映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。

 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。












▼『映画を語れてと言われても』



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第一六二回『良い物語が生まれ、語り継ぐ相手がいる限りこの世の中は‥‥“海の上のピアニスト”』





 タグ:豪華客船 ピアニスト ジャズ アメリカ 船旅 音楽 人生 ドラマ 演奏 モリコーネ ジュゼッペ・トルナトーレ


『海の上のピアニスト』

1998年公開

監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ

原作:アレッサンドロ・バリッコ

音楽:エンニオ・モリコーネ

出演:ティム・ロス プルイット・テイラー・ヴィンス メラニー・ティエリー





 あらすじ

 第二次世界大戦が終わった1946年頃‥‥‥。


 ニューヨークの一画にある中古楽器店に、一人のボロボロの姿のトランペット奏者が訪れた。

 その中年男の名はマックス(演:プルイット・テイラー・ヴィンス)。

 時代の荒波にのまれ食う金に困り、とうとう長年苦楽を共にしてきた愛用のトランペットを売りに来たのだ。

 店主に付けられたトランペットの値段ははした金であったが、空腹には代えられず、トランペットを売る決心をするマックス。

 だが店を出る前に店主に頼みこみ、最後に愛用してきたトランペットを吹かせてもらうことにする。

 

 思いのたけを込め、最後のトランペットを奏でるマックス。


 そして最後の演奏を終え、マックスが店を去ろうとしたその時、彼の奏でた曲に聞き覚えがあると店主が声をかけた。

 それはあり得ないと答えるマックスに、店主は偶然入手したという一枚の継ぎ接ぎのレコードを掛けると、ピアノによって奏でられたそのメロディは、間違いなくマックスが奏でたその曲であり、店主はマックスにその曲の正体を尋ねる。


 観念したマックスは、ポツリポツリとその曲を奏でた男‥‥‥ダニー・ブードマン・TDレモン・ナインティハンドレットについての思い出を語り出すのであった。



 時に1900年‥‥‥ニューヨーク港に到着した一隻の豪華貨客船〈ヴァージニアン号〉の船内で、一人の機関員ダニー・ブードマンが放置された男子の赤ん坊を発見した。

 ダニーはその子を見つけた木箱に描かれてい文字と、見つけた年にかけて〈ダニー・ブードマン・TDレモン・ナインティハンドレット〉と名付け、〈ヴァージニアン号〉の船内で育てることにする。

 大西洋を横断し続ける〈ヴァージニアン号〉内ですくすく成長するナインティハンドレット。

 だが彼が8歳の時、義父のダニーが事故で帰らぬ人となってしまう。

 船内で発見された為に国籍も、行く当ても無いまま独りぼっちになってしまったナインティハンドレット。

 が、ふと船内にあったピアノに振れた結果、とても8歳とは思えない美しい音色を奏でて船員と乗客たちを魅了し、彼は天才ピアニストとして〈ヴァージニアン号〉内で生きることになる。




 そして1927年、船内バンドのトランペット奏者として〈ヴァージニアン号〉に乗船したマックスは、船酔いに苦しんでいたところを、青年となったナインティハンドレット(演:ティム・ロス)に助けてもらったことから友人となり、有名ジャズピアニストとの対決や、ナインティハンドレット初めてのレコーディングと恋など‥‥‥彼と様々な体験を共にする。。



 思い出話を中古楽器屋店主に話す中で、マックスは例のレコードが発見されたピアノが、港で爆破解体作業中の元豪華貨客船にして、大戦中は病院船として使われていた〈ヴァージニアン号〉から運び出されたことを知る‥‥‥。



 はたしてマックスの語るナインティハンドレットの物語と、現在のマックスに待ちうけていたものとは‥‥‥?








 さて今回は神音楽映画回です!

 タイトルにもある通り、とあるピアニストの物語であり、音楽の物語であり、見る人をその音楽で魅了した作品なのですから!

 ついでに『タイタニック』や『ポセイドン・アドベンチャー』のような豪華貨客船映画でもあります。

 あと主演こそアメリカ人俳優ですが、イタリアの会社とスタッフが作ったイタリア映画でもあります。



 監督および脚本は巨匠ジュゼッペ・トルナトーレ!

 多くの人が見たことが無くても名前くらいは聞いたことがあるであろう名作映画『ニュー・シネマ・パラダイス』や『マレーナ』を撮ったイタリア映画界の至宝監督です。



 原作はアレッサンドロ・バリッコという人の独白劇『ノヴァチェント』だそうです。

 〈ノヴァチェント〉とはイタリア後で1900年代の事だそうで、この映画を見た後に原作の存在を知ると『独白劇? どういうこと??』となりますが、なんと日本でも市村正親等により上演が行われたことがあるそうです。



 そして本作の根幹部分を成す音楽を担当したのはエンニオ・モリコーネ(クラウス・デゥルディンガー、ルドヴィグ・ゴランソンに並ぶ声に出して呼びたい映画音楽家)!

 前述した『ニュー・シネマ・パラダイス』や『マレーナ』等のジュゼッペ・トルナトーレ監督作の他、クリント・イーストウッド主演『荒野の用心棒』や、チャールズ・ブロンソン主演『ウエスタン』等のいわゆるマカロニウエスタン映画の劇伴で有名となったお方で、その他本コーナーで言えばクリント・イーストウッド主演『ザ・シークレットサービス』などなど、数え切れないほどの映画音楽を奏でてきたお方。

 その音楽としての特徴は、筆者の印象だけで言うならば、昔ながらのオーケストラと共に、コーラスを多用し、むちゃくちゃエモォ~~~~いメロディを奏でるところです。


(なお、もの凄く余談ですが、ここで度々語らせてもらっている筆者が監督した自主映画(※第一〇〇回『自主映画製作を止めるな!“座頭の死五六 -怒りの硝煙街道-”』参照 https://ameblo.jp/rekisin/entry-12797234046.html )の本編最初と最後にかかる曲と、ラストバトル直前に流れるBGMは、筆者が無理言って、エンニ・モリコーネが音楽を担当した『ウエスタン』の曲をオマージュしたBGMを作ってもらったのが流れております!)




 そして出演者は、青年期以後の主人公ナインティハンドレット役にティム・ロス。

 クエンティン・タランティーノ監督デビュー作『レザボア・ドッグス』でのミスターオレンジなど、タランティーノ映画によく出演する他、マーベルヒーロー映画の『インクレディブル・ハルク』のヴィラン・アボミネーションことエミル・ブロンスキー役で覚えている人も多いかもしれません。

 大スターという程華も無く、何方かというと名脇役なお方ですが、ともかくとんでもなく器用なことが本作で判明します。



 そして準主役とも言える本作の語り部にして、ナインティハンドレットの盟友マックス役にプルイット・テイラー・ヴィンス。

 脇役俳優として数多くの映画に出演してきた人で、他に有名な出演作はキアヌ・リーヴス主演の悪魔祓い映画『コンスタンティン』での、コンスタンティンの良き理解者であるアル中神父のヘネシー役。

 本作では大変素晴らしい芝居を見せてくれており、もっと活躍しても良いと思う俳優さんです。





 残念ながら本作で筆者の知っている俳優はこのお二方でして、本作がイタリア映画ということもあり、他にご紹介できる出演者はいませぬ。

 ですが本作は、是非ともここで紹介したくなる一本なのです。







 公開されたのは1998年。

 ちなみにジェームズ・キャメロン監督レオナルド・ディカプリオ主演の大ヒット映画『タイタニック』の公開の翌年です。

 当時の筆者は前述したようなスタッフ・キャストのことなど露知らず、ただ『豪華客船て‥‥‥良いよね』てな感覚で、『タイタニック』を見た時のような期待を胸に、暇に任せて見に行ったものです。

 そして観賞後すぐサントラCDを買い求めたものです。


 本作はそれほどまでに素晴らしい音楽映画だったのです。

 

 しかしてそれは、いかにして成されたのでしょうか?


 本コーナーでは毎度のことですが、それは例によってスタッフ・キャスト陣の尽力によるものだと思われます。

 監督・脚本が、原作の物語を映像化すべく、最高の脚本を用意し、当時最先端のVFX技術や、セットや衣装を駆使し、1900年代の豪華貨客船を映像化し、そこでティム・ロスとプルイット・テイラー・ヴィンスはもちろんのこと、豪華貨客船に乗ることとなった無数の客役のエキストラまでもが、本作品を描くために1900年代の人々になりきって演じているとこが良いのです。



 特に豪華客船内部の映像は素晴らしく、なかでも筆者が好きなシーンの一つは、ナインティハンドレットとマックスが、荒らしの夜の揺れまくる船内で初めて出会い、パーティー会場に使われる大広間で、ストッパーを外したグラドピアノで左右前後に傾く大広間内を自由気ままに移動しながらナインティハンドレットがピアノ演奏しまくるシーンです。

 1998年当時の映画技術でいかにしてこのシーンは作られたのか? 実際に大広間を傾かせたのか、役者陣が大広間が傾いた芝居をしているだけなのか‥‥‥筆者には分かりませぬ‥‥‥。

 




 その他、1900年のピカピカだった〈ヴァージニアン号〉が、1946年の廃船間近のボロボロとなった姿になっているところなど、美術面のクオリティが素晴らしいのです。



 そしてアレッサンドロ・バリッコの原作を映像化した物語に引き込まれます。

 本作で上手いのは、ただナインティハンドレットの人生を時系列準に描くのではなく、1946年の現在パートと、1900年代の過去パートを交互に描くことで、ナインティハンドレットという人物の謎に迫るミステリー要素を生み出し、映画を飽きずに見れるようにしていることです。

 そしてそのように描かれることで、ナインティハンドレットの数奇な人生の記憶が、聞いた者に一つの寓話のような印象を与え、心に残るのです。

 その分、残念ながら本作は、起承転結あるエンタメ作品というより、とても切ない物語となっているのですが‥‥‥。

 でもどうかこれから見る方は、本作冒頭でナインティハンドレットが語ったとされる言葉を思い出して欲しいのです。

 それは‥‥‥。


『良い物語が生まれ、語り継ぐ相手がいる限りこの世の中は‥‥』


 さらにそのナインティハンドレットとマックスを、ティム・ロスとプルイット・テイラー・ヴィンスが演じたことで、本作は一度見たら忘れ得ぬ作品となっているのです。



 そしてそれら映像・物語・演者の要素が、エンニオ・モリコーネの奏でる音楽を最大限に引き立たせるのです。


 ちなみに筆者が一番好きなのは映画のオープニング曲。

 大西洋を渡る長い長い船旅の末に、ニューヨーク港にたどり着いた旅人達の夢と希望が見事に音楽となって奏でられているのです。

 どうか本作未視聴のお方は、その目と耳でご確認下さい!




 

 さてここでいつものトリビア。


 プルイット・テイラー・ヴィンス演じるマックスは、長年の船旅の結果、常に眼球がふるふると揺れ動いており、初対面の者にすぐ元船乗りだと分かる‥‥‥というキャラを演じているのですが。

 実はマックスの震える眼球は、演技やCG技術で表現しているわけではなく、プルイット・テイラー・ヴィンスが眼球の病を患った結果、素でそうなっているのだそうです。


 

 また本作ピアノ演奏の曲は、全て別に録音したものを後から編集で映像に足したものですが、メイキング映像を見ると、ナインティハンドレットがピアノ演奏を行うシーンの撮影の映像では、映画本編時と同じ曲が聞こえてきます。

 ‥‥‥‥‥‥つまり、この映画の音楽は後から編集で足されたものではありますが‥‥‥撮影時はナインティハンドレット演じるティム・ロス自身が映画と同じ曲をピアノで奏でながら撮影したことに‥‥‥。

 ‥‥‥‥‥‥ティム・ロス‥‥‥凄い‥‥‥ちょっと怖いレベルで‥‥凄い‥。



 ‥‥‥ってなわけで『海の上のピアニスト』もし未視聴でしたらオススメですぜ!!