前回、前々回とミシマ社のことを書かいた。


三島社長は本のもつ力を信じていた。

本という“あるもの”はすでに手元にあったのに、

活かしてあげられなくなっていた。

だから、自分達の“あり方”を変えたわけだ。


『非効率』を受け入れてでも、あるべきかたちに立ち返る。

ミシマ社がやった取り組みだ。

書店との直接取引を開始したり、

時間がかかってでも丁寧に本を作る。


この「非効率を受け入れる」ことが

大切なポイントになると僕は思った。


便利さや、効率ばかりを追い求めたために、

おかしくなってしまったものって世の中にたくさんあると思う。

だから、あり方を正すために、

いったん非効率を受け入れなければならないのではないか。

これからの僕らの取り組みにおいて、

「効率悪い!」は禁句なのだ。

たとえば、情報を得るにも、ネットじゃなくて本当に行ってみる。

実際に、会って話をしてみる。

そうしなければ気づかないことがあるはずだ。


富士山に登るには、5合目まで車で行って

そこから歩くのが普通だろう。

しかし、あえて1合目から歩くことで、

特別に得られる何かがあるかもしれないのだ。

「じゃあ一緒に1合目から登ろう」と、

僕が誘われても間髪いれないで断るけどね。

(だからこそ、非効率には希少価値があるのだ)



ミシマ社のことを書いていて、

僕が司法書士事務所をはじめたときのことを思い出した。


僕が開業したころ司法書士事務所は、

不動産の登記手続きの仕事ばかりやっていた。

その仕事は、銀行や不動産業者から紹介されるものだ。

書類だけ渡されて、それをひたすら処理して法務局に申請する。

こんな感じの仕事だった。

司法書士とお客さんは、お互いのことをほとんど知らない。



僕は、この仕事のやり方でいいのか疑問だった。

先生と呼ばれても、実態は下請に近い仕事のスタンスだし、

書類を処理しているだけで、新しい価値を作っているわけでもない。

制度や資格があるおかげで存在できている仕事だ。

本来のお客さんと、ほとんどつながりがないのもつまらなかった。


資格を活かせば「もっといろんなことができるんじゃないか?」と感じていた。

だから僕は、普通の人や会社が

「直接依頼しにきてくれる事務所」を作ろうとした。


こんな話を同業の先輩などにしてみると

「そんなやり方じゃもうからないよ」とか

「面倒すぎる」

と言われるのがオチだった。


でも、やってみたらうまくいった。

3年で地域で一番大きな事務所に成長することができた。

たしかに面倒は多く、非効率な面もあった。

でも、不況や社会の変化に伴い旧来のやり方が難しくなっていく一方、

ウチの事務所は潜在的なニーズを拾えた。



ミシマ社の取り組みからも、僕の個人的な経験からも、

「本来は、こうあるべきだよな」って姿に立ち戻ってみることが、

ときに突破口になるかもしれないと、思うのだ。

ただリセットしただけのようでも、有効な戦略になってしまったり。

とくに今のような、これまでのシステムが機能しなくなった状況では。


あり方を見つめなおすこと。

原点回帰してみることをおすすめしたい。

そのために、あえて非効率に飛び込むことに意味があるのだろう。