前回の記事では、インターネット使用習慣と脳の発達に関する3年間の追跡調査の結果をお伝えしました。
調査は東北大学医学部川島隆太教授のグループによって行われたものです。
その結果は、インターネットを使っていない群の大脳灰白質の体積が3年間で平均50cc増加していたのに対し、
インターネットを毎日使う群の大脳灰白質の体積増加は平均して0cc、というものでした。
つまりインターネットを毎日使う群は、あくまでも平均値ではありますが、3年の間脳の発達が止まっていた、という事です。
またこの調査ではWAIS-Ⅲ、WISC-Ⅲなどの知能検査も併せて実施され、
その結果によると、頻回なインターネット使用習慣のある群では、3年間で言語性知能が低下していることも分かりました。
それではなぜ、頻回のインターネット使用が人の脳の発達を妨げるということが起こるのでしょうか?
本題に入る前に、私達の生体機能が持つ、「Use it or lose it」という原則に触れたいと思います。
これは日本語にすれば、「使うか、さもなくば失うか」という意味です。
例えば、ケガや病気で長期入院をすることになり、ベッドで寝ている時間が長くなると、
私達の足の筋肉はやせ細り、歩行に困難を来します。
逆に、筋力トレーニングを重ねれば、骨格筋は太くなりその機能は増大します。
つまり良く使う部位はその機能が増大し、あまり使わない部位はその機能を失う、というのが、「Use it or lose it」の原則です。
そしてこれは骨格筋に限った話ではありません。
例えば高齢者が家に引きこもり人と会わなくなった結果認知症を発症する、などという事例を考えれば、
脳の機能にもやはり、「Use it or lose it」の原則が当てはまることが分かります。
この話を踏まえた上で続きをお読みください。
こちらも同じく川島教授のグループの研究結果です。
「齟齬」「鷹揚」などの読めるけれど、正確な意味を言おうとすると戸惑うような単語の意味を、
紙の辞書で調べたときと、スマホを使ってウィキペディアで調べたときの脳活動をリアルタイムで観察しました。
すると、紙の辞書を使ったときは、大脳の前頭前野が活発に活動しているのですが、
一方で、スマホを使った場合は、本来活動すべきその領域が全く活動していないことが分かりました。
つまり、スマホ使用時は本来起こるべき脳の活動が抑制されていた、ということです。
難しい言葉の意味を調べているわけですから、表面的には学習をしているわけですが、
脳の活動のレベルで観察すると、スマホを使って学習している時は「頭を使っていない」ことがこの実験から明らかになりました。
先ほどの「Use it or lose it」の原則と照らし合わせれば、頻回なスマホ使用で子どもの脳の発達が遅れる理由も説明できます。
つまり、度々のスマホ使用で、脳の活動が抑制された状態が長く続いた結果、その機能が「lose it」になった、という訳です。
現在、小学校、中学校では、一人一台タブレット端末が渡され、それを用いて授業が行われていますが、
この結果を考えると、私はその効果に対しては懐疑的かつ慎重にならざるを得ません。
このようにスマホ使用が子どもの脳の発達に負の影響を与えていることが既に分かっているのですが、
それではそのようなデジタル機器とどのように付き合っていけばいいのでしょうか?
また長くなりましたので、次回に続きます。