インドに行くことを決め手からの彼の行動は、本当にすごい勢いだった。
タバコ停学によるバイト禁止が解禁されてからすぐにバイトを掛け持ちではじめ、
その間に旅行代理店にビザの申請、パスポートの取得、チケットの手配、
現地の情報集め、旅の計画、現地の言語の勉強、そしてもっとよくインドを知るために、
沢木耕太郎の「深夜特急」の3作目「インド・ネパール編」を読み直し(笑)着々と準備を進めていった。
生まれてはじめての感覚だった。
「インドに行く」という目標が、心の中のある場所に「しっかりと」収まって、揺るがなかった。
いつもの彼なら「できなかったらどうしよう」「そもそもどうしてインドに行きたいんだろう」と
ずっと迷っている間に時が過ぎていくのが普通だったが、今回はなぜかわからないが、迷わなかった。
まるでインドへの道へ、自動的に体が進んで行くような感覚だった。
そして、4月から7月までほとんど毎日働いた結果、高校3年の夏休み、見事インドに行くことができるようになった。
周りは当然驚いたし、心配もした。「よく親が許したよね」という友人もいた。
実際、両親はどういう反応をするのか気になっていたが、そのときの返答
「だって、止めても絶対に行くでしょ?」
さすが男五人を生み、育てた母親だと、ちょっと感心した。
そして、出発の前日、餞別として2万円渡してくれた。
実は、いざというときのために渡してもらったこの2万円が、彼の命を救うことになろうとは、
このとき想像もしなかった・・・。
出発の朝、正直内心ビビリながら、新宿行きの電車に乗った。
実は、引き下がれるならそうしたかったが、ここまで準備していかないわけにはいかないだろう。
そんな煮え切らない不安を抱えたまま、列車は発進した。