大学受験生の授業がひと段落し、今は高校受験生の指導が佳境を迎えています。
子どもたちももうひと踏んばり、私ももうひと踏んばりです。
先日読んでいた本の内容をシェアさせて頂きます。
子育てをされているお父さんお母さんにぜひ読んで頂きたい内容です。
長くなるのでまず要点だけお伝え致します。
要点は三つです。
・スマホの長時間利用によって、子どもの脳の発達が著しく阻害されている。
・スマホを使っているときには、本来活性化するべき脳の活動が抑制されている。
・スマホによる脳の発達阻害から回復する有効な方法は紙の本を読むこと。
ご興味があれば以下読み進めてみてください。
紹介する本は、以下です。
「最新研究が明らかにした衝撃の事実 スマホが脳を破壊する 川島 隆太 著」
著者は、医学博士で、東北大学加齢医学研究所の所長である川島隆太教授です。
著者は前著「スマホが学力を破壊する」の中でスマホの長時間利用と子どもの学力の相関関係を明らかにしました。
まずはその内容からご紹介致します。
著者は2018年度に、仙台市内在住の小学校5年生~中学校3年生のうちでスマホを所有している計3万6326人を対象に、学力とスマホ利用状況の相関を調べるための調査を実施しました。
まずはアンケートを実施し、被験者を、スマホの使用時間が1日1時間未満、スマホの使用時間が1日1時間以上の2群に分けます。
その際、普段の学習時間と睡眠時間も併せて聞き取ります。
その後、国、数(小学生は算数)、理、社の4科目のテストを受けてもらいその合計点の偏差値を元に学力を判定します。
結果は、スマホ使用時間が1日1時間未満の群の方が、スマホ使用時間が1日1時間以上の群に比べて、有意に学力が高いというものでした。
以下に著者の言葉を引用します。
“スマホを1時間以上使う児童生徒は、睡眠時間をきっちり確保し、かつ毎日しっかり勉強(1~2時間)しないと平均点に届かないのに対し、
スマホ使用を1時間未満で抑えることができている児童生徒は、とりあえず机に向かう習慣がありさえすれば(30分未満)、あとは極端な睡眠不足でなければ平均点がとれることがわかります。”
上記の結果は、スマホの使用によって学習時間が奪われた結果学力が低くなっているのではなく、スマホ使用がその子の脳に影響を与え学力が低下していることを示唆しています。
ここまでが前著の内容で、なぜスマホの長時間使用で子どもの学力が低下するのか、その理由を考察したのが本書です。
それでは、スマホの長時間使用が子どもたちの脳にどのような影響を与えているのか、見ていきましょう。
著者は、仙台市内在住の5歳~18歳の子どもたち224名を対象に、インターネットの使用習慣と脳の発達を調べるために、3年間の追跡調査を実施しました。
検査方法は、被験者に対してインターネットの使用習慣を尋ねるアンケートとMRIによる脳の観察を行い、その3年後にもう一度MRIで脳の発達を観察する、というものです。
なお、このデータでは、被験者の家族数、親の年収、学歴、居住地、頭蓋骨容積などの因子が与える影響を除去する統計操作がなされています。
その結果、インターネットの使用頻度が多ければ多いほど、前頭葉、側頭葉、小脳などで大脳灰白質の体積増加に著しい遅れがあることが明らかになりました。
インターネットを使っていない被験者のグループでは、平均して3年間で50㎤の脳容積の増加が確認されたのに比べ、
ほとんど毎日インターネットを利用している被験者のグループでは、平均して3年間で脳の容積が全く増加していない、という結果が得られました。
つまり、インターネットを毎日使う群は、平均すると3年間で全く脳が発達していないということです。
この結果を身体の発達になぞらえて言うならば、小学校6年生の体つきのまま、中学3年生になるようなものです。
この結果から、先ほど紹介したスマホの長時間使用による学力の低下は、スマホ使用により学習時間が奪われたためだけではなく、
スマホ使用が脳の発達に悪影響を与えているためである、ということが明らかになりました。
それでは、スマホ使用時、私達の脳はどのような状態になっているのでしょうか?
著者はスマホ使用時の脳の活動状態に関しても調査をしています。
脳の活動をリアルタイムで可視化できる近赤外計測装置を用いて、テレビを見ている際、ゲームをしている際、スマホを使用している際の脳活動を観察すると、そこには共通点があることが分かりました。
それは、テレビを見ているとき、ゲームをしているとき、スマホを操作しているときは、脳の前頭前野の活動が抑制されているということです。
前頭前野とは、人を人たらしめている脳の部位で、考える、記憶する、アイディアを出す、判断する、応用する、感情をコントロールする、などの高度な機能を担う場所です。
上記実験に加えて、意味の難しい言葉を、紙の辞書で調べる場合と、スマホを使ってウィキペディアで調べる場合の脳の活動状態を可視化するという実験も行われました。
紙の辞書で調べている際は、大脳両半球の前頭前野が活発に活動してるのに対して、スマホで調べている際は、前頭前野はほとんど働いていないことが明らかになりました。
リハビリや高齢者の介護現場でよく使われる言葉に“use it or lose it”というものがあるそうです。
日本語にすれば、それを使うか失うか、という意味になりますが、この言葉は人間の身体機能は使わなければ衰えることを表しています。
そのことと実験結果を照らし合わせて考えれば、スマホを過剰に使用することで、脳の前頭前野の活動が抑制され、その結果前頭前野の機能が衰える、ということが推論される、と著者は結論づけています。
前頭前野の活動が衰えると現れてくる症状には、物忘れ、思考力の低下、キレやすい、無気力などがありますが、それは私が別の書籍で読んだネットゲーム依存の人が呈する症状ともよく合致します。
今まで見てきたように、スマホの長時間使用によって、子どもたちの脳の発達が阻害されてしまうことが明らかになりましたが、
それではそのような状態に陥ってしまったらもうなす術はないのでしょうか?
著者はスマホの長時間使用による脳の発達阻害からリカバリーする方法として、紙の本の読書を推奨しています。
読書習慣の有無と脳の発達に関する3年間の追跡調査(調査対象は仙台市在住の児童生徒296名)によれば、
絵本、漫画、雑誌を除く紙の本を読む習慣のある子どもほど、言語処理に関わる脳の神経線維束が発達し、認知速度、視覚性認知力、ワーキングメモリーなどの認知機能が向上する、という結果が得られました。
平成28年度の仙台市在住の小学5年生~中学3年生を対象とした、学力と読書習慣の相関を調べる調査でも、読書習慣のある子の方が、読書習慣がない子に比べ学力が高い、という結果が得られました。
脳には可塑性があることが知られています。
可塑性とは、粘土のように外力を加えれば形を変えることが出来るが、外力を取り去ってもその形を維持する性質のことです。
習慣という外力を変えれば、それに応じて脳は形を変えていくという性質を持っています。
つまり、過度のスマホ使用によって発達阻害された脳であっても、その使用頻度を減らし、紙の本を読む習慣を身に着ければ、その発達を再度促すことが出来るということです。
以上、長々と書いてきましたが、私の身体実感としても、スマホを使い続けていると、頭がボーっとしたり、呼吸が浅くなったり、神経が高ぶった感じになったり、ということがあります。
これは今までなんとなくの私感でしかありませんでしたが、本書を読んでその私感が科学的根拠によって裏打ちされました。
私がわざわざ言うまでもないことですが、子どもは社会全体の財産です。
その子どもの脳の発達がスマホの長時間使用によって阻害されているならば、そのことをたくさんの人に知って頂きたいと思い、長々と文章を書かせて頂きました。
本書の中で、著者の川島教授は以下のように綴っています。
“この事実を知っても、皆さんは、子どもたちにスマホを自由に使わせますか?”
今回は割愛しますが、本の中では、東北大学の学生1152名に対して行ったスマホ使用と脳の画像解析の結果も紹介されています。
これは決して子どもだけの問題ではなく、大人の脳の問題でもあることが良くわかりました。
本書は、残念ながら紙の本にはなっていないようで、電子書籍でしか読めないのですが、
平易な文章で、分量もそれほど多くないですから、気になった方は、ぜひ一度読まれてみてください。