帰宅した環を出迎えたのは夫だった。
事の成り行きを全く知らない夫は、いつものような無精髭を生やしたまま
「食事はどうだった?」
と訊いてきた。
どう答えたらいいか分からない環は、
「うん、まぁ楽しかったよ」
と答えるだけが精一杯で、すぐさまに部屋着に着替え、別室に行った。
こんな気持ちで夫とは更に話す気にもなれなかった。
別室でPCに向かっている間、夫は寝室で寝てしまったようだ。
少しホッとした。これでようやく1人で考える時間が持てる。
携帯を確認すると健からのメールが来ていた。
今日の事について、真摯に謝る文章が書かれていた。
そして最後に
「こんな事になってしまったけれど、真剣に君の事が好きだ。」
と。
最後の行を読んで、更に環は考え込んでしまった。
私は何故夫と結婚しているのだろう。
身のない結婚生活に何の意味があるのだろう。
とはいえ、一線を越えてしまったら本当に不倫だ。
でも…。
そして数時間前の事を思い出した。
あんなに濃厚で、飲み込まれてしまいそうなキスは初めてだった。
こんな情熱的なキスは夫ともしたことがなかった。
初めて遭遇したこの一件に、環はただ想いを深くすることしか出来なかった。