前回の記事では、スマホ使用習慣と子どもの学力の相関を調べた研究を紹介しました。
その結果は、スマホ使用時間の多い子どもは、同じ睡眠時間、同じ学習時間を確保しても、
スマホ使用時間の少ない子どもと比較して学力が低い、というものでした。
この結果は、スマホを使用していて勉強時間が確保できなかったがために起きたわけではなく、
スマホを使用することで、子どもたちの脳に器質的な変化が生じ、
そのために学力が低下していることを示唆するものです。
しかし、この結果に判断を下す際、留意点が一つあります。
それは、相関関係は必ずしも因果関係を保障しない、ということです。
伴って起きた二つの事柄の間に必ずしも因果関係がある訳ではありません。
だから因果関係を明らかにするためには追加調査が必要になる、
ここまでが前回の記事の内容です。
前回記事
今回は、スマホ使用が子どもの学力低下の原因なのかどうか、両者の因果関係をより明らかにする調査結果をご紹介します。
前回同様、ご紹介するのは東北大学医学部、川島隆太教授のグループの研究です。
まず、仙台市内在中の5歳~18歳の子ども計224名に対して、
インターネット使用習慣を、
「使わせない」、「全くしない」、「ごくたまに」、「週に1日」、「週に2,3日」、「週に4,5日」、「ほとんど毎日」
の7群に分けて聞き取り調査を実施し、同時にMRIを使って脳の画像を撮影しました。
3年後、再度MRIで脳の画像を撮影し、大脳灰白質の体積増加を測定しました。
※大脳灰白質:大脳皮質とも呼ばれる大脳表面を覆う灰白色の神経細胞層で感覚・運動・精神活動の中枢。
結果は、インターネットを「使わせない」群の大脳灰白質の体積増加が平均して50ccであったのに対し、
インターネット使用習慣が「ほぼ毎日」であった群は大脳灰白質の体積増加が平均して0cc、
つまり、3年間で大脳皮質の成長がほぼ止まっている、というものでした。
またこの調査では、被験者の知能をWAIS-Ⅲ、WISC-Ⅲなどの知能検査で測定していますが、
その結果、インターネット使用頻度が高い群は3年間で、
言葉を通じて物事を理解し説明する能力を表す言語性知能が低下している、ということも分かりました。
また今回の調査では、「スマホ」ではなく「インターネット」習慣と脳の発達について調べていますが、
平成30年度の内閣府の調査によれば、
中学生の65.8%、小学生の40.7%がスマホ経由でインターネットにアクセスしていることが分かっているので、
この脳の発達の遅れが、スマホ使用頻度の高さと関係していると推測しても支障はないと言えます。
前回の記事では、子どものスマホの使用習慣と学力低下の間には相関があることを紹介しましたが、
今回ご紹介した調査で、それが単なる相関関係だけではなく、両者の間に因果関係が強く疑われることが明らかになりました。
スマホやタブレット端末などのデジタル機器を使用する際に、私たちの脳の中ではどのようなことが起きているのでしょうか?
それが分かると今回の調査結果がより強い説得力を持ってくるのですが、
長くなりましたので、その話はまた次回とさせて頂きます。