映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。







▼『映画を語れてと言われても』


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第一六五回『俺は“コンスタンティン”‥‥‥ジョン・コンスタンティンだクソったれ!』




『コンスタンティン』

2005年公開
監督:フランシス・ローレンス監督
原作:ジェイミー・デラノ ガース・エニス
出演:キアヌ・リーブス レイチェル・ワイズ ティルダ・スィントン シャイア・ラブーフ ジャイモン・フンスゥ プルイット・テイラー・ヴィンス ピーター・ストーメア他



 あらすじ

 ‥‥‥この世には‥‥‥天国より来たる天使と、地獄より来たる悪魔が、ハーフブリードと呼ばれる人間の姿で活動し、人間を影ながら支援し、あるいは操ることで、いわゆる代理戦争がおこなわれていた‥‥‥。


 アメリカ・ロサンゼルス‥‥‥。
 悪魔祓い志望の助手のタクシー運転手チャズ(演:シャイア・ラブーフ)を足代わりにして、悪魔祓いを生業としているジョン・コンスタンティン(演・キアヌ・リーヴス)は、同業者のヘネシー神父(演:プルイット・テイラー・ヴィンス)の頼みで、ある移民一家の少女に憑りついた悪魔を払った案件から、地獄で何かしらの異変を生じていることを察知する。
 その一方で、体調不良から医師の診断を受けたところ、末期の肺がんであり、余命幾ばくもないことを宣告されてしまう。

 この事態にコンスタンティンは、天国から人の姿で地上に来ていた知古の天使ガブリエル(演:ティルダ・スィントン)の元を尋ねて助けを請うが、コンスタンティンの過去の数々の所業による因果応報だと、ガブリエルにすげなく断られてしまう。
 自殺未遂経験があるため天国には行けず、死ねば散々自分が払ってきた悪魔達が待つ地獄行き待っていることに憤るコンスタンティン。


 その少し前、ロス市警の刑事アンジェラ(演:レイチェル・ワイズ)は、精神病院に入院していた双子の妹イザベルが、飛び降り自殺したとの報に衝撃を受ける。
 なぜなら妹は敬虔なクリスチャンであり、自殺すれば地獄行きとなるのに自死を選ぶとは思えなかったからだ。
 アンジェラは自殺直前の妹をとらえた病院の監視カメラ映像から、彼女が最後に『コンスタンティン』と呟いていることを発見し、悪魔祓いのジョン・コンスタンティンに行きつき、彼とイザベルの自殺に関係があると睨み彼を尋ねる。



 かくして、迫る死の運命に憤るコンスタンティンの元に現れたアンジェラ。
 そんな彼女に、今それどころではないコンスタンティンは知ったこっちゃないと一時は突き放すが、アンジェラが〈タロン〉と呼ばれる悪魔に狙われていることに気づいたコンスタンティンは、悪魔祓いの技術これを撃退しアンジェラの話を信じる。
 そしてイザベルの死の真相をしるべく、悪魔祓いの術を使い、自殺の罪で地獄に落ちた彼女に会いに行ったコンスタンティンは、確かに彼女が自ら命を絶ったことを確認すると同時に、イザベルが手首に巻いていた入院患者用タグを持ち帰ることで、アンジェラの信用を得る‥‥‥と同時に、イザベルの死が先刻の移民一家の悪魔祓いで感じた異常と関係があると睨む。
 

 それに並行し、コンスタンティンの頼みでイザベルの遺体を調べていたヘネシー神父が不可解な死をとげる。
 コンスタンティンとアンジェラは、ヘネシーの死が悪魔の仕業であり、彼の残したダイイングメッセージから、「コリント書17章1節」というワードに行きつく。
 本来の聖書にはコリント書に17章は存在しないが、地獄の聖書のコリント書には17章以降が存在し、それによれば、悪魔の王ルシファーの息子マモンが、地獄よりこの世界に現れようとしているらしかった。
 もちろんそれが実現すれば人類の世界は地獄と化してしまう。


 はたしてコンスタンティンとアンジェラは、この悪魔の企みを阻止することが出来るのであろうか?
 







 さて今回は、みんな大好きキアヌ・リーヴス主演でお送りする、天使と悪魔のロクでもない争いに、ロクでもない手段で対抗するロクでもない男を描いた、DCコミックス原作のオカルト・ハードボイルド映画について語りたいと思います。

 


 監督はフランシス・ローレンスというお人。
 吸血鬼モドキに変異するウィルスが蔓延した世界で、ただ一人生き残ったウィル・スミスが奮闘する映画『アイアムレジェンド』や、各地区より選出された十代の若者が、殺し合いゲームい強制参加させられる『ハンガーゲーム』シリーズの監督で有名なお方です。
 その監督としての特色は、VFXを駆使して描かれたダークな世界を映像で表現し、そこで東奔西走するキャラのドラマをドッシリと描くところ(筆者調べ)。
 本作でも、天使と悪魔、天国と地獄、そして人間界の様子をVFX技術などの映像テクニックで見事に映像化しつつ、超クセつよなコンスタンティンをはじめとするキャラ達のドラマを見事に描いております。


 で、原作は前述したように『バットマン』や『スーパーマン』などを出版したDCコミックスから刊行されていた『ヘルブレイザー』というタイトルのアメコミです。
 つまり本作は、バットマンやスーパーマンなど肩を並べるオカルト界でのアメコミヒーローなのです。
 なお原作ではブロンドで刑事コロンボ的なトレンチコートがトレードマークなコンスタンティンですが、本作ではキアヌ・リーヴスのビジュアルに合わせてアレンジされております。
 後年になってこの原作準拠版の『コンスタンティン』が、実写アメコミヒーローブームの波にのって実写ドラマ化され、一部のDCユニバースのアメコミヒーローとクロスオーバーして共闘したりしてます。




 で、主演はご存知キアヌ・リーヴス。
 本コーナーでいえば『マトリックス』や『ジョン・ウィック』の主演をした他、『スピード』や『ビルとテッド』シリーズで有名なTheハリウッド・スターの一人です。
 本作では性格の捻くれたずる賢い悪魔祓いを、太々しく演じております。




 共演は、死んだ双子の妹の真相を究明すべく、コンスタンティンと手を組む刑事アンジェラ役にレイチェル・ワイズ。
 20世紀初頭を舞台に、エジプトで蘇ったミイラ〈イムホテップ〉の大騒動を描いた『ハムナプトラ』シリーズや、第二次大戦中の独ソ戦で行われた狙撃兵の戦いを描いた『スターリングラード』のヒロイン等で有名な女優さんです。



 地上に降りてきているハーフブリードの天使ガブリエル役にはティルダ・スィントン。
 イギリスの名家出身の年齢不詳の美魔女女優です。
 色んな映画に出まくっていますが、『ドクター・ストレンジ』でのエンシェント・ワン役なんかが筆者的には印象深いお方。
 ともかく浮世離れした雰囲気の女優さんで、人ならざる天使役にピッタリです。



 さらにコンスタンティンが便利にこき使う助手のチャズ役にシャイア・ラブーフ。
 本コーナーで言えば『トランスフォーマー』で主演した他、『アイ・ロボット』でも主人公に絡むチャラい若者を演じた子役出身俳優です。
 本作での意外な活躍で、彼のキャラが好きになった人も多いと思います。


 またコンスタンティンと同業者のヘネシー神父役に、先日本コーナーで紹介した『海の上のピアニスト』で好演したプルイット・テイラー・ヴィンス。
 本作でもコンスタンティンを絶妙にアシストする良いキャラを好演しております。


 そんなコンスタンティンが通う、天使と悪魔との中立地帯になっているクラブのオーナー、パパ・ミッドナイト役にジャイモン・フンスー。
 本コーナーで言えば、MCU映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で出演した他、『アミスタッド』『ザ・グリード』『グラディエーター』『ブラッド・ダイヤモンド』『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』『キングスマン:ファースト・エージェント』
などなど、ここ30年のあらゆる大作・話題作に出演している名脇役俳優です。


 そして忘れちゃならない本作の黒ラスボス(?)的ポジションの元天使な悪魔の親分ルシファー役にピーター・ストーメア。
 ブルース・ウィリス主演マイケル・ベイ監督の隕石落下デザスター映画『アルマゲドン』でのロシア人宇宙飛行士や、『ジョン・ウィック2』の冒頭で、バカな甥っ子のせいで組織を半壊させられるロシアンマフィアのボス役の他、人気刑務所脱獄ドラマ『プリズン・ブレイク』での人気キャラ、ジョン・アブルッチ役などが有名な性格俳優です。
 本作では最後に一番オイシイとこを持って行きます。


 あと隠しキャラとして、トム・クルーズ主演『ミッションインポッシブル』シリーズで、一時期主人公の妻役だったブリジット・モナハンが出てます。

 ‥‥‥ってなわけで本作のキャスト、分かる人にはと~っても曲者揃い。
 まぁ天使役と悪魔役が混ざってるんで、当然っちゃ当然なんですけどね!



 そんなスタッフ・キャストでお送りする本作は、世間では特大ヒットというよりは、そこそこヒットはヒットしましたが、大いに儲かったとは言えない売り上げの様子。
 しかし、本作はいわゆるカルト的な人気作として、キアヌ・リーヴス主演作品の代表作の一つとして、『マトリックス』や『ジョン・ウィック』と並んで数え上げられる作品なのです。


 ‥‥‥例によってその『コンスタンティン』の魅力を、筆者なりにあげるならば、それは三つ。


 まず一つめは独特の世界観です。
 あらすじ冒頭に説明したように、本作の世界では、天使と悪魔が人間を使って代理戦争をしているという設定です。
 この時点ですでにロクでもない世界観ですが、他人事として見る分には興味深い世界です。 

 この映画では、天国と地獄の両陣営からやってきた天使と悪魔が、人間に囁いたり誘惑したりして、善行あるいは悪行をはたらかせ、世界の善と悪のバラスを傾けようとしているそうです。
 その人間界に降りて活動しているハーフブリードと呼ばれる天使と悪魔は、霊感ある人にしか人間と見分けがつかないので、普通の人々は天使と悪魔の戦争に気づかないまま生きてるわけです。
 そして悪魔側は、悪魔なだけに時々ルールを破って人間界で悪さをするため、そいつらを退治すべく、霊感をもった人間が悪魔祓いをして追っ払っている‥‥‥という世界観なのです。
 それを上手いこと映像化しているところが、この映画の魅力の一つではないでしょうか。

 ついでい言えば、キリスト教的な世界観なので、悪魔の親分がルシファーで天使がガブリエルだったり、自殺した人間は地獄行きといったルールがあります。
 そして聖書にある黙示録的終末を阻止するのが本作のタスクとなるわけです。
 う~ん筆者がこれまでやってきたアレもコレも‥‥‥全部悪魔の仕業だったんだな!




 二つ目は、魅力的な悪魔祓いアイテムの数々です。
 悪魔祓いの人間は、霊感があったり多少の魔法めいたことが出来るものの、基本的なフィジカルは人間なので、人ならざる悪魔には腕っぷしでは対抗できません。
 そこで数々の悪魔祓いアイテムを駆使する分けですが、本作はそれらがユニークで良いのです。
 いかにも悪魔に効果ありそうな十字架や聖水なんかは序の口で、〈ドラゴンの息〉なる謎の火炎放射器や、〈悪魔の棲む家のキ~キ~虫〉という悪魔が嫌いな鳴き声を出す虫の入った小箱、死刑執行に使われた電気椅子を利用した悪魔探知装置。
 そしてなんといっても聖なる十字架を鋳溶かして作った聖なるメリケンサック! 様々な聖遺物を組み上げると完成する聖なるショットガン!
 もう『聖なる‥‥‥』と付けとけば何でも許されるだろうと思ってそうです!
 バットマンの〈バット○○〇〉みたいなノリを感じないこともありません。
 しかしこの〈聖なる○○〉で悪い悪魔どもをぶっ飛ばす武闘派悪魔払いっぷりが清々しいのです。




 そして三つ目の理由は‥‥‥。
 ズバリ、キアヌ演じるコンスタンティンというキャラそのものの魅力ではないでしょうか?
 
 今回キアヌ・リーヴスが演じるジョン・コンスタンティンは、たまたま霊感を持って生まれたが為に見えなくて良いものが見え、それが原因で自殺未遂した結果、ますます高まった霊感で天使と悪魔の人間を使った代理戦争を知ってしまった上に、自殺未遂したがために、将来死んだ後で地獄行きが決定してしまったという大変運の無い人。
 なんとか地獄行きを避け、天国に行く為の点数稼ぎとして悪魔祓いという善行を行っているという‥‥‥なんというか凄く利己的な人です。
 ですがそこが筆者は気に入っているのです。
 世の中、正義の為と言いながら人に迷惑をかける人と、自分の為と言いながら人の助けとなる行いをする人がいたならば、後者の方が百倍マシですからね。
 コンスタンティンの場合、単にツンデレ的に自分の為に悪魔祓いしてると言いそうですが‥‥‥。

 そしてそんなコンスタンティンの悪魔との立ち向かい方が良いのです。
 基本霊感があるだけのコンスタンティンは、前述した数々の悪魔祓いアイテムを駆使するわけですが、武器はそれだけではありません。

 コンスタンティンには、人間ながらにして悪魔と渡り合えるだけの武器がまだあります。
 それは〈経験値〉と〈ずる賢さ〉です。

 本作が良い映画と言えるのは、その〈経験値〉と〈ずる賢さ〉で巨悪と立ち向かう別ジャンルの映画を踏襲しているからな気がします。
 そのジャンルとは、いわゆる『ハードボイルド』系作品です。

(※ここで本コーナーで紹介してきた映画から『ハードボイルド』に該当する作品をあげたいところですが‥‥‥嗚呼『ビッグ・リボウスキ』しか無い!)

 ここで言う『ハードボイルド』系作品とは、筆者なりに言うならば、それは時代において行かれ気味の私立探偵が、運の悪さと過去のしがらみから巨大な陰謀に巻き込まれてしまう系の作品です。
 そういった作品で主人公の武器となるのもまた〈経験値〉と〈ずる賢さ〉であり、本作はその『ハードボイルド』系作品を天使と悪魔の代理戦争のただ中のオカルト作品として描いたところが魅力と思うのです。

 そしてキアヌ・リーヴス演じるコンスタンティンの〈経験値〉と〈ずる賢さ〉は、時に人ならざる天使や悪魔を出し抜くレベルであり、それが痛快なのです。

 はたしてコンスタンティンはいかにして、人間界を悪魔の企みから守るのでしょうか?
 本作未見の方はどうかその目でご確認下さい!!




 さてここでいつものトリビア。
 本作では撮影こそされたものの、編集段階で登場シーンをまるっと削除されてしまったキャラがいます。
 そのキャラこそが、前述したブリジット・モナハン演じるコンスタンティンのハーフブリードの(夜の)友人です。
 編集段階でガン宣告されたコンスタンティンが、彼女と逢瀬を楽しんでいるのは緊張感を削ぐということでカットされてしまったそうです。
 ‥‥‥ですが映画内で彼女が映ったカットが一か所だけ残っています。
 クライマックスで、ある事情でふりそそぐスプリンクラーを最初に浴びるキャラとして、その姿をアップで見ることができますよ。
 

 ‥‥‥ってなわけで『コンスタンティン』もし未見でしたらオススメですぜ!



 映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。







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第一六四回『“FA(~~~~~~~~~~~)LL/フォール”』





 タグ:サバイバル 高所 鉄塔 アクション 恐怖 親友 父 ドローン ロッククライミング ソリッドシチュエーション アクション

『FALL/フォール』
2023年公開
監督:スコット・マン
脚本:ジョナサン・フランク スコット・マン
プロデューサー:ジェームズ・ハリス他
出演:グレイス・キャロライン・カリー ヴァージニア・ガードナー
 ジェフリー・ディーン・モーガン



 あらすじ
 新婚のベッキー(演:グレイス・キャロライン・カリー)は、最愛の夫ダンと親友のハンター(演:ヴァージニア・ガードナー)と共に、共通の趣味であるフリークライミングを行っていたところ、俘虜の事故でダンを失ってしまう。

 それから1年が経ち、未だにダンを失った悲しみから立ち直れず、酒浸りの日々を送るベッキー。
 そんな彼女に父ジェームズ(演:ジェフリー・ディーン・モーガン)は酒場にいた彼女にいい加減立ち直るように幾度目かの声をかけるが、うっかり亡き夫ダンのことを悪く言ってしまい、ベッキーは余計に心を閉ざしてしまう。

 そんな時、今は危険な場所からの配信を得意とする冒険系ユーチューバー(デンジャラスD)として活動していたハンターが、ベッキーを高さ600mを超える解体予定のTV電波塔への登頂に誘う。
 当然、最初は断るベッキー。
 だがハンターの電波塔の頂上からダンの遺灰を撒くことで彼を偲ぼうというアイディアに、ベッキーは心動かされ、意を決して同行を承諾する。



 かくして荒野のど真ん中に聳える件のTV電波塔へと向かうベッキーとハンター。
 そのTV電波塔は、数キロ手前でフェンスで囲まれていた為、そこまで乗ってきた自動車を降り、二人は徒歩でTV電波塔の基部まで向かうと、ベッキーは間近で見るその塔のあまりの高さと、解体予定なのもうなずけるボロさに怖気ずく。
 がハンターに励まされ、二人はダンの遺灰、撮影用ドローン、飲み水、自撮り棒‥‥‥を納めたリュックを背負い、命綱としての長さ10mのロープで二人を繋ぎとめると、塔の登頂を開始する。
 三角柱状の鉄骨で覆われた電波塔の内部のハシゴを高さ550mまで昇り、そこから残りの60mは、一本の柱の外に剥き出しとなった梯子を昇りてゆく。
 天辺に着く手前10m強の部分で、巨大なパラボラアンテナが進路を邪魔していたが、それを避けて梯子を昇り続け、二人は見事塔の天辺にある半畳程の足場の上にたどりつく。
 
 さっそくそこでドローンやスマホで配信用の動画を撮影し、ダンの遺灰を撒き終え、そこまで来た目的を達成すると、ベッキーは達成感と共に塔を降りようとする。


 だがベッキーがまずハシゴで降りようとしたその時、二人が登頂したことで耐久限界を迎えていたハシゴが突然崩落、命綱のお蔭で二人は無事だったものの、塔の頂上から60m分の梯子が柱から剥がれ、はるか下方の地上に落下、二人は地上に降りる術を失ってしまう。
 しかも、ドローンや飲み水を納めたリュックサックが、ハシゴ崩落時の混乱で10m下のパラボラの上に落下してしまっていた。

 さらに、二人が持ってたスマホは高度600mでは圏外であり、助けを呼ぶこともできなかった。

 降りれず、水も無く、助けも呼べないまま高度600mに取り残されてしまった二人。
 はたして、絶体絶命となった二人の運命やいかに!?






 さて今回はソリッドシチュエーション・サバイバル・アクション・スリラーの秀作を語りたいと思います。

 筆者はこれまでの映画館鑑賞歴で、映画の途中で怖さのあまり帰りたくなった作品が二本あります。
 その一つは、サメを間近で見るために、檻に入って海中に吊るされる〈ケージダイブ〉という観光地のアクティビティをやった二人の女性が、入っていた檻ごと海底に落下して大弱りという作品『海底47m』。

 そしてそのもう一つの作品が、本作『FALL/フォール』です。



 監督はスコット・マンて人。
 元プロレスラーのデイブ・バウティスが、サッカースタジアムを舞台にダイ・ハードする『ファイナル・スコア』って映画の監督をした以外、これといって情報が見つかりませんでした。


 脚本はそのスコット・マンと、『ファイナル・スコア』の脚本も書いていたジャナサン・フランクというお人。
 他はこれといって情報が見つかりませんでした。

 ただプロデューサーの一人がジェームズ・ハリスという人なのですが、この人の過去のプロデュース作品の一本が『海底47m』でした。
 ‥‥‥アンタか!!



 出演は、未亡人主人公のベッキー役にグレイス・キャロライン・カリー。
 DCヒーロー映画の『シャザム』で、血の繋がらない主人公の一番上の姉を演じているのが一番有名かもしれません。
 他はこれといって情報が見つかりませんでした。


 そのベッキーを、よりによって崩壊寸前の高さ600mのTV電波塔に誘ったYouTuberのハンター役にヴァージニア・ガードナー。 数々のB級映画とTVドラマで活躍してきたお方のようです。
 他はこれといって情報が見つかりませんでした。


 ‥‥‥でも主人公ベッキーの父ジェームズを演じているのはジェフリー・ディーン・モーガン!
 人気ゾンビTVドラマ『ウォーキングデッド』での人気キャラのニーガンを演じたことで有名な人です。
 他にザック・スナイダー監督作のビジランテヒーロー映画の快作『ウォッチメン』で、コメディアンというヒーローを演じたことで有名な、本作の出演者でももっとも有名な俳優さんと言えるでしょう。
 ま、塔に登るわけではないので出番はそんな無いんですけどね!!




 ‥‥‥ってな感じで、残念ながら本作のスタッフ・キャストは、いささかネームバリューは少々弱いと言えるかもしれません。
 実際、本作を映画館で見た人で、スタッフ・キャストのファンだから見た! ‥‥‥という人は少数派でしょう。
 ですが本作はそんなネームバリューの弱さを書き消す程の面白さと、本コーナーでも屈指の怖さがあるのです!
 


 まずなんと言ってもアイディアが素晴らしい!


 ‥‥‥‥‥‥思えば、いつの頃からか人は、何故か限定されたどこかに取り残される事を題材にした物語を作り続けて来ました。

 例えば、無人島に、大洋で難破した船の救命艇、電話ボックス、地中深くに埋められた棺桶、火星、戦場の敵陣奥深く、高度400キロの衛星軌道、巨大ホホジロザメ泳ぐ浜辺の岩場、海底47m‥‥‥などなど、古来より人はあらゆる場所に閉じ込められたり取り残されたりして、移動も避難もままならなくなった人のドラマを描き、それで名作を作ってきました。
 いわゆるソリッドシチュエーションとか言うヤツです。

 そのような状況の物語を描くことが、なぜ名作を生むことになったのでしょうか?
 
 筆者が思うに、それは引き算の美学の極地だからなような気がします。
 どんな窮地に遭遇しても、助けとなる人も物資も充実したシチュエーションでは、危機感がやや薄れてしまうものです。
 電話してすぐ警察、消防、救急車が駆け付けてくれるのとくれないのでは、危機レベルが段違いですものね!?
 ですが逆に言えば、助けとなる人や物資が欠けた状態であれば、なんて事無い窮地であっても、そこから脱するにはとんでもない苦労とドラマが生まれ、映画などの作品に成りうるのです。
 例えば人里離れた荒野の岩場で、岩と岩で手が挟まって動けなくなったりとか!

 本作の場合は、それが解体予定の高さ600m強のTV電波塔の鉄板なわけです。
 今までなんで誰も作ってこなかったの? と思わないでもないシンプルな怖さ!
 
 筆者はこの映画の存在を知った時、正直舐めておりました。
 これまでの人生で、高層ビルや観光地のタワーに登っても平気だったし、東京タワーの展望台の床の窓とか覗いても平気だったし、自分が高所恐怖症だとは思ってこなかったからです。

 ゆえに筆者は、この映画に関する怖さ部分は完全に軽視したまま、でもこれまでのソリッドシチュエーション映画の面白さから見る価値はあると判断して見に行ったわけですが‥‥‥嗚呼‥‥‥怖かった。
 
 今までなんで誰も作ってこなかったの? とは前述しましたが、結果的に2020年代の今作られたことが大正解だった気がします。
 本作が面白かった理由は多々ありますが、この作られたタイミングが重要だったような気がするのです。



 まず本作の準主役とでも言うべき主人公の親友ハンターが、YouTuberであることが、本作の物語を成立させるのに非常に有効に働いている気がします。
 ホラー映画等で、登場キャラが危険な場所に足を踏み入れる時は、脚本上のその理由付けが中々面倒ですが、入っちゃいけない所、入らなくて良い所に行く理由として、YouTuberという存在は大変便利で説得力があります(偏見)。
 そして説明がラクチン! だってYouTuberだから!!
 日本のホラー映画でも、YouTuberの登場する作品が散見される程。
 そのYouTuberの存在が一般的になった2020年代の今だからこそ、本作は撮れた側面があるのです。
 本作の場合、主人公ベッキーの親友ハンターがそのYouTuberで、見た人の多くが『おいハンター!』と思う気がするのですが、そんな見た人の感想すら、本作では手玉にとられた気がします。

 
 そしてもう一つは映像技術の進歩です。
 高度600mに近い高さの電波塔は数十年前から存在するようですが、かといって馬鹿正直にそこで撮影できるような内容ではありません。
 撮影時の安全が確保できませんからね!
 当然ながら本作は、最新のVFXやドローンをはじめとする映像技術を駆使することで、安全を確保しつつ撮影し出来上がっているのです。
 ‥‥‥しかしながら、その映像が無駄に真に迫っているがゆえに、筆者は本作を映画館で見た際に、途中で帰りたくなるレベルの恐怖を味わうこととなったのです‥‥‥。

 ある意味、これから本作を映画館では無く自宅やスマホなどでご覧になる方は幸いであったかもしれません。
 映画館と言う逃げ場のない大画面で見る本作の恐怖は、それはもうただもんではなかったのですから。
 本作を見た時の筆者は、映画館の座席でとても挙動不審だったことでしょう。
 映画中盤の筆者は、もう返ろうか残ろうかという葛藤で超モジモジしていたものですから‥‥‥。

 それくらい、自分が高さ600mの電波塔に登ったかのような臨場感あふれる映像だったのです。
 主要キャスト陣がほぼ二人しかいないぶん、予算を映像にかけたんじゃないかと思います。
 それは大成功ですが筆者にとっては軽いトラウマの源です!




 そしてやはり、本作の面白さはその脚本の良さです。
 この映画、このシンプルなアイディアで、あらすじに書いた内容で上映時間107分もの物語を描いているのです。
 これは、600mの高さの鉄塔の天辺に取り残されてしまった場合、いかにして助かるか? について主人公達二人が行う数々のアイディアを駆使したトライ&エラーの発想力が凄い‥‥‥という部分ももちろんあるのですが‥‥‥。
 本作はそれだけではなく、前述したソリッドシチュエーション作品の多くがそうであるように、主人公の過去のトラウマと、新たに訪れた生命の危機、僅かにいる仲間との交流を通して、自分と向き合い、座して死を受け入れるか? それとも無様に悪あがきしてでも生きることを選ぶのか? の葛藤のドラマが、数々のアイディアと少々のサプライズと共に、実に過不足なく描かれているのが良かったのではないか? と思うのです。
 ようするに本作は、これまで作られてきた同じソリッドシチュエーションものの映画によって培われたノウハウを、情け容赦無く良いとこどりして作られた映画な(ような気がする)のです。

 はたして、ベッキー達は如何にしてこの窮地に挑んだのか? 本作未見の方は、どうかその目でご確認下さい!





 さてここでいつものトリビア。

 本作の映像美は、2020年代ならではの映像技術で撮られた結果‥‥‥と書きましたが、それは必ずしもVFX技術だけの話ではありません。
 本作では実にアナログ極まりな手段も駆使して、高度600メートルの鉄塔の天辺という環境を映像化しているのです。
 その方法とは!

 屋内に組んだグリーンスクリーンの前のセットで、キャストが安全に演技した。
 ‥‥‥のではなく、余計な物が映らない荒野のど真ん中にある小山の上に、舞台となるTV電波塔の先端から30mまでのセットを組んで、そこに二人のキャストを登らせて撮影したんですって!
 つまりアングル次第では完全NO.CG、NO.VFX技術で本作の映像は出来ているのです。
 撮影班はともかく、キャスト陣は充分怖い思いをしながら撮影してそう‥‥‥。
 本物の太陽光を照明に、本物の景色の中で撮影していることで、本作の恐怖映像は出来上がってるんですね!!
(もちろんVFX技術も多々使ってるでしょうが‥‥‥)



 ‥‥‥ってなわけで『FALL/フォール』もし未見でしたらオススメですぜ!!



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 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。











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第一六三回『殺し屋で一杯‥‥‥“ブレット・トレイン”』





 タグ:日本 伊坂幸太郎 ブラッド・ピット 新幹線 東京 京都 アクション コメディ 殺し屋 ヤクザ きかんしゃトーマス 復習 運命 幸運 不運 群像劇 コロナ禍

『ブレット・トレイン』
2022年公開
監督:デヴィッド・リーチ
原作:伊坂幸太郎:著『マリアビートル』
製作会社:コロンビア ピクチャーズ 87ノース・プロダクションズ
出演:ブラッド・ピット アーロン・テイラー=ジョンソン ブライアン・タイリー・ヘンリー 真田広之 ジョーイ・キング アンドリュー・小路 マイケル・シャノン ローガン・ラーマン他




 あらすじ
 日本・東京‥‥‥。
 裏社会で生きる中年男性のキムラ(演:アンドリュー・小路)は、自分が目を離した隙に、何者かによって幼い息子をビルから突き落とされ重症を負わされる。
 父に静かに責められ、自らも息子から目を離したことをひたすら後悔するキムラ。
 そんな彼の元に、その息子をビルから突き落とした犯人が、人気アニメのゆるキャラ〈モモもん〉のキャラ電車仕様となった東京発・京都行のとある新幹線に乗車するという謎のタレコミがあり、キムラはすぐさまその新幹線へと乗り込む。
 そしてタレコミのあった座席にいる復讐対象に銃を突きつけるキムラ。
 だがそこに座っていたのは、十代半ばと思しき白人美少女であった。


 一方その同じ新幹線内では、凄腕の殺し屋の〈双子〉ことミカン(演:アーロン・テイラー・ジョンソン)と『きかんしゃトーマス』をこよなく愛するレモン(演:ブライアン・タイリー・ヘンリー)が、日本を牛耳るヤクザの首領ホワイト・デスの依頼で、中国マフィアによって誘拐されていたホワイト・デスの息子(演:ローガン・ラーマン)と身代金の入ったスーツケースを、大殺戮の上で中国マフィアの根城から回収し、依頼主に指定された京都へと送り届けようとしていた。
 しかし、ほんのわずか目を離した隙に、スーツケースが何者かに奪われた上に、同行していたホワイト・デスの息子が毒殺されてしまう。
 この大失敗をリカバリーすべく、ミカンとレモンは、レモンの『きかんしゃトーマス』理論を用いた推理法を駆使しつつ、車内から息子殺しの犯人を探し出し、スーツケースを取り返そうと動くのであった。


 その少し前、数年前に最愛の女性との結婚式で、妻となる女性と式の列席者全員を毒殺され、復讐に燃えている元メキシコカルテルの殺し屋のオオカミは、その仇がとある東京発・京都行の新幹線に乗車しているとの情報から、品川駅よりその新幹線に乗り込まんとする。


 その同じころ、裏社会で運び屋業をしているテントウムシ(演:ブラッド・ピット)は、病欠した他の人間の代打で、とある東京発・京都行の新幹線に乗り込み、車内からとあるブリーフケースを盗み出す仕事を引き受け、難なく成功する。
 しかし、テントウムシが次の停車駅である品川から下車しようとした瞬間、突然メキシコ人の大男に襲い掛かられるのであった。


 その一方‥‥。
 とある東京の片隅の自動販売機で、異国人の殺し屋に購入されたボトルウォーターは、そのままその殺し屋と共に東京発・京都行の新幹線に持ち込まれ、数奇な運命の果てに、そこに集った殺し屋たちの未来に重大な影響を与えるのであった‥‥‥。


 はたして同じ東京発・京都行の新幹線に集った殺し屋(と運び屋)達の運命やいかに!!??







 さて今回は! 日本を舞台に日本の小説を原作とし、今売れっ子監督のデイビッド・リーチ監督の元、あのブラッド・ピットが主演で2022年にお送りされた痛快殺し屋アクションコメディの傑作について語りたいと思います!


 原作は伊坂幸太郎作の小説『マリアビートル』。
 伊坂幸太郎といえば、日本でも『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』『グラスホッパー』などなど、何本も実写映画化がなされた原作小説を書くベストセラー作家です。
 その物語の特徴は、伏線と回収の見事さ、現代の裏社会を描いた独特の世界観、そして仙台大好き! なところです(筆者調べ)!
 そのおれがまさかハリウッドのスタジオとキャストによ映画化されようとは!



 で、その実写映画化を任された監督はデヴィット・リーチ。
 元スタントマンで、スタントマン仲間のチャド・タエルスキと共に、本コーナーでも紹介したキアヌ・リーヴス主演の復讐アクション映画『ジョン・ウィック』で監督デビュー。
 その後に『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』、さらにここでも紹介した『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』等を撮ってきた今最も活躍しているアクション映画監督の一人です。
 元スタントマンゆえの激しい肉弾アクションを撮る一方で、CG技術をふんだんに用いた大破壊アクションも撮れるところが同監督の特色、さらにけっこうなコメディセンスと撮影と編集に合わせて臨機応変に対応するシナリオセンスまでお持ちでして、本作では新幹線の車内が主な舞台でありながら、それを感じさせないバラエティ豊かなアクションとドラマを多々見せてくれます。

 そして本作を作っている映画製作スタジオ自体が、デヴィット・リーチとチャド・スタエルスキが創設したスタントマン・マネジメント事務所〈87〉が、数々の業績を経てとうとう映画作る会社そのものになっちゃった〈87ノース・プロダクション〉なわけです。 つまり本作はアクションの専門家達によって作られたアクション映画なのです。
 ただアクションと言っても色々あるわけなのですが、本作が良いのは、銃撃戦アクション、徒手格闘アクション、カーアクション、刀を用いた殺陣アクション、CG技術を駆使した列車内アクションなど主だったアクション映像が本作一本で網羅されているところが素晴らしいのです。



 そして出演者は、主人公とも言る運び屋のテントウムシ役にご存知ブラッド・ピット!
 本コーナーでは『トロイ』『ワールドウォーZ』等で主演し、他に『セブン』やら『ファイトクラブ』やら『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』やら、数多くの映画で主演し大ヒットをかっ飛ばしてきたTheハリウッドスターが一人です。
 本作では、ちょっと心を病んでいる‥‥‥と思い込んでる、年齢の割に大人げない運の悪い運び屋を飄々と演じてります。


 そしてそのブラピの豪華な共演者達は!
 双子の殺し屋のミカン役にアーロン・テイラー=ジョンソン。
 ビジランテヒーロー映画『キックアス』の主演でブレイクした子役出身俳優で、子役時代は本コーナーでも紹介したジャッキーチェン主演映画『シャンハイ・ナイト』等に出演。
 他に本コーナーでも紹介した『テネット』や『アベンジャーズ:エイジオブウルトロン』や『GODZILLA』などに出演した演技力と共にアクションもこなすフィジカルも有した売れっ子イケメン俳優です。
 本作では、クールにスタイリッシュに殺し屋業を行う一方で、想定外の事態にめっちゃ焦り、ガラ悪くなる男を見事に演じております。

 その相方のレモン役にブライアン・タイリー・ヘンリー。
 近年活躍目覚ましい黒人俳優でリメイク版『チャイルドプレイ』『エターナルズ』『ゴジラVコング』『ゴジラXコング:新たなる帝国』などなど話題作に出続けています。
 その演技の特徴は‥‥おそらく多くがアドリブなんでしょうが、ともかく良くしゃべること。
 いわゆるオモシロ黒人枠と言えるのでしょうが、ただしゃべるだけでなく緩急の切れ味が鋭くて、聞いてて小気味良い芝居をする俳優の方です。
 本作でもどこから脚本でどこからアドリブか分からないトークとコミカルな演技で、物語をグイグイ前進させ、最後においしいところを持って行きやがります。

 さらに、謎の美少女プリンス役に子役出身のジョーイ・キング。
 キムラ役に『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』等のアクション映画に多々出演してきた日英ハーフ俳優のアンドリュー・小路。
 レモンとミカンが救出したと思ったら即毒殺されてしまうヤクザの息子役に、『パーシージャクソン』の主演でブレイクし、ブラピ主演の戦車戦争映画『フューリー』等に出演したローガン・ラーマン。
 さらにさらにマイケル・シャノンにザジー・ビーツに福原かれんの他、〇〇ニング・テイタ〇やライ〇ン・レイノ〇ズやサンド〇・ブロッ〇など、知ってる人には嬉しい豪華カメオ出演者が数々。

 ‥‥‥そしてなんといっても真田広之です。
 本作ではあるキャラとして、映画後半になってから新幹線に乗車するわけですが、乗車以後のブラピに負けぬ活躍が凄いのです。
 今一度、真田広之について語るならば、子役から俳優キャリアを開始し、1970年代から数え切れぬ程の映画ドラマ舞台で活躍し続けてきた日本を代表する俳優です。
 2000年代から海外に活動場所を広げ、トム・クルーズ、渡辺謙と共演した歴史アクション映画『ラスト・サムライ』で海外でも評価を受け、以後『ライフ』『アベンジャーズ:エンドゲーム』『ウルヴァリン・サムライ』『ラッシュアワー3』『モータル・コンバット』などなどハリウッド映画に出演し続けているお方です。
 2024年現在、自らが主演・プロデュースを行った戦国時代末期を描いた海資本制作ドラマ『SHOGUN 将軍』が特大ヒット&評価され、今最もハリウッドの話題の中心近くにいる人かもしれません。
 その俳優としての特色は、端正な顔立ちと気品ある演技、そして殺陣です。
 本作ではそんな真田広之の魅力の全てが一気に開放されています。








 ‥‥‥ってなわけで本作、この強力無比な原作&スタッフ・キャスト陣を上げただけで、ある程度以上の面白さは保証されたといっても過言では無いでしょう。
 本作の面白さの理由はもう語ったようなもんです!
 揃ったメンツの段階でシナリオも演技もアクションも一級品に決まってるのですから。

 そして実際、筆者は本作を公開前から超楽しみにし、公開開始と同時に見に行き、えらく満足したものです。
 エンタメ映画はこうでなくちゃ! と。

 さらに言えば、本作はただ面白かっただけではありません。
 2022年公開ということは、制作・撮影期間はまさにコロナ禍の真っただ中であり、本作のスタッフ・キャスト陣は、コロナと戦いながらこの映画を作ったことになります。
 それは想像を超えて面倒で大変であったであろうことは間違いありません。
 コロナのお蔭で本作の送り手の人達は数々のしなくて良い苦労をしたと思われます。
 本作にはその艱難辛苦を乗り越えた事が、映像に現れている気がして、作った人達に感謝するしかなかったのです。

 そのコロナ禍中での制作のせいか、本作では日本の新幹線が舞台の映画を撮る為に、数々のアイディアが駆使されているそうです。
 例えばスタジオ内に立てたLEDウォールに、用意しておいた日本の風景を映し、それをスタジオ内に作った新幹線の車両のセットの窓の向こうで横方向に再生することで、アメリカのスタジオにいながら、日本を走る新幹線車内の映像を作ることを可能にしたそうです。
 というわけで、本作のキャスト陣はもちろん、スタッフの多くが舞台となる日本訪れることがないまま、本作は完成したのだそうです。
 そのせいだけでは無いのでしょうが、本作における日本の描写はなかなかにトンデモジャパンですが‥‥‥。


 秋葉原の電気街の高架を走る新幹線(すでに変‥‥‥)のショットなどを除き、本作に映る日本の風景は、日本のようでどこじゃそこは? と言いたくなるような架空の風景なのはもちろんですが‥‥‥。
 夕方発車して東京から京都に着くのが早朝になる新幹線。
 なぜか緊急ドア爆破装置がある新幹線。
 最後尾車両のドアと窓が吹っ飛んでも運行を辞めない新幹線などなど‥‥‥。

 挙げだしらキリがないトンデモジャパンの連続ですが、ここまでくれば逆に次が楽しみになってくるから不思議です。
 またそこまでトンデモジャパンでありながら、〈モモもん〉という9割可愛いんだけど残り1割で可愛く成り切れていない謎ゆるキャラの存在や、それによるキャラ電車という文化に、やたらフォーカスされるスマート・トイレなどなど、妙に日本への解像度が高い描写もあって油断なりません。
 なかでも筆者が一番好きなシーンは、すったもんだの揚げ句に京都駅に到着した新幹線が、ある日本人歌手の名曲と共に再発車し、怒涛のラストバトルがはじまるシーンです。
 筆者はその選曲の完璧さにテンションが一気に爆上げとなり、思わず体調に変化を覚えたほど‥‥‥。
 なんでその曲をそこで選んでしまえるの!? そんなのもう最高じゃないっ?! としか言いようがありません。
 そこいらへんの日本の振れ幅有る理解もまた、本作の見どころの一つとなっているのです。




 また、あえて本作の面白さの要因の一つを絞って語るならば、本作が面白くなったのは、監督のデヴィット・リーチの高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変な映画作りが成功したからな気がします。

(※以後の文章には、本作中盤以降のネタバレが含まれております)

 本作のクライマックスの手前では、原作では死亡していたあるキャラが生存し、ラストバトルに参戦し大活躍します。
 というかそれはブライアン・タイリー・ヘンリー演じるレモンなのですが、本作のBDに収録されたオーディオコメンタリーによれば、映画中盤で起きるレモンの(偽りの)死亡シーン撮影段階では、まだレモンを生かすか死なすか監督は決めかねていたのだそうです。
 そしてそれに続くアーロン・テイラー=ジョンソン演じるミカンが、死んだレモンを見つけ涙するシーンでは、アーロン・テイラー=ジョンソンはマジでレモンは死んだと思って撮影していたそうです。
 ‥‥‥そして、監督はそこまで撮影してからレモンの復活を決め、続きを撮影したのだそうです。
 常識的に考えれば、そんな急な方向転換は物語のどこかに不和が生じ、完成作品を見た時にその違和感に気づきそうなもんです。
 が、本作では原作の要素や監督がとりあえずバラまいておいた数々の布石、役者陣のアドリブの数々を何パターンも撮影し、その中から伏線として使えそうなものを活用することで、違和感なくレモンを復活させ、原作既読組みふくむ観客に嬉しいサプライズを送ったのです。
 いやはや‥‥‥スタントマン出身監督がなんでそんな巧みなストーリーテーリングできるのぉ!? ‥‥‥ってなもんです。

 ちなみに本作でスマートトイレが大活躍するのも、ブラピがアドリブで言ったセリフから、大慌てで美術部にスマートトイレの個室セットを用意させて撮ったシーンなのだそうです。
 そのアイディアから実現までの即応性よ!!
 これがハリウッド映画か!






 さてここでいつものトリビア。

 本作に搭乗するゆるキャラの〈モモもん〉は、モモンガのゆるキャラ。

 作中で初登場時のブラピやミカンとレモンが、やたらと重ね着しているのは、物語で彼らが遭遇するイベントの度に脱がして、見た目で時間経過を表現する為の意図的なテクニックなんですって。

 ブラピは本作のプロモーションで来日した際に、ようやく初めて日本の新幹線に乗り、その静音性と振動の無さに、居眠りしてたら発車に気づかなかったそう。
 逆にこの映画撮る前に日本の新幹線に乗らなくて良かったのかもしれませんね!!


 ‥‥‥てなわけで『ブレット・トレイン』もし未見でしたらオススメですぜ!!