昨今の気候変動に伴う気温上昇ついて、人類のCO2排出による温室効果が原因の「地球温暖化」という、あまりに狭く限定的な視点から地球全体の気候変動を語ることに、私はずっと違和感を感じていました。人間活動がかけがえのない地球を汚染しているのは事実としても、そこにこの惑星の環境を抜本的に変えるほどの力があるのでしょうか。地球の気象環境を大きく変えるにはもっと大きな要因があるのではないかとの想いから注目していたのが、気候変動と太陽活動の関係でした。
太陽活動11年周期
灼熱の太陽
しかしその一方で、日本のマスコミではあまり取り上げられませんが、イギリスでは今年の夏は「2015年以来の寒い夏」となり、南半球オーストラリアのシドニーとメルボルンも昨夏「140年ぶりの冷夏」に見舞われていました。ロシア北東部チュコトカでも、6〜8月の平均気温は平年より2℃〜4℃低く、チュクチ海沿岸の街ケープバンカレムでは2010年以来の記録を0.2℃下回り、ケープユーレンでは1980年以来の最低気温を更新する寒い夏になりました。日本にいると「温暖化」しか実感できない今年の夏でしたが、英国、豪州、露国の人たちにとっては「寒冷化」を予感させる夏だったのです。
荒波打ち寄せるリバプールの海岸
これまで、猛暑や厳冬の原因としてよく取り上げられるのが「エルニーニョ現象」や「ラニーニャ現象」といった海水温度の変化による分析でした。ところが近年それまでの知見を覆すような猛暑や厳冬が観測されるようになり、遂には「エルニーニョモドキ現象」「ラニーニャモドキ現象」というカオスな用語まで登場しました。
そんな中「エルニーニョ」や「ラニーニャ」に代わって近年の日本の猛暑を上手く説明したのが「南北傾斜高気圧」の発見でした。三重大学大学院の研究生、天野未空博士の過去65年間の観測値の統計解析によれば、 2010 年以降の偏西風の蛇行が〝南北に傾斜した構造〟を持つ高気圧(南北傾斜高気圧)を発生させ、これにより北日本で猛暑が頻発し冷夏が起きなかったと分析しました。
南北傾斜高気圧
また、ワシントン大学のジョン・マイケル・ウォレス博士が提唱した「北極振動(Arctic Oscillation: AO)」という現象があります。北極振動指数 (AO Index: AOI) が正の時には、ヨーロッパでは偏西風の強化により温和で雨が多くなり、日本付近も温和な天候が続きます。逆に北極振動指数が負の時には、ヨーロッパでは晴天が続き、寒気の流入で寒冷化すると同時に日本付近も寒冷化します。北極振動が変化する要因としては太陽活動周期との関連が指摘されており、暖冬や厳冬の原因は単に海水温変化や地球温暖化で片付けるのでなく、宇宙まで広げた要因の分析が必要です。
第22太陽活動周期(Solar Cycle22=SC22)から続く太陽活動の衰退により地球を覆う磁力線が弱まっているため、現在、地球へは大量の宇宙線(陽子)が降り注いでいます。これにより地殻内部の電子放出が誘発され、地震など地殻活動や火山活動が活発化します。これらは寒冷期の特徴と言えますが、それにより偏西風の大きな蛇行、上昇気流や竜巻、ダウンバースト(突風)などが起こります。九州南部に大地震をもたらす活断層上になぜか頻繁に発生する線状降水帯。新潟地震や能登半島地震をもたらした活断層上も線状降水帯の豪雨に見舞われる危険性が否定できません。また、関東平野などでこれからの季節増えると思われる突風や竜巻も、太陽活動の衰退が影響しているのかもしれません。
ダウンバーストも太陽活動の衰退が影響?
1993年(第22期太陽活動の衰退期)のいわゆる「平成の米騒動」の原因は、偏西風の蛇行とエルニーニョに伴う冷夏、そして1991年に起きたピナトゥボ火山爆発の噴煙による日照不足と言われています。「偏西風の蛇行」「活発な火山活動」「日照不足」はいずれも寒冷期の特徴です。今年の「令和の米騒動」についてマスコミは「猛暑」がコメの不作の原因と報じていますが、2022年1月の南太平洋トンガ沖の海底火山の大規模噴火で、半径240kmの範囲でピナトゥボ火山の時と同様に成層圏まで達した噴煙による日照不足が原因とは言えないのでしょうか。
2022年トンガ沖海底火山の大噴火
デンマークの宇宙物理学者ヘンリク・スペンスマルク(Henrik Svensmark)によれば、太陽活動の衰退に伴う宇宙線(陽子)の増加は雲の生成を誘起します(「スペンスマルク効果」)。その雲の「日傘効果」により日照時間は減り、冬季は冷えやすくなった大陸の高気圧が発達し季節風が強まります。ちなみに今年の東京の1月から8月までのデータを気象庁のホームページから抽出したところ、晴れの日が昨年より12.7%減り曇や雨が10.4%増え、日照時間は7.9%減少、冬季(1〜3月)の風速は8.9%増加していました。手作業な上に東京という局地的なデータのためかなり拙い統計ではありますが、天候、日照時間、風速については寒冷期の特徴を示していました。
猛暑や厳寒は局地的なもので、地球全体に均一に広がっているわけではなく「地球○○化」と単純に決めつけるほど母なる地球〝ガイヤ〟は単純ではありません。人間が排出するCO2ごときで、地球全体が機能不全に陥るなど人間の思い上がりではないでしょうか。もちろん、人類が撒き散らした公害や汚染は一刻も早く浄化すべきです。しかし、雄大な地球の表層に巣食う矮小な存在の人間が、名医にでもなった気分で母なるガイヤを自分たちの集中治療室で救えるなどと思うのは傲慢というものです。
日本という局地的な地域の異常気象の原因である「南北傾斜高気圧」も「負の北極振動」も、〝偏西風の蛇行〟が引き起こしています。そして、この偏西風の蛇行こそ、チェコの気象学者V・ブッカが看破したとおり、紛れもなく「太陽活動の衰退」による寒冷期を象徴する気象現象なのです。局地的な温暖化ばかりに目を奪われ、寒冷化の議論を忘れてはいけません。気候変動の原因を人類文明が排出するCO2や温室効果に矮小化することなく、宇宙気候学(Cosmoclimatology)など太陽系規模のもっと大きな視点からの原因究明と抜本的対策の模索が待たれます。