映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。







▼『映画を語れてと言われても』



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第一七五回『終わりよければそれでええねん! ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』





『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

2011年公開
監督:ブラッド・バード
プロデューサー:J・J・エイブラムス トム・クルーズ他
脚本:ジョシュ・アッペルバウム&アンドレ・ネメック
音楽:マイケル・ジアッキーノ ラロ・シフリン
出演:トム・クルーズ ポーラ・パットン サイモン・ペッグ ジェレミー・レナー ミカエル・ニクヴィスト レア・セドゥ他



 あらすじ

 ハンガリーの首都ブタペストで、IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のエージェントが殉職した。
 “コバルト”と呼ばれるテロリストに渡される機密ファイルを奪取すべく、他のエージェントと共に作戦を遂行中、機密ファイルを横取りしに現れた女殺し屋サビーヌ・モロー(演:レア・セドゥ)に射殺されたのだ。

 事態収拾のため、生き残ったエージェントのシェーン(演:ポーラ・パットン)とベンジー(演:サイモン・ペッグ)によって、さる事情でモスクワの刑務所に服役中だったイーサン・ハント(演:トム・クルーズ)は脱獄させられ、コバルトの陰謀阻止作戦に参加させられる。
 
 さっそくIMFからの指示により、モスクワのクレムリンへ潜入し、コバルトに関する情報を盗まんとするイーサン達。
 だが同時に潜入していたコバルトにより先んじてファイルを盗まれた上に、クレムリンで大規模爆破テロを引き起こされ、イーサン達はその実行犯と疑われてしまう。

 辛くもテロ現場からの脱出に成功し、ロシア当局からの追っ手を振り切ったイーサンは、IMF長官(演:トム・ウィルキンソン)とその分析官ブラント(演:ジェレミー・レナー)と合流する。
 クレムリンの爆破テロがアメリカのスパイであるという疑惑が生まれたことから、IMF長官はIMFエージェントと政府との関係を一切絶ち、関与を否定するという指令〈ゴースト・プロトコル〉を発令する。
 それは暗に政府の支援無しで独自に行動し、事態を解決せよ……という命令でもあった。
 その指令を命じた直後、イーサン達を何者かが強襲、長官は即死し、なんとか生き延びたイーサンと分析官ブラントは、すでに脱出していたベンジーとシェーンと合流、長官から渡された情報を統合した結果、コバルトがカート・ヘンドリクス(演:ミカエル・ニクヴィスト)という終末論者であり、彼がクレムリンから盗み出した核ミサイル発射制御装置を用いてロシアの核ミサイルを発射し、それを切っ掛けとして米ロで核戦争を引き起こすことが目的であると睨む。

 しかし核ミサイルの発射には、制御装置に発射指示を与えるための発射コードが必要であった。
 その機密コードこそが、ブタペストで争奪戦となった機密ファイルだったのだ。
 そのヘンドリクスが、ブタペストでの一件によって女殺し屋サビーヌの手に渡った機密ファイル(核ミサイル発射コード)を、高額なダイヤモンドと交換する取引をドバイで行うという情報を掴んだイーサン達は、一路ドバイに飛び、取引が行われるブルジュ・ハリーファ・ビルで待ち伏せ、機密ファイルを奪取し、ヘンドリクスを捕まえようという作戦を立てる。
 しかし、その作戦開始直前、作戦実行に必須なブルジュ・ハリーファ・ビルの警備システムへの侵入が困難なことが判明する。
 警備システムに侵入し、監視カメラ等を操るためには、ビルの最上層階にある警備システムのコンピュータサーバールームで直接操作するしかなかった。
 しかし、ビル内部から発見されずに警備システムのあるサーバールームに侵入することは不可能であった……ビルの内部からは…………。
 

 はたしてイーサン達は無事ヘンドリクスの企みを阻止し、核戦争の危機から世界を守ることができるのであろうか!!??






さて今回はトム・クルーズ映画回!
 それもトム・クルーズが無茶スタントに挑戦するアクション映画にして、大ヒットスパイ映画シリーズの第四作について語りたいと思います。


 ってなわけで主演、のみならずプロデューサーは世界のトム・クルーズ。
 本コーナーで言えば『アウトロー』や『宇宙戦争』、本シリーズの第一作『ミッションインポッシブル』などで活躍したイケメン・ハリウッドスターの中のハリウッドスターです。
 本作では当たり役である破天荒凄腕スパイのイーサン・ハント役に四度目の挑戦を行います。


 監督はブラッド・バード。
 本コーナーで言うと、宇宙ロボと少年の出会いと友情を描いた名作『アイアン・ジャイアント』を撮った他、ピクサーのフルCGアニメ『Mr.インクレディブル』『レミーのおいしいレストラン』『インクレディブル・ファミリー』を撮ったお人。
 他の作品を見る限りCGアニメ畑の監督であり、本作が実写初挑戦なのですが、そういう監督をいきなり抜擢するプロデューサーは凄いなぁ! ……いった誰なんだろう!?



 音楽は、本コーナーで言えば『スタートレック(2009)』など、数多くの映画音楽で活躍するマイケル・ジアッキーノが、元はTVドラマだった『ミッションインポッシブル』のテーマをアレンジしつつ、シチュエーションに合わせてあらゆるメロデイを奏で、見る人をハラハラドキドキさせます。

 

 トム・クルーズ以外の出演者は!
 前作『ミッションインポッシブルⅢ』で初登場し、以後イーサンの良き相棒にしてシリーズの癒し枠となるベンジー役にサイモン・ペッグ。
 本コーナーで言えばエドガー・ライト監督作のゾンビコメディ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』で主演し、さらに『スタートレック(2009)』以後のシリーズ三作で、エンタープライズ号の機関長スコッティを演じたイギリスを代表するコメディ俳優にしてオタク俳優です。

 さらに成り行きからイーサンのチームに加わる分析官のブラント役にジェレミー・レナー。
 『ハート・ロッカー』でブレイクし、『ボーン・レガシー』や『ウインド・リバー』などで主演する当時売れっ子真っ盛りだったお方。
 世間的にはMCU映画での弓だけで宇宙人やらロボットと戦うただの人間、ホークアイを演じたことで有名かもしれません。
 今回は割と巻き込まれて酷い目に合う役を軽妙に演じております。

 さらにイーサンのチームの紅一点のシェーンを演じるのはポーラ・パットン。
 本作公開時に売れていた女優さんで、デンゼル・ワシントン主演のアクション映画『デジャヴ』や『2ガンズ』に出演しております。

 さらに事態を掻きまわす女殺し屋サビーヌ役にレア・セドゥ。
 フランス出身の元モデルでどえらい美人さんです。
 その美貌で数々の映画に出演し、ラッセル・クロウ主演の『ロビンフッド』、仏製実写映画『美女と野獣』などに出演し、しまいには『007:スペクター』『007:ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではついにボンドガールとなる人です。
 

 さらに本作での悪役ヘンドリクスを演じるのは、スェーデンよりきたる名優(故)ミカエル・ニクヴィスト。
 本コーナーで言えば『ジョン・ウィック』で、ジョン・ウィックの飼い犬を殺すような息子を持っちゃった可哀そうなマフィアのボスを演じた人です。
 本作ではいい歳なのにトム・クルーズと張り合うかのような八面六臂の活躍とアクションもこなしてくれます。





 そんなスタッフ・キャストでお送りされた本作ですが、メンツを見てみるとなんか華やかです。
 仮にトム・クルーズが主演せずとも、主役級キャストが複数あり、そこそこ面白い映画が作れそう!



 その本作は、2006年に公開された前作『ミッションインポッシブルⅢ』から、およそ5年後に公開されたシリーズ4作目にあたります。
 筆者が公開時に見に行ったのは、もちろん予告編を見て面白そうだったから……という理由もありましたが、大分惰性もあったかもしれません。
 シリーズも4作目ともなればマンネリもはじまりますし、当時のトム・クルーズは少々低迷期であったような気もします。
 1980年代から活躍してきたトム・クルーズですが、それだけずっと活躍し続けていれば、どこかで飽きられるのは致し方ないことなのかもしれません。
 筆者の主観ですけどね!
 本作はそんな中、さすがにもう作られないだろうと勝手に思っていた『ミッションインポッシブル』シリーズの四作めとして公開となったわけです。
 そしてその結果大ヒットし、8作まで作られる切っ掛けとなったのだと思います。
 これほどまで同一主人公で撮られ続ける映画シリーズは、筆者は他には思いつきません。
 『007』も『スタートレック』も『ワイルドスピード』シリーズも、本数は多くても主人公も演者も代わりますもんね。

 しかしながら本シリーズが主演トム・クルーズを維持したまま8作目まで作られる程の人シリーズとなったのは、このシリーズ四作目たる本作が大ヒットしたことが切っ掛けとなったからだと思うのです。



 ではなぜ本作はその切っ掛けになり得たのでしょうか?

 

 まず何と言ってもトム・クルーズの無茶スタントへの覚醒があるでしょう。
 
 すでに前作の段階で、上海の高層ビルの屋上から別の高層ビルの屋上にターザンジャンプで跳び移ったり、トムはなかなか無茶なスタントに挑戦してきていたのですが、本作以降はリミッターが切れたかのごとく、様々な無茶スタントに挑戦することとなるのです。

 病院ビルの4階から地上を走る救急車の上に跳び移ったり、円柱状の巨大立体駐上内で自動エレベーターに乗って上下しながら敵と追いかけっこしたり、赤の広場で起きるいくつもの爆発の中を駆け抜けたり……と、普通のアクション映画なら二~三本は賄えそうなアクショにトムは挑戦しています……。
 が、なんといっても本作のアクションの目玉は、ドバイの世界一高いビル〈ブルジュ・ハリーファ〉の外壁につかまって登り降りするトムのスタントでしょう。
 本来であれば、セットで作ったビルの外壁と、実際に撮影したビルの外観映像に、登る人間を合成したり、CGのトムを使ったりして映像化されるようなシーンです。
 しかし本作では、高さ825mのブルジュ・ハリーファの許可を得て、実際にトムが張り付いているのを撮影しています。
 もう! なに考えてるの!
 ……としか言えません。
 もちろん安全の為のハーネスなどはつけて撮影していますが、それらをVFX技術で編集段階で消すことができるご時世だからこそ、実現できたシーンな気がします。
 とはいえ、こんな危険なスタントを主演俳優が行うのを許可するなんて、いったいプロデューサーは何を考えているのでしょうか!!?
 誰だプロデューサーは!!?




 しかし本作が大ヒットした理由はそれだけでは無いと思います。
 

 本作が受けたさらなる理由の一つは、前作から登場したキャラ、ベンジーのチーム参加をはじめとする、愉快なキャラによるチームワークに妙があったからな気がします。
 これまでの過去三作においても、イーサン率いるチームワークで物事に挑戦する件はありはしたのですが、本作ではモスクワ、ドバイ、インドと舞台となる場所それぞれで、トム演じるイーサンだけでなく、チーム全員がそれぞれに任された職責で活躍するところが良いのです。
 特に、技術方面に有能だけど、お人よしお調子者でおしゃべり好きなベンジーのキャラは、スパイ同士が騙し合い、殺し合う本作の物語において貴重な癒しキャラとなり、本作以後のシリーズでも活躍することとなります。


 さらに受けた理由の一つは、数々のオモシロ・スパイガジェットの数々です。
 本シリーズでおなじみの変装マスクとその製造マシンももちろん登場しますが、本作では、高所からの落下時に一瞬で膨らむクッションや、カメラ着きコンタクトレンズ、見る人の視点に合わせて廊下の向こう側の景色を映すスクリーン、ビルの窓に引っ付いて登れる手袋、磁石の力で宙に受けるスーツなどなどが大活躍、あるいは事態をひっかきまわして面白いのです。
 これらは監督のブラッド・バードの持ち味であると同時に、スパイ映画の醍醐味と言えるでしょう。


 そして本作が受けた最大の理由は、いくつものスタントシーンと、チームメンバーの活躍とを、うまいこと一本の映画に纏めた脚本・編集・監督の手腕にある気がします。
 脚本を務めたジョシュ・アッペルバウム&アンドレ・ネメックは、日本アニメの実写ドラマ版『カウボーイビバップ』等の脚本を書いて来たコンビ。
 その二人が書いた脚本により、無理なく……いやなんとか納得できる範囲でトムが行う数々のスタントが繋ぎ合わされ、クライマックスへと向かうシナリオに、筆者はちょっと感心したのです。
 
 見れば分かることですが、トムがブルジュ・ハリファに登る理由が微妙にしょうも無く、かつ映画の中盤で消化されるイベントなのです。
 しかも、本作におけるイーサンのチームは、毎回後手に周り、敵方の後塵を拝す結果となってしまいます。
 しかし、それで良いのです!

 本作はいわばジャッキーチェンのカンフー映画のように、トム達の数々のアクションを楽しむ映画であり、それらのシーンを見る“口実”として脚本が上手くできていたらそれで良いのです!

 最後の最後は一致団結して逆転ホームランに挑みますしね!!





 さてここでいつものトリビア!

 ブルジュ・ハリファビルの撮影は、ブルジュ・ハリファビルそのものを使い、まだ工事中だったビルの上層フロアの窓26枚をぶち破って機材を設置して行われた。
 
 ジェレミー・レナー演じる分析官ブラントの登場は、人気が低下しつつあった『ミッションインポッシブル』シリーズの主役を、トム・クルーズから若いジェレミー・レナーに交代することを見越しての配役だった……という噂。 
 結果はご存知の通り。

 脚本のジョシュ・アッペルバウム&アンドレ・ネメックのコンビは、次回作として『カリブの海賊』や『ホーンテッドマンション』に続くディズニーランドのアトラクションの映画化『スペースマウンテン』の映画版脚本に取り組んでいるそうです。
 実現すると良いなぁ……。


 ……ってなわけで『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』もし未見でしたらオススメですぜ!