《ミシマ社の原点回帰》



出版業界にはゆがみが生じていた。

本という、このブログでいうところの“あるもの”は存在している。

ところが、その本を活かしてあげられないようになっていたのだ。

本のもつ本当の魅力が読者に届きにくくなっていた。


さあ、どうする。

一冊の本の持つパワーを信じる三島邦弘さんは、

不況業種の出版業界において、2007年に『ミシマ社』創業した。

本が本来の光を取り戻すために、自分達の“ありかた”にメスを入れたのだ。



ミシマ社の戦術はこうだ。


 「直接営業」

 「出版点数を絞る」

 「出版から営業まで行う」


取次を通さずに、本を直接販売してくれる書店に届ける。

出版社と書店としては、とんでもなく手間が増えることになる。

でも、仕入れに双方責任を感じるようになるし、

本が売れたときの収入も増やせる。


出す本の数を絞ることで、

ミシマ社が本当に出したい本だけに熱意をぶつけられる。

いい本を作りやすくなるだろう。


愛着を持って自分達の本を売るモチベーションも維持できる。

聞いた話によると、出版社の営業マンは自社の新刊リストを持っているが、

本の中味をあまり分かっていない場合もあるとか。

それぐらい、次から次に大量の新刊が出されているということらしい。

また、書店の人も同様に、本の中味を吟味して売っている余裕はないと。



売ってくれる書店と関係を作り、

一冊一冊丁寧に本を作って、熱いハートで売る。

これが、ミシマ社だ。

くわしくは、『計画と無計画のあいだ』(三島邦弘・河出書房新社)を読んでほしい。



これを実現するエネルギーはすごいものだっただろう。

でも気づいてほしいのは、かならずしも目新しいことをやったのではないこと。

ミシマ社がかかげる『原点回帰』だ。

方向性としては、本来あるべきかたちを考え、そこに戻しただけなんだ。

古くて、新しい、そんな戦略だ。



ミシマ社の、数字面からみた業績などは実際のところ分からない。

でも、とにかくイキイキとしたものが伝わってくる。

楽しそうだ。

見ているとうれしくなる。

儲けとか、お金の面での成功なんて二の次。

そう感じさせてくれるのだ。

あるべきかたちを手にしたことで、

本来のエネルギーが呼び覚まされたように思える。



ミシマ社の本を読むと、すべての本に共通する何かがあるように感じる。

思想のような、フィーリングのような。

本を手に取っただけで「ミシマ社の本だな」と感じさせることができるのも、

こんなスタイルで本作りをしているからだろう。


個人的に、僕はこのミシマ社らしさが好きで、

根底に流れているであろう思想にも共感する。

この会社が思い描く社会に乗っかってみたい。

今のところ、

出版社の名前で本の購入を決めることがある世界で唯一の会社

なのだ。