デジタル機器の使用が子どもの脳の発達に与える影響について、
1、依存症
2、精神疾患
3、学力低下
という3つの観点からご紹介しています。
前回は2番の精神疾患についてご紹介しました。
前回内容を大づかみにまとめると、
デジタル機器の発するブルーライトによって、睡眠誘発物質のメラトニンの分泌が抑制されるため夜眠れなくなる
メラトニンの抗酸化作用が働かなくなるため、脳が慢性的な炎症状態になりその機能が低下する
メラトニンを材料として合成されるセロトニンの濃度が下がるため、結果としてうつ病や自殺のリスクが高まる
というものでした。
前回の内容を考えれば、寝室にスマホやタブレットを持ち込んではいけないことが分かります。
私も夜眠れない、と訴える子どもにはベッドにスマホを持ち込まないように伝えています。
今回は3番目のデジタル機器の使用と学力低下について。
ニュージーランド、オタゴ大学名誉教授のジェームズ・フリンは1984年に発表した論文の中で、
1978年のIQ(知能指数)の平均値が1932年に比べ13.8ポイント上昇していること、
そしてその増加率が10年間で3ポイントになることを明らかにし、
このIQが上昇し続ける現象を「フリン効果」と名付けました。
しかし、このIQの上昇が90年代の終わり頃から低下に転じ、年率で0.2ポイントずつ下がっているというのです。
2007年にロンドン大学キングスカレッジの研究グループが行った調査によると、
2003年のイギリスの中学1年生の知能は1970年代に比べると、平均で3年も遅れていることが分かりました。
これは2003年の13歳の子どもの知能は1970年代の10歳と同じであることを意味します。
ジェームズ・フリンはIQの低下傾向について、
読書習慣を持つ子どもが減ったことや、学校の勉強が昔よりも緩くなったことなどを、その原因として挙げていますが、
それ以外の原因を示唆する研究結果があります。
以前にもご紹介した東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授のグループの研究です。
川島教授のグループは平成29年に、仙台市在住でスマホを所有している小学5年生~中学3年生2万5953名を、
一日のLINE使用時間によって
1、全く使わない
2、1時間未満
3、1~2時間
4、2~3時間
5、3時間以上
の5グループに分け、日常の学習時間、睡眠時間を聞き取り、学力検査を受けてもらうという調査を実施しました。
調査結果は以下のようになりました。
1、全く使わないグループ(8262名) 家庭学習が30分以上かつ睡眠時間6時間以上の児童生徒が平均点以上の成績を取った
2、1時間未満のグループ(10671名) 家庭学習が1時間以上かつ睡眠時間6時間以上の児童生徒が平均点以上の成績を取った
3、1~2時間のグループ(3822名) 家庭学習が2時間以上かつ睡眠時間5時間以上の児童生徒が平均点以上の成績を取った
4、2~3時間のグループ(1671名) ほとんどの子どもは平均点に届かない成績であった
5、3時間以上のグループ(1527名) 一人も平均点に届かなかった
この結果、スマホの使用時間が長くなればなるほど、同程度の学習時間、睡眠時間を確保しても成績が低くなる傾向にあることが分かりました。
この結果から言えるのは、デジタル機器の使用頻度と学力の低さには相関がある、ということです。
相関関係は因果関係を保証するものではないので、デジタル機器の使用が低学力の原因であるとまでは言い切れません。
そこで同グループは仙台市在住の5歳~18歳の児童・生徒224人に対して、インターネット使用習慣と脳の発達に関する3年間の追跡調査を行いました。
その手法は非常にシンプルで、それぞれの児童生徒にインターネットの使用習慣の聞き取りとMRIによる脳の画像撮影を実施し、
3年後に再度MRIで脳の画像撮影を実施する、というものです。
その結果は、インターネット使用頻度が高い子どもほど、3年後に大脳皮質の広い範囲に発達の遅れが見られる、というものでした。
これらの川島教授のグループの結果を見ると、先ほど紹介した長期的なIQの低下傾向の原因の一つとして、デジタル機器の使用が強く疑われてきます。
そして、デジタル機器に触れている際に私たちの体内でどのような変化が起きているのかを知ると、この疑念はさらに強くなります。
しかし、また長々と書いてしまいましたので、この続きは次回とさせて頂きます。