経て、経て、生きてきました。
失敗や挫折を味わっても、決して卑屈にならず、疑心暗鬼にならずにやって来れたのも、そのたびに周りの人々がとても温かく手を差し伸べてくださったおかげです。
20代の頃、ミュージシャンになる!と上京しました。
聞こえはいいんですが、結局待っていた結末はというと、友人や先輩を巻き込むだけ巻き込んだ挙句、数100万円の借金を負うという事態。
はい、取り込み詐欺に遭いました。。。
「プロデビューをさせる」という、とっても甘くてとっても現実味のない言葉にひっかかり、見事に詐欺の餌食になりました。
「ひっかかった」というよりは信じ込みたかったんでしょうね。
当時は、この出来事にただ憎しみの感情と情けない思いしかなかったのですが、
まあそれは人生の学習でもありました。
はっきりと自覚しました。
俺はただ、逃げていただけです。
就職したくない、いい生活したい、に加えて、俺には人とは違う何かがある、という安易な言葉にもしがみついていたのでしょう。
きちんと積み重ねてもいない人間に、「音楽でCDデビュー」なんてうまい話がそうそう簡単に飛び込んでくるわけもないですよ。きちんと積み上げて来ないと、そこそこの生活すら手に入りません。ましてや一発逆転劇のようなアクシデントなんて、なんの準備もしてない人間の前にはやって来ません。格好の詐欺のカモ。俺が今から詐欺師デビューするとしたら、この頃の俺みたいなやつ探すでしょうね。
1~2年でしたか、とても貧しい日々が続きました。
バイトしてもバイトしてもろくに食えない。食えないから力も出ない。気持ちもささくれだって来る。隣の人が飼ってる猫ちゃんを捕まえて、真剣に食べようか、っていうところまで追い詰められました。肉が食べたくて食べたくて、本気でやろうとしてました。
それまでぬくぬくと、親元で何一つ苦労せず生きてきてたわけですから、どう乗り越えていいかすらわからないのです。
本来、自分の掲げた目標・目的がしっかりしたものであれば、騙されようと一文ナシになろうと何も迷うことはないのですが、「ミュージシャンになる」という目標は、ただの借り物の上着でしかなかったのです。ただバイトしながら、借金の支払いをするだけの日々に取って代わっていきました。
で、結局、姫路へ帰るわけですが、この時に強く胸に刻んだことは、とにかく豊かな生活を手に入れねば、ということでした。
そして、嫌悪しました。
「逃げて生きてきた自分」を。
けれど、この時の自分に対して「あ、おまえって良いな」と思えることがひとつあります。
それは、向こう見ずではありますが「これだ!」って信じたことに金を突っ込める自分に、でした。アホであるがゆえに真っ直ぐ、疑わない自分。
けれどそんなふうに思えるようになったのは後になってからのことですが。
この時の俺はただ、「逃げてきた自分」に憎悪し、その自分のことを徹底的にたたきのめしてやろう、としか考えていませんでした。
いませんでした
いませんでした
つづく。
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八田員徳 KAZUNARIHATTA
切り絵アーティスト・似顔絵師・絵画講師
1975年姫路市生まれ。
2012年、脱サラし、絵画教室カラフルキッズアートHACHIを開講&切り絵アーティストとして活動開始。姫路市内の幼稚園・小学校への出張教室なども行う。
また、観客の前で下絵ナシの切り絵を制作するパフォーマンス「切ル・観ル」では、多彩なミュージシャンと共演。自身のライフワークでもある。