映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。











▼『映画を語れてと言われても』


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第一六三回『殺し屋で一杯‥‥‥“ブレット・トレイン”』





 タグ:日本 伊坂幸太郎 ブラッド・ピット 新幹線 東京 京都 アクション コメディ 殺し屋 ヤクザ きかんしゃトーマス 復習 運命 幸運 不運 群像劇 コロナ禍

『ブレット・トレイン』
2022年公開
監督:デヴィッド・リーチ
原作:伊坂幸太郎:著『マリアビートル』
製作会社:コロンビア ピクチャーズ 87ノース・プロダクションズ
出演:ブラッド・ピット アーロン・テイラー=ジョンソン ブライアン・タイリー・ヘンリー 真田広之 ジョーイ・キング アンドリュー・小路 マイケル・シャノン ローガン・ラーマン他




 あらすじ
 日本・東京‥‥‥。
 裏社会で生きる中年男性のキムラ(演:アンドリュー・小路)は、自分が目を離した隙に、何者かによって幼い息子をビルから突き落とされ重症を負わされる。
 父に静かに責められ、自らも息子から目を離したことをひたすら後悔するキムラ。
 そんな彼の元に、その息子をビルから突き落とした犯人が、人気アニメのゆるキャラ〈モモもん〉のキャラ電車仕様となった東京発・京都行のとある新幹線に乗車するという謎のタレコミがあり、キムラはすぐさまその新幹線へと乗り込む。
 そしてタレコミのあった座席にいる復讐対象に銃を突きつけるキムラ。
 だがそこに座っていたのは、十代半ばと思しき白人美少女であった。


 一方その同じ新幹線内では、凄腕の殺し屋の〈双子〉ことミカン(演:アーロン・テイラー・ジョンソン)と『きかんしゃトーマス』をこよなく愛するレモン(演:ブライアン・タイリー・ヘンリー)が、日本を牛耳るヤクザの首領ホワイト・デスの依頼で、中国マフィアによって誘拐されていたホワイト・デスの息子(演:ローガン・ラーマン)と身代金の入ったスーツケースを、大殺戮の上で中国マフィアの根城から回収し、依頼主に指定された京都へと送り届けようとしていた。
 しかし、ほんのわずか目を離した隙に、スーツケースが何者かに奪われた上に、同行していたホワイト・デスの息子が毒殺されてしまう。
 この大失敗をリカバリーすべく、ミカンとレモンは、レモンの『きかんしゃトーマス』理論を用いた推理法を駆使しつつ、車内から息子殺しの犯人を探し出し、スーツケースを取り返そうと動くのであった。


 その少し前、数年前に最愛の女性との結婚式で、妻となる女性と式の列席者全員を毒殺され、復讐に燃えている元メキシコカルテルの殺し屋のオオカミは、その仇がとある東京発・京都行の新幹線に乗車しているとの情報から、品川駅よりその新幹線に乗り込まんとする。


 その同じころ、裏社会で運び屋業をしているテントウムシ(演:ブラッド・ピット)は、病欠した他の人間の代打で、とある東京発・京都行の新幹線に乗り込み、車内からとあるブリーフケースを盗み出す仕事を引き受け、難なく成功する。
 しかし、テントウムシが次の停車駅である品川から下車しようとした瞬間、突然メキシコ人の大男に襲い掛かられるのであった。


 その一方‥‥。
 とある東京の片隅の自動販売機で、異国人の殺し屋に購入されたボトルウォーターは、そのままその殺し屋と共に東京発・京都行の新幹線に持ち込まれ、数奇な運命の果てに、そこに集った殺し屋たちの未来に重大な影響を与えるのであった‥‥‥。


 はたして同じ東京発・京都行の新幹線に集った殺し屋(と運び屋)達の運命やいかに!!??







 さて今回は! 日本を舞台に日本の小説を原作とし、今売れっ子監督のデイビッド・リーチ監督の元、あのブラッド・ピットが主演で2022年にお送りされた痛快殺し屋アクションコメディの傑作について語りたいと思います!


 原作は伊坂幸太郎作の小説『マリアビートル』。
 伊坂幸太郎といえば、日本でも『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』『グラスホッパー』などなど、何本も実写映画化がなされた原作小説を書くベストセラー作家です。
 その物語の特徴は、伏線と回収の見事さ、現代の裏社会を描いた独特の世界観、そして仙台大好き! なところです(筆者調べ)!
 そのおれがまさかハリウッドのスタジオとキャストによ映画化されようとは!



 で、その実写映画化を任された監督はデヴィット・リーチ。
 元スタントマンで、スタントマン仲間のチャド・タエルスキと共に、本コーナーでも紹介したキアヌ・リーヴス主演の復讐アクション映画『ジョン・ウィック』で監督デビュー。
 その後に『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』、さらにここでも紹介した『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』等を撮ってきた今最も活躍しているアクション映画監督の一人です。
 元スタントマンゆえの激しい肉弾アクションを撮る一方で、CG技術をふんだんに用いた大破壊アクションも撮れるところが同監督の特色、さらにけっこうなコメディセンスと撮影と編集に合わせて臨機応変に対応するシナリオセンスまでお持ちでして、本作では新幹線の車内が主な舞台でありながら、それを感じさせないバラエティ豊かなアクションとドラマを多々見せてくれます。

 そして本作を作っている映画製作スタジオ自体が、デヴィット・リーチとチャド・スタエルスキが創設したスタントマン・マネジメント事務所〈87〉が、数々の業績を経てとうとう映画作る会社そのものになっちゃった〈87ノース・プロダクション〉なわけです。 つまり本作はアクションの専門家達によって作られたアクション映画なのです。
 ただアクションと言っても色々あるわけなのですが、本作が良いのは、銃撃戦アクション、徒手格闘アクション、カーアクション、刀を用いた殺陣アクション、CG技術を駆使した列車内アクションなど主だったアクション映像が本作一本で網羅されているところが素晴らしいのです。



 そして出演者は、主人公とも言る運び屋のテントウムシ役にご存知ブラッド・ピット!
 本コーナーでは『トロイ』『ワールドウォーZ』等で主演し、他に『セブン』やら『ファイトクラブ』やら『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』やら、数多くの映画で主演し大ヒットをかっ飛ばしてきたTheハリウッドスターが一人です。
 本作では、ちょっと心を病んでいる‥‥‥と思い込んでる、年齢の割に大人げない運の悪い運び屋を飄々と演じてります。


 そしてそのブラピの豪華な共演者達は!
 双子の殺し屋のミカン役にアーロン・テイラー=ジョンソン。
 ビジランテヒーロー映画『キックアス』の主演でブレイクした子役出身俳優で、子役時代は本コーナーでも紹介したジャッキーチェン主演映画『シャンハイ・ナイト』等に出演。
 他に本コーナーでも紹介した『テネット』や『アベンジャーズ:エイジオブウルトロン』や『GODZILLA』などに出演した演技力と共にアクションもこなすフィジカルも有した売れっ子イケメン俳優です。
 本作では、クールにスタイリッシュに殺し屋業を行う一方で、想定外の事態にめっちゃ焦り、ガラ悪くなる男を見事に演じております。

 その相方のレモン役にブライアン・タイリー・ヘンリー。
 近年活躍目覚ましい黒人俳優でリメイク版『チャイルドプレイ』『エターナルズ』『ゴジラVコング』『ゴジラXコング:新たなる帝国』などなど話題作に出続けています。
 その演技の特徴は‥‥おそらく多くがアドリブなんでしょうが、ともかく良くしゃべること。
 いわゆるオモシロ黒人枠と言えるのでしょうが、ただしゃべるだけでなく緩急の切れ味が鋭くて、聞いてて小気味良い芝居をする俳優の方です。
 本作でもどこから脚本でどこからアドリブか分からないトークとコミカルな演技で、物語をグイグイ前進させ、最後においしいところを持って行きやがります。

 さらに、謎の美少女プリンス役に子役出身のジョーイ・キング。
 キムラ役に『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』等のアクション映画に多々出演してきた日英ハーフ俳優のアンドリュー・小路。
 レモンとミカンが救出したと思ったら即毒殺されてしまうヤクザの息子役に、『パーシージャクソン』の主演でブレイクし、ブラピ主演の戦車戦争映画『フューリー』等に出演したローガン・ラーマン。
 さらにさらにマイケル・シャノンにザジー・ビーツに福原かれんの他、〇〇ニング・テイタ〇やライ〇ン・レイノ〇ズやサンド〇・ブロッ〇など、知ってる人には嬉しい豪華カメオ出演者が数々。

 ‥‥‥そしてなんといっても真田広之です。
 本作ではあるキャラとして、映画後半になってから新幹線に乗車するわけですが、乗車以後のブラピに負けぬ活躍が凄いのです。
 今一度、真田広之について語るならば、子役から俳優キャリアを開始し、1970年代から数え切れぬ程の映画ドラマ舞台で活躍し続けてきた日本を代表する俳優です。
 2000年代から海外に活動場所を広げ、トム・クルーズ、渡辺謙と共演した歴史アクション映画『ラスト・サムライ』で海外でも評価を受け、以後『ライフ』『アベンジャーズ:エンドゲーム』『ウルヴァリン・サムライ』『ラッシュアワー3』『モータル・コンバット』などなどハリウッド映画に出演し続けているお方です。
 2024年現在、自らが主演・プロデュースを行った戦国時代末期を描いた海資本制作ドラマ『SHOGUN 将軍』が特大ヒット&評価され、今最もハリウッドの話題の中心近くにいる人かもしれません。
 その俳優としての特色は、端正な顔立ちと気品ある演技、そして殺陣です。
 本作ではそんな真田広之の魅力の全てが一気に開放されています。








 ‥‥‥ってなわけで本作、この強力無比な原作&スタッフ・キャスト陣を上げただけで、ある程度以上の面白さは保証されたといっても過言では無いでしょう。
 本作の面白さの理由はもう語ったようなもんです!
 揃ったメンツの段階でシナリオも演技もアクションも一級品に決まってるのですから。

 そして実際、筆者は本作を公開前から超楽しみにし、公開開始と同時に見に行き、えらく満足したものです。
 エンタメ映画はこうでなくちゃ! と。

 さらに言えば、本作はただ面白かっただけではありません。
 2022年公開ということは、制作・撮影期間はまさにコロナ禍の真っただ中であり、本作のスタッフ・キャスト陣は、コロナと戦いながらこの映画を作ったことになります。
 それは想像を超えて面倒で大変であったであろうことは間違いありません。
 コロナのお蔭で本作の送り手の人達は数々のしなくて良い苦労をしたと思われます。
 本作にはその艱難辛苦を乗り越えた事が、映像に現れている気がして、作った人達に感謝するしかなかったのです。

 そのコロナ禍中での制作のせいか、本作では日本の新幹線が舞台の映画を撮る為に、数々のアイディアが駆使されているそうです。
 例えばスタジオ内に立てたLEDウォールに、用意しておいた日本の風景を映し、それをスタジオ内に作った新幹線の車両のセットの窓の向こうで横方向に再生することで、アメリカのスタジオにいながら、日本を走る新幹線車内の映像を作ることを可能にしたそうです。
 というわけで、本作のキャスト陣はもちろん、スタッフの多くが舞台となる日本訪れることがないまま、本作は完成したのだそうです。
 そのせいだけでは無いのでしょうが、本作における日本の描写はなかなかにトンデモジャパンですが‥‥‥。


 秋葉原の電気街の高架を走る新幹線(すでに変‥‥‥)のショットなどを除き、本作に映る日本の風景は、日本のようでどこじゃそこは? と言いたくなるような架空の風景なのはもちろんですが‥‥‥。
 夕方発車して東京から京都に着くのが早朝になる新幹線。
 なぜか緊急ドア爆破装置がある新幹線。
 最後尾車両のドアと窓が吹っ飛んでも運行を辞めない新幹線などなど‥‥‥。

 挙げだしらキリがないトンデモジャパンの連続ですが、ここまでくれば逆に次が楽しみになってくるから不思議です。
 またそこまでトンデモジャパンでありながら、〈モモもん〉という9割可愛いんだけど残り1割で可愛く成り切れていない謎ゆるキャラの存在や、それによるキャラ電車という文化に、やたらフォーカスされるスマート・トイレなどなど、妙に日本への解像度が高い描写もあって油断なりません。
 なかでも筆者が一番好きなシーンは、すったもんだの揚げ句に京都駅に到着した新幹線が、ある日本人歌手の名曲と共に再発車し、怒涛のラストバトルがはじまるシーンです。
 筆者はその選曲の完璧さにテンションが一気に爆上げとなり、思わず体調に変化を覚えたほど‥‥‥。
 なんでその曲をそこで選んでしまえるの!? そんなのもう最高じゃないっ?! としか言いようがありません。
 そこいらへんの日本の振れ幅有る理解もまた、本作の見どころの一つとなっているのです。




 また、あえて本作の面白さの要因の一つを絞って語るならば、本作が面白くなったのは、監督のデヴィット・リーチの高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変な映画作りが成功したからな気がします。

(※以後の文章には、本作中盤以降のネタバレが含まれております)

 本作のクライマックスの手前では、原作では死亡していたあるキャラが生存し、ラストバトルに参戦し大活躍します。
 というかそれはブライアン・タイリー・ヘンリー演じるレモンなのですが、本作のBDに収録されたオーディオコメンタリーによれば、映画中盤で起きるレモンの(偽りの)死亡シーン撮影段階では、まだレモンを生かすか死なすか監督は決めかねていたのだそうです。
 そしてそれに続くアーロン・テイラー=ジョンソン演じるミカンが、死んだレモンを見つけ涙するシーンでは、アーロン・テイラー=ジョンソンはマジでレモンは死んだと思って撮影していたそうです。
 ‥‥‥そして、監督はそこまで撮影してからレモンの復活を決め、続きを撮影したのだそうです。
 常識的に考えれば、そんな急な方向転換は物語のどこかに不和が生じ、完成作品を見た時にその違和感に気づきそうなもんです。
 が、本作では原作の要素や監督がとりあえずバラまいておいた数々の布石、役者陣のアドリブの数々を何パターンも撮影し、その中から伏線として使えそうなものを活用することで、違和感なくレモンを復活させ、原作既読組みふくむ観客に嬉しいサプライズを送ったのです。
 いやはや‥‥‥スタントマン出身監督がなんでそんな巧みなストーリーテーリングできるのぉ!? ‥‥‥ってなもんです。

 ちなみに本作でスマートトイレが大活躍するのも、ブラピがアドリブで言ったセリフから、大慌てで美術部にスマートトイレの個室セットを用意させて撮ったシーンなのだそうです。
 そのアイディアから実現までの即応性よ!!
 これがハリウッド映画か!






 さてここでいつものトリビア。

 本作に搭乗するゆるキャラの〈モモもん〉は、モモンガのゆるキャラ。

 作中で初登場時のブラピやミカンとレモンが、やたらと重ね着しているのは、物語で彼らが遭遇するイベントの度に脱がして、見た目で時間経過を表現する為の意図的なテクニックなんですって。

 ブラピは本作のプロモーションで来日した際に、ようやく初めて日本の新幹線に乗り、その静音性と振動の無さに、居眠りしてたら発車に気づかなかったそう。
 逆にこの映画撮る前に日本の新幹線に乗らなくて良かったのかもしれませんね!!


 ‥‥‥てなわけで『ブレット・トレイン』もし未見でしたらオススメですぜ!!