19世紀から20世紀にかけて行われたトルコによるアルメニア人大虐殺では
百万人近くが惨殺され、アルメニア国民の半数が亡命し世界中に散って行った。
またアルメニアはトルコとアゼルバイジャンに挟まれているのだが、トルコが
アゼルバイジャンに対し経済援助を継続している事で、アルメニアとの距離は
さらに離れ、両国間の国境が開く事は永久に無いとも言われているのだ。
しかし、カスピ海から吹く風が春をも感じさせる『バクー』の街を歩いていると、
そんな争いが起こっている事など、全く想像出来ない程に平穏な日常がある。
海外高級ブランドや外資系ホテルが次々と参入し、街を歩く人達は小奇麗で
表情も明るく、公園広場では子供達がゴーカートや様々な遊具で遊んでいた。
物価も急上昇しており、ほとんどの物は、ガイドブックに記載されている値段の
2~3倍まで上昇し、マクドナルドのセットメニューは700円前後もするのだが、
朝から晩まで客が絶える事は無く、常に店内はごった返している。
新市街の通りを埋め尽くす車の列には各国の高級車が目立つ。
旧市街の城塞都市全体がユネスコの世界遺産に登録された『バクー』は、
美しく芸術的でありながら重厚な石の建築物が立ち並び、街路樹が整然と
道に沿って植えられ、古くからの小道は未だ石畳のまま残されている。
重厚な城壁に守られ続けた旧市街と、発展著しい新市街が見事に溶け込み、
調和の取れた街並みは格調高さすら感じさせる。ペルシャ支配が長かった
アゼルバイジャンは、イスラム教シーア派の割合が高く、古いモスクや寺院も
街中に点在し、露店に並ぶ土産物にもイスラム文化を反映するものが多く、
帝政ロシアとペルシャ文化が融合した独特の雰囲気をかもし出している。
11月に入り秋も深まる中、『バクー』にはカスピ海からの穏やかな風が吹き、
昼の海岸公園を歩くと春を思わせる陽気に包まれている。
冬になる前にコーカサスを抜け更に西へと旅を進めようと思う。
あまりにも日本では知られていない事が多いコーカサス地方は、
未開拓の感性を刺激する、想像を超えた魅力を秘めている様に感じる。
冬を迎える頃にはきっと「カフカスのとりこ」になっている事だろう。





































↑アゼルバイジャンは北海道より少し広い位の面積で、バクーからグルジアの
首都トビリシまで走るのですが、釧路から小樽まで走るのと同じ位です。
~第3幕~はコーカサス3国編!どうなることやら乞うご期待!!