映画観賞……それは時に○○億円もの制作費をかけた作品を、だいたい2000円前後で楽しめるめっちゃコスパの良いエンタメ……。
 これは、当劇団きっての映画好きにして、殺陣と小道具美術担当の筆者が、コロナ禍からようやくかつての日常を取り戻しつつある現代社会いおいて、筆者の独断と偏見といい加減な知識と思い出を元に、徒然なるままに……徒然なるままにオススメの映画について書くコーナーである。








▼『映画を語れてと言われても』


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第一六〇回『冷たい宇宙では‥‥‥あなたの悲鳴は‥‥‥誰にも届かない‥‥‥“エイリアン”』




 タグ:エイリアン モンスター 宇宙生物 寄生 ホラー SF 冷凍睡眠 リドリースコット ギーガー 閉鎖空間
『エイリアン』
1979年公開
監督:リドリー・スコット
脚本:ダン・オバノン
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
出演:トム・スケリット シガニー・ウィーバー ジョン・ハート イアン・ホルム他




 あらすじ
 時に22世紀の未来‥‥‥冷凍睡眠と併用することで恒星間航行技術を獲得した人類は、外宇宙へと進出し、恒星間宇宙船が地球とはるか彼方との星を行きかう時代を迎えていた‥‥‥。

 そして西暦2122年‥‥‥。
 外惑星産出資源を満載し、地球への帰路の途中であった宇宙貨物船ノストロモ号の7名のクルーと一匹の飼い猫ジョーンズは、船のマザーコンピューターによって突然冷凍睡眠から目覚めさせられる。
 最初は地球に帰還したと勘違いしたクルーであったが、それは違った。
 近傍の惑星から救難信号と思しき謎の信号を受信したため、その調査の為にクルーはマザーコンピュータによって目覚めさせられたのであった。
 不承不承、ノストロモ号を貨物部分から分離させ、その惑星へと降下し、信号の発信元の調査を行うクルー達。 
 ダラス(演:トム・スケリット)船長以下三名のクルーが船外に出て上陸し信号発信元へと向かったところ、そこで待っていたのは明らかに地球以外の文明によって生み出された墜落した宇宙船であった。
 驚愕しつつも内部の調査を開始したダラス達は、船内で胸部を内側から破裂させて死亡した船の主らしき異星人のミイラを発見、さらにクルーの一人ケイン(演:ジョン・ハート)が、船底にあった無数の巨大な卵状の物体に空いた穴を覗いたところ、そこから飛び出した未知の生物に頭部に巻きつかれ、そのまま意識不明となってしまう。
 


 慌ててノストロモ号に帰還した三名は、検疫処置を主張するクルーの船内指揮序列ナンバー3のリプリー(演:シガニー・ウィーバー)によって船から締め出されかけるものの、船医のアッシュ(演:イアン・ホルム)によって無事収容され、すぐさまケインの頭部から未知の生物の除去手術が試みられる。
 しかしその生物を患者の頭部から引き剥がすには、その生物を切開する他なく、メスでその生物の表面を切ろうとしてみたところ、噴き出した体液が宇宙船の床を溶かし始め、危うく宇宙船の船殻に穴を開けかける。
 その生物の血液は強酸性だったのだ。
 対応に苦慮するダラス船長らであったが、いつのまにかケインの頭部に張り付いていた生物が何故か自然に剥がれ死亡する。
 ケインは昏睡したままであったが、これを機にダラス船長は惑星から飛び立つことを決断し、ノストロモ号は衛星軌道に停泊させていた貨物部分にドッキングし、再び地球への帰路につく。
 そしてクルー達が再び冷凍睡眠に入ろういうその時、何事も無かったかのように目を覚ましたケインに、クルー達はほっと胸を撫でおろすのであった。
 空腹だというケインのリクエストで、冷凍睡眠の前に全員で最後の食事を行うクルー。

 だがそ食事の最中、突如ケインの胸部を内部から突き破って彼を殺しつつ、新たな未知の生物が飛び出すと船内の何処かへと消え去る。

 ケインの頭部に張り付いていた未知の生物は、彼の体内に新たな未知の寄生生物を宿らせ、成長したそれがケインを殺しながら出現したのだ。

 事態の深刻さを認識したクルー達は、潜伏した未知の生物を捕獲する為、船内の捜索を開始する。
 その最中、その生物が巨大に成長したことを示す脱皮した皮を発見した機関員ブレットが、その生物に襲われ姿を消す。
 そして一人‥‥‥また一人と犠牲になってゆくノストロモ号のクルー。
 はたしてクルー達と一匹の猫は、この未知の生物〈エイリアン〉の脅威から逃れることができるのであろうか?





 さて今回は歴史的名作SFホラー映画回です!
 公開されたのは1979年!
 今から40年以上前に公開された映画ながら、今見ても色あせない怖さをもつ名作中の名作にして、2020年代の現代に至るまで後世に多大な影響を与えた作品なのです。


 監督はリドリー・スコット。
 本コーナーで言えばマッド・デイモンが火星に置き去り映画『オデッセイ』を撮ったお人。
 1977年に映画監督デビューして以降、2024年の現在に至るまであらゆるジャンルのあらゆる映画を撮り続けてきた、ハリウッドの映画監督の中の映画監督の一人です。
 その他の代表作は、SF刑事モノ『ブレードランナー』、大阪を舞台にした国際犯罪刑事モノ『ブラックレイン』、剣闘士映画『グラディエーター』、史実を元にした戦争アクション『ブラックホークダウン』、さらに歴史的偉人の伝記『ナポレオン』などなど‥‥‥と、同監督はジャンルを超えて名作を撮りまくってるお方です。
 その監督としての特色は、ジャンルを超えた映画でも変らない映像美とセンスです。
 その映像センスが、ある鬼才スタッフと悪魔合体した結果、本作は誕生するにいたるのです。




 脚本はダン・オバノンというお人。
 後に『スペースバンパイア』『バタリアン』『スペースインベーダー』『トータル・リコール』といったホラーかSFかSFホラーの脚本ばっか書くことになる人です。
 そんな彼の脚本デビュー作が本作なのです。



 音楽はジェリー・ゴールドスミス。
 本コーナーで言えば『LAコンフィデンシャル』『ラストキャッスル』『エアフォースワン』『インナースペース』の他、恐ろしい程の数の映画音楽を担当した人。
 筆者的には『劇場版スタートレック』のメインテーマを作曲したお方です。
 つまりとんでもなく優秀で、彼に任せておけば間違いない人選です。
 本作ではまるでクラシック音楽のようなスローテンポの優雅で穏やかな雰囲気の曲がある一方で、恐ろしいシーンでは極めて不穏で恐怖を煽るBGMを奏でております。





 そして出演者は、ノストロモ号船長にトム・スケリット。
 トム・クルーズ主演の『トップガン』一作目でマーベリックを鍛える教官ヴァイパー役や、ジョディ・フォスター主演のSF映画『コンタクト』の出演が印象深いベテラン脇役俳優のお方。

 ノストロモ号の副長で、エイリアンの最初の犠牲者ケイン役にジョン・ハート。
 このお方も超ベテラン脇役俳優で、前述した『コンタクト』や『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』の他に、『ハリーポッター』シリーズで杖屋を営むオリバンダーさんが有名かもしれません。

 ノストロモ号の三番目の指揮権をもつ有能な女性航海士リプリー役にシガニー・ウィーバー。
 後に『ゴーストバスターズ』のヒロインを演じたり、本コーナーで紹介した名作SF映画『ギャラクシークエスト』や、ジェニファー・ラブ・ヒューイットと共演したラブコメ『ハートブレイカー』や、ジェームズ・キャメロン監督のSFアクション大作シリーズ『アバター』に出ることになる人です。

 さらに船医でノストロモ号の科学主任のアッシュ役にイアン・ホルム。
 ピーター・ジャクソン監督作『ロードオブザリング』シリーズでビルボ・バギンズを演じたことで有名なお方です。
 その他『フィフス・エレメント』の神父さん役なんかが印象深いお人。
 本作ではある重大な秘密を抱えたキャラを身体を張って演じておられます。




 総じて本作のキャストは、スター性よりも演技派を揃えたように感じます。
 そしてその演技が見る者に極上の恐怖を与えるのです。



 そしてそんなスタッフ・キャストによって生み出された本作は、製作費の10倍近い収益と、多大な評価を得、2024年現在の段階で4作目までの続編と2本の前日譚シリーズ、二本の『プレデター』シリーズとのコラボ外伝、そして1作目と2作目の間の出来事を描いた最新作『エイリアン:ロムルス』の公開を控えております。
 ようするにドチャクソ受けたということです!
 まさに映画史に残る傑作!

 ‥‥‥しかしながら筆者が本作を初めて見たのは、公開から10数年も経った後、レンタルビデオででした。
 それくらい古い映画ということもありますが、なによりも怖そうで見れなかったといのが最大の理由です。
 怖そうと評判であり、実際怖く、映画本編を見ずとも、チラリと見てしまう予告映像や、映画誌に乗ってる画像に映るビジュアルだけで充分怖かったからです。

 そもそもタイトルとなった作中登場する怪物〈エイリアン〉の姿が、チラリとみただけでドチャクソ怖い!
 なにあの後頭部! なんで目が無いの? なんで口の中に“口”があるのぉ!!?
 子供が見れる限界を超えています。
 見たらその日から夜眠れなくなる日々決定です!




 しかし筆者もティーンエイジャーとなり、うっかり『プレデター』を見る等の経験をへて、ついに『エイリアン』を見ることに成功すると、なるほどこりゃヒットするわ~と思うに至ったわけです。




 その本作が、ここまで歴史に残る程の名作になり得たのは何故なのか? と今一度考えて見るならば、筆者が思うにそれは“出会いの奇跡”だったような気がします。




 調べたところによれば本作は、脚本を書いたダン・オバノンがまず企画していた映画だそうです。

 そのオバノンの書いた本作の脚本は、あらすじでも分かるとおり、いわば『猛吹雪で閉じ込められた山荘が舞台の殺人モノ』のSF版とでも言えばいいような内容です。
 閉鎖空間に閉じ込められた数人のキャラが、同じ閉鎖空間にいる殺人的なナニかと対峙する物語は、『エイリアン』以前から存在し、さらそのSF版といえば1951年公開の『遊星よりの物体X』という例があります。
 誤解を恐れずに言えば、本作は根幹部分の大筋だけでいえば、その宇宙船舞台版と言えるのかもしれません。
 ちなみに同じ条件が該当する映画には、1968年の日本の映画『ガンマー第3号/宇宙大作戦』なんてのもありますし、さらに後年では本作の影響を受けたのか、物語の舞台を深海基地に移した『ザ・デブス』『リヴァイアサン』などの作品も存在します。

 ようするに閉鎖空間で人を襲う怪物と対峙する話が、人は大好きなのです。
 ダン・オバノンはSF作品としてそれを脚本化したのが凄いのだと思います。
 しかしながら、ただそれだけでは名作は作れません。



 ダン・オバノンが書いた本作の企画は、当時の『2001年:宇宙の旅』や『スターウォーズ』の大ヒットを受け、映画会社によって製作の価値アリと判断され、様々な監督が候補にあがり、紆余曲折を経て当時映画監督デビューしたばかりのリドリー・スコット監督に委ねられることとなります。

 後のリドリー・スコット監督の活躍を見れば、それが本作に起きた一つ目の奇跡だったと言える気がします。
 超映像派のリドリー・スコット監督により、本作は当時でも斬新なSF宇宙観の映像美をもつ作品となったわけですから。
 
 中でも当時斬新だったのは、宇宙船といえば、例えば『2001年:宇宙の旅』のように、最先端科学を駆使した高級ホテルのような小ぎれいなビジュアルだったのが一般的イメージであったのに対し、本作『エイリアン』の主な舞台となるノストロモ号は、科学技術は進んだが、それが当たり前すぎてありがたみが無い世界観の底辺労総者が乗る宇宙船として、小汚く描かれていたことです。

 ようするにツルツルでもピカピカでもなく、どこもかしこも薄っすら汚れているような宇宙船だったのです。
 その底辺労働者が乗る宇宙船とダン・オバノンが書いた脚本に有黙したリドリー・スコット監督が、それを最大限にフォーカスしたことが効いたのです。
 当時最先端の模型特撮技術でノストロモ号の外観を描きつつ、凝りに凝ったハイセンスな内部セットを、リドリー・スコット監督ならではの明暗ハッキリした照明で映すことにより、本作のノストロモは、当時斬新かつ最高のホラー舞台となったのです。



 そして本作を語るうえで絶対に外せないもう一人の人物が、エイリアンやその卵や、その卵から出て身体に張り付くエイリアンの別形態フェイスハガーや、それらが眠っていた異星文明の宇宙船やらをデザインした、スイスが生んだ鬼才芸術家H・R・ギーガーなのです。

 本作の成否は“エイリアン”のデザインにかかっていると確信していたリドリー・スコット監督にダン・オバノンが、HRギーガーの画集『ネクロノミコンⅣ』を見せた結果、彼が本作のエイリアン関連の美術責任者となったのだそうです。

 その結果生み出されたのが本作のきしょくわる~いクリーチャーの数々なのです。
 その機械と生物が混じったような体表ディティールや、性器をモチーフにしたようなシルエットなど、ギーガーのセンスが世に与えた衝撃ははかり知れません。
 またダン・オバノンが書いた寄生する宇宙生物という設定との相性も極まっていました。
 映画製作の仮定で生まれた強酸性の体液という設定も、このエイリアンのビジュアルならそれくらい不思議でない気になるってもんです。
 でも芸術家のギーガーは完璧主義過ぎて現場のスタッフと衝突して大変だったようですけどね。
 結果、H・R・ギーガーは本作でアカデミー賞視覚効果賞を獲っております。


 結果として、本作はダン・オバノンの脚本、リドリー・スコットの監督、HRギーガーの美術という奇跡の組み合わせが、後世に残る傑作を生むことなったのだと思うのです。
 見た人の夢に登場する悪魔を解き放っちゃった気がしないでもないですけどね!







 さてここでいつものトリビアスペシャル!

(※以後の文章には、若干ですが本作中盤以降のネタバレが含まれております)

 映画序盤の異星文明の宇宙船内部で発見された宇宙人のミイラ(スペースジョッキー)。
 人間に比べてものすごく大きな宇宙人かのように映されていますが、実際の撮影時には、子役に宇宙服を着せて〈スペースジョッキー〉と一緒に映すことで〈スペースジョッキー〉の巨大さを演出したのだそうです。




 その異星文明の宇宙船内で発見されるエイリアンの卵、その半透明な卵の中に見える蠢くフェイスハガーは、リドリー・スコット監督の手。

 本作で撮影につかわれたエイリアンの卵やフェイスハガーの生っぽい部分は、食肉工場で入手された牛や豚の内蔵が使われている。

 ケインの胸を突き破ってエイリアンが飛び出すシーンは、まわりの出演者には何が起きるか内緒で撮影したんですって。
 だから映画で見れるのは出演者の素のリアクションということに。

 エイリアンの頭部はよく見ると半透明であり、その奥に人の頭蓋骨のようなものが入っている。
 その頭蓋骨は本物の人骨からコピーしたもの。

 エイリアンのスーツアクターはナイジェリア出身のボラジ・バデージョって人、撮影所の近所の飲み屋でスタッフが見つけた長身の黒人さんだそうです。
 なんと身長は2m18cmだそうで。




 シガニー・ウィーバーは猫アレルギーだったので、ノストロモ号の飼い猫猫のジョーンズを抱えてるシーンでは涙とクシャミで大変だったんだそうな。

 さる事情でリプリーに襲い掛かる船医アッシュが、リプリー殺害に使おうとした雑誌は、日本のエロ本『平凡パンチ』。
 ノストロモ号は〈ウェイランド湯谷社〉という日系企業という設定なことからそうなったんだそうな。

 本作続編『エイリアン2』で、エイリアンはエイリアンクイーンという巨大な個体が産む卵によって繁殖することが判明したが、本作の削除されたシーンでも独自の繁殖方法が描かれている。
 作中でエイリアンによって船内のいずこかへ拉致されたダラス船長や機関員のブレットが、船内に作られたエイリアンの巣の中で、エイリアンの卵へと変容させられつつある姿が映されるシーンがあのだ。
 つまり本作の段階では、エイリアンはさらった人間を卵に変えて増える‥‥‥という設定だったのだ。



 ‥‥‥ってなわけで『エイリアン』もし未見でしたらオススメですぜ!!